第21話
そして、こんな生活がどれくらい続いたかというと、それは僅か一週間のことだった。
八日目の朝、シュタイン卿の使者がエリーザたちの泊る別荘に駆けこんで来たのである。
「どうしたんだ」
合言葉を交わし合った後、ヨハン王子は入口扉を開けて使者を迎えた。
「シュタイン卿より手紙を預かっております」
使者は跪いた体勢から手紙をヨハン王子に差し出した。
「父上は乱心が過ぎる。いますぐ王宮に帰るぞ」
「馬車を用意しております。どうぞこちらへ」
使者が手で示す先には、六頭立ての豪華な馬車が鎮座していた。
「さすがはシュタイン卿だ」
王子はそう言いながら、早足に玄関から出て客車に乗り込む。
エリーザもその後を追い、シュタイン卿の使用人に手を取られて客車に乗り込んだ。
「何があったのでしょう?」
馬車が走り出すと、エリーザはヨハン王子にそう訊いた。
「俺に政治を任せられなくなって困ったから、父上は俺の代わりにクレーデン卿を摂政に任命したらしい」
「王室の親戚筋ですよね? 高級貴族の中でも筆頭格で、非常に気前の良い方だとか」
「気前が良いなんて表現を使うべきじゃないよ。親戚なのが恥ずかしいくらい、堕落の権化みたいな男だ。名誉欲の塊で、王国の将来を考えられるような人間じゃない。気前が良いっていうのは、他人の歓心を買うために誰も彼もに宝石や装飾品を送ったり、世界中の珍しい食べ物や酒を集めて毎晩のように晩餐会を開いて惜しげもなく振る舞ったり、大量の使用人を引き連れて長々と旅行をして、そういう旅行に他の貴族を従えて行くことを言ってるのかもしれないけど、あれは単なる無謀な浪費だ。領地から過酷な徴税をして、それでも足りないからって外国の商人から借りることで資金を調達してる。どうしようもないやつなんだよ。そんなやつに王室の財政を握られるわけにはいかない」
ヨハン王子の表情には珍しく怒りの感情が表れている。
気圧されたエリーザが何も言えないでいると、
「エリーザも何かされなかったか? 彼は女性貴族に気に入られるためなら何でもやる男だからね」
厳しい顔つきのままヨハン王子はエリーザに訊いた。
「一度だけ晩餐会にお呼ばれしましたわ。それ以来、何にもお誘い頂けていないのですけど」
エリーザが正直に答えると、
「きっと媚びが足りなかったんだろうな。それでいい」
ヨハン王子はなおも厳粛な雰囲気を身に纏いながらエリーザにそう言って、それから視線を正面に向ける。
「彼の人望はグレーデン卿という人間にではなく、お金に集まっている。彼がそれに気づいているのかは分からないけれど、彼の行動は自分の名誉のためでしかない。いつもちやほやされていないと生きていけない人間なんだ。王国のため、民衆のために彼が働くことはないだろう。そんなやつに王政を任せるわけにはいかない」
ヨハン王子は自分に言い聞かせるようにそう語った。




