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第27話

「二人にさせて」


アネットはエリーザを送ってきた使用人にそう告げると、使用人の鼻先で扉を閉めた。

それから、いかにも男性が惚れそうな笑顔をエリーザに向ける。


「バルコニーで話しましょう」


エリーザは首肯して、アネットは笑顔を爛漫に輝かせる。

アネットがガラス張りの扉を開けて、二人はバルコニーに出た。

夜空は満月と星々に彩られ、その光が広い庭園をうっすらと照らしている。


「素敵な眺めね」


エリーザは率直な称賛を声にした。

アネットは扉を閉めると、まるで人が変わったように、鼻を鳴らして嘲笑した。


「気分が良いときはどんな風景も素敵に見えるものよ」


アネットはテラスの柵に体重を預けていて、その横顔は嫌悪の感情に満ちている。

これでもかと愛想を振りまく普段のアネットならば決して見せない表情だった。


「そうかしら。わたしは不躾に呼び出されて気分が悪いけど、それでも、この風景は綺麗に見えるわ。どんな気分のときでも綺麗なものを綺麗だと言えるのよ。心の綺麗な人間はね」


春の夜に、たった二人で夜風に当たっている。

そんな状況がエリーザを強気にさせていた。


どうせ何をされるか分かったものではないし、いまさら畏まってみても意味がないだろう。


エリーザの強気な態度に、アネットは驚いたようだった。

目を見開いて、そしてエリーザに問いかける。


「ねぇどうして、本当に一人で来たりするの? ヨハン王子のときも、わたしのときも」


彼女の言いたいことはつまり、なぜ年頃の貴族の娘が「一人で来い」という手紙を受け取って本当に一人で来てしまうのかということだろう。


王子からの手紙だって、アネットからの手紙だって、偽物の可能性もあった。

一人で行ってみたら誘拐されるなんて可能性もあっただろう。


たとえ王子らの手紙が本物でも、王子の人柄によっては強姦されるかもしれなかった。

王室の権力があれば、そんな事件はいくらでも揉み消すことができるだろう。


アネットからの手紙だってそうだ。結婚話を破綻させるため、野良男をけしかけてエリーザを傷物にするということだってできる。

そういう、逆恨み的報復の極致が待っている可能性だってあったのだ。


「それでも行くしかないわ。だって、手紙が本物で、本当に大事な用事があって呼び出されているのなら、無視するわけにはいかないもの。王族やマリナ家のような高級貴族に、『サヴァツキ家の娘は高慢にも呼びつけを無視した』なんてことを吹聴されたら貴族の世界でサヴァツキ家の居場所がなくなるわ。それが泡沫貴族の生き方なの」

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