第22話
王都に戻ると、ヨハン王子はすぐさま王宮に連行され、エリーザは国王の使者から故郷へ戻るよう指示を受けた。
エリーザはその指示に従うため、サヴァツキ家が王都に保有する小さな邸宅に寄り、そこで馬車を用意してもらって田舎へと帰った。
王都の邸宅でも、そして故郷でも、エリーザの家族や親類、家臣たちはエリーザを暖かく迎えてくれた。
「王子を誑かしたなんて噂されておりませんこと?」
エリーザが長兄に尋ねると、
「それが逆なんだ。あのヨハン王子がそこまでの覚悟で惚れこんでいるということに感銘を受けた一部の貴族がエリーザ派に転じてる。これまで結婚争いを知らなかった主要都市の中産階級も今回の騒動をきっかけにアネットとエリーザの話を聞きつけていて、俄然、エリーザを支持する声が大きい。エリーザは良くやったよ、誇るべき妹だ」
長兄はそう言ってエリーザを慰めてくれた。
サヴァツキ家に迷惑が掛かっているわけではない。
それを聞いてエリーザは一安心したけれど、もう一つの大きな不安は高まるばかりだ。
「父上がお呼びです」
部屋に入ってきた執事がエリーザと長兄にそう言って、二人は顔を見合わせた。
「ヨハン王子のことだろうな。心配するなとはとても言えないけど。気を強く持とう」
エリーザの顔色から悟ったらしく、長兄はエリーザに対してそう声をかけた。
父から知らされたことは、エリーザの不安をどこまでも押し広げる内容だった。
ヨハン王子は王宮敷地内の塔に軟禁されていて、外界との連絡が取れない状態にある。
噂によると、アネットと結婚するよう国王夫妻から説得されているらしい。
それから、ヨハン王子についての情報を得られないまま一ヶ月が過ぎて、季節がすっかり春らしくなった頃、ヨハン王子がアネットとの結婚を決意したということが王宮からの使者を通じてサヴァツキ家に伝えられた。
「結局、負けたのね」
王都郊外に建てられた邸宅の一室。その一階にある小さくはない部屋。その中にはエリーザと侍女のドロテだけがいる。エリーザが座る椅子の前には丸テーブルが置かれていて、紅茶が湯気を立てている。
エリーザは気丈に振る舞おうと努力した。膝の上に置いた拳をぎゅっと握りしめて、我慢に我慢を重ねた。
けれども、そんな我慢は数十秒ともたなかった。エリーザは肩を震わせ、大声で泣いた。とめどなく流れる涙を手で抑えることもしなかった。背中を丸め、頭を抱えてわんわんと咽び泣いた。
その後、ドロテの言う通り、あのヨハン王子が見込んだ女性として、エリーザのもとには結婚の申し込みが殺到した。




