第36話
そして、次にアネットとエリーザが会う機会を得たのは、その半年後、帝都で開催される中央同盟諸国会議にヨハン王子が参加することになったときだった。
「3ヶ月も前から準備をするのですか?」
「帝都で粗相があったらいけないからね」
会議に向けた準備開始の指示をヨハン王子が出した夜、ベッドの中でエリーザはヨハン王子に訊いてみた。
「しかし、会議をするだけなのでしょう? 話し合う内容は深刻な事かもしれませんが、会議室に集まるだけのことにこれほど長期間の準備が必要なのでしょうか?」
「本当に会議をするだけだったら二週間も帝都で過ごしたりはしないよ。一種のお祭りなんだ。会議期間中は毎晩舞踏会が開かれるし、昼間も色んな行事がある。狩猟とか、馬上槍試合とかね。中央同盟に参加している国々はどこも自国の威信をかけてこの会議に臨んでくる。使用人を大量に引き連れてきて豊かさを見せつけ、王族や貴族は華やかな格好をして競技やダンスの腕前を競い合う。見栄の張り合いなんだよ。本質的ではないけど、どれだけ見栄を張れたかで同盟の中での格付けが決まってしまうからね。王国も発言権を確保しておかないと」
「それでは、わたしも舞踏会のために準備をしておかなければなりませんね」
「その通り。でも、舞踏会だけじゃなくて、王太子妃として鷹狩とか馬上槍試合も観戦することになってる。なるべく顔を売っておいて欲しい。有形無形の観戦マナーがたくさんあるし、雑談力も問われるから、鍛えておいて」
「分かりました。精進いたします」
「人脈を作っておけば、どこかで他国の機密情報がほろっと漏れてくるものだよ」
ヨハン王子は鋭い視線でエリーザを見つめる。
エリーザは少し笑って、身体ごとヨハン王子に近づいた。
それから、中央同盟諸国会議までの時間は瞬く間に過ぎていった。
帝都までの道のりは六頭立ての馬車を何台も連ねて進み、王都に着くやいなや他の同盟諸国の要人たちに挨拶回りをする。初日はそれだけで終わってしまう。
二日目は狩猟が行われ、ヨハン王子は新調した猟銃で参加していた。エリーザは各国の貴婦人たちと談笑しながら親交を深めつつ、召使が状況報告のために森から戻ってくるたびに旦那の戦績を自慢したり肩身が狭くなったりしていた。ヨハン王子は好成績を収め、たくさんの獲物を従者に抱えさせて戻ってきていた。優勝は帝国の第三皇子だった。
三日目と四日目には馬上槍試合が催された。王国からはヨハン王子と騎士団の精鋭が参加して、ヨハン王子が快進撃を見せていた。準々決勝に勝ち、準決勝で帝国の騎士に敗北し、三位決定戦も帝国の皇族に敗れて結果は四位だった。
帝国への気遣いも大変ですな、と王国の騎士の一人が呟いていたのを聞いて、なるほど、とエリーザは合点する。




