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第25話

そんなことを思いながら、エリーザは心の中で神へ祈りを捧げていた。


「顔を上げたまえ。愚息がエリーザ殿を誘ったという経緯は聞いている。エリーザ殿に責任はない。もちろん、サヴァツキ家にも」


ぱっと顔を上げたエリーザの目の前で、国王はなおも柔和に笑っていた。

笑い方だけは父親似なんだよ、とヨハン王子が愚痴っていた笑顔だった。


そんな笑顔をひときわ厳めしい表情で睨みつけているのが当のヨハン王子だった。

都合の言いことばかり言いやがって。そう思っているときの顔だった。


「エリーザ殿を呼び出したのは、折り入ってお願いがあるからだ」


咳払いの後、国王は真面目な顔に戻ってサヴァツキ家の三人を順番に見る。


「エリーザ殿を愚息の嫁に貰いたい」


口をぽっかりと開けたまま、エリーザは国王の顔を見つめていた。


そのとき、ふぐっ、というこの厳粛な雰囲気に似つかわしくない音が部屋に響いた。

エリーザが跪いた姿勢のまま横を向くと、アネットが両手で顔を覆って泣いていた。


その姿勢は美しく直立したままで、けれども、肩は少しだけ震えていて、顔をやや俯けて泣いている。


「申し訳ございません。申し訳ございません」


とても小さな声でアネットはそう繰り返していた。


「ヨハン王子殿下はアネット様と結婚なさるのではないのですか」


エリーザは再び国王に顔を向けて尋ねる。

国王は弱りきった表情になり、視線でヨハン王子に助けを求めた。

ヨハン王子は小さく首を横に振って自分の口から言うように促す。


「アネット殿はマキシミリアン皇子に嫁ぐ。一昨日、帝国側から話が来た」


国王はぼそぼそとした声でそう言った。

アネットはまだ泣いている。

王子は沈痛な面持ちでアネットの様子を見ていた。


長い沈黙の後、国王はエリーザの父に向って言った。


「エリーザ殿の話については、是非、お引き受け頂きたい」


そして、エリーザの父が口を開く前にヨハン王子が付け加える。


「王国の趨勢はこれから難局を迎える。前途多難な時代に、王国を支える王太子妃になれるのはエリーザ殿だけだとわたしは確信している」


国王よりも遥かに威厳のある声色で、ただ言葉を発するだけで空気が引き締まる。

エリーザの父もそれに対抗するように、精一杯の厳粛さをもって受諾の返事をした。


けれども、父は空意地を張っているに過ぎない。


王子を軟禁までして国王自ら破綻させた娘との関係を、一番目の婚約者が使えなくなったからといってご都合主義的に復縁させる。


そんな屈辱的な要請を飲まなければ生き残っていけないのがサヴァツキ家の立場なのだ。そして、どんなに屈辱的な経緯があったとしても、本当に王太子妃を輩出できるならこのうえない昇進の機会をサヴァツキ家の縁者一同が得ることになる。

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