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第23話

けれども、エリーザの身体からは何かを考える気力が奪い去られていた。


「あとで考えるから」


うわの空でそう言って、しばらくお待ちください、という返事を姉に書かせる。


そんな調子で、ヨハン王子とアネットの結婚が決まってから3週間が経過した。


王国の次代を担う聡明で眉目秀麗な王子と、狡猾な手段で王太子妃の座を手にした華やかな美貌を持つ高級貴族の娘。二人の結婚話は王国中にゴシップ的な熱気をもたらしていた。結婚式に向けた大掛かりな準備の過程や、豪勢な嫁入り道具の数々、莫大な持参金の金額が話題を攫い、噂には尾ひれ背びれがついて王国中に拡散していく。新婚旅行の行先を巡って各地で賭博も行われていた。


そして、王宮では要職を巡る争いが激化しているらしかった。 

あの公明正大なヨハン王子といえど、妻の実家を蔑ろにはできない。

マリナ家やその親類を大臣に起用せざるを得ないだろうという憶測が飛び交っていて、大臣候補たちが下位の役職をどう分配するかに注目が集まっている。

王宮の周辺ではあの手この手による媚びへつらい合戦が佳境を迎えているらしい。


この頃、エリーザは父や兄からエリナ家関連の噂を積極的に聞くようにしていた。

本当は聞きたくなんかないのだけれど、胸が痛くなるのを誰にも悟られないように我慢しながら話に耳を傾けていた。


なぜエリーザが王宮の人事に関心を示すのか。それは義務感からだった。


三週間が経ち、エリーザはサヴァツキ家の娘としての振る舞いを思い出し始めていた。

もう一度初心に返って、いい結婚相手を見つけなければならない。求婚の手紙を一つ一つ読んで、相手の人となりや将来性をちゃんと理解して、結婚相手を選ぼうと意気込んでいた。


幸いなことに、社交界に放り出されてすぐのあの頃とは違って、エリーザは求婚される立場になっている。ヨハン王子と過ごした時間は無駄だったどころか、自分に対して余りある評価を得るきっかけになってくれたのだ。


とても濃密だったけれど、もう過ぎ去ってしまった時間。

それを肯定的に捉えて、次の段階に颯爽と進んでいく。


そういう気持ちに切り替えられるようになってきたちょうどこのとき、エリーザは王宮から呼び出された。


正確には、「エリーザ殿に関連する重大な事柄」でサヴァツキ家が呼び出されていて、父と長兄に連れられてエリーザは王宮に向かった。


馬車の中は異様な空気に包まれていて、あまりに重い雰囲気に誰も口を利かなかった。

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