95話『隠れ家』
宿を出て、街へ繰り出した四人。
辺りはもう暗くなり始めているが、相変わらず人通りが多く賑わっている。
露天は閉まっている所が増えてきているが、代わりに飲食店や屋台等が増えた。
昼と夜で商売を変えるのか、経営者ごと変わっているのか。
どちらにせよ無駄のないシステムである。
「どうする?何が食べたい?」
フィーダがみんなに尋ねる。
「野菜かな…」「肉!肉!!肉でしょ!!」「いい意味でなんでもいい」
順に、アリス、ミナ、ハルである。
「なんでもいいが一番困るが…なんでも食べれる所がいいな。さてどうしたものか」
フィーダは口元に手をやり、思考を巡らせる。
「こーゆー時は地元の人に聞くのが一番じゃないかな?」
ハルが言う。
「ほいきた!合点っ!!」
するとミナが駆け出し、少し先の露天の果物を一つ手に取り、話しかける。
「お父さん、これちょーだい♪」
にっこりと笑い、小首をかしげるミナ。
あざとい。
「ほいきた、200エルだよ」
「はい♪夜ご飯食べようと思うんだけどー、いいお店知らない??」
そう言って果物の代金を払い、尋ねる。
「だったら3つ先の角を左に曲がってすぐにある『それほど亭』ってとこがいいぞ。牛の看板が目印だ」
「ありがとー!」
教えてくれた露天のおじさんにウインクし、立ち去ろうとすると、さらに声をかけられる。
「お嬢ちゃん待ちな!今日はもう店じまいでな。よかったら持ってけ」
そう言って露天のおじさんは袋いっぱいの果物をくれた。
「ほんとに!?ありがとー♪明日の買い出しもここに来るよっ」
「おうよ!気を付けてな!あ、店の扉を開けたら、一度閉めてそれからまた入るようにな」
そう言って露天のおじさんに手を振り、戻ってくるミナ。
「なんかねー、3つ先に角を左の『なるほど亭』?とかって所がおいしいって!あとこれ貰った!明日の買い出しもあそこに行こうね」
ミナは満面の笑みで戦利品を掲げる。
「すげぇな…ミナはどこ行っても生きていけそうだ」
あっという間に情報にお土産まで貰ってきたミナに驚くハル。
「敵を作らないタイプだな。王女としては必要な能力なのかもしれん」
フィーダは何か納得したのか頷いている。
「いい匂い、甘そう!」
アリスは果物を手に取り、匂いを嗅ぐ。
「とりあえず、向かおうか」
「「「はーい!」」」
ハルの声に一斉に返事をし、移動し始める四人だった。
◇
それらしき店を見つけ入り口まで来た四人。
看板を見ると、『それほど亭』と書いてある。
「ここかな…『それほど亭』…全然違うじゃんミナ!!」
「あっれーおかしいな…まんざら亭じゃなかったっけ…」
「いやいやまた変わってるし!なるほど亭はどこ行った!?」
またしても変わってしまった店名に、思わず突っ込みを入れるハル。
「それにしても…すごい看板ね…」
アリスがなんとも微妙な顔で看板横の絵を見ている。
身なりのいい牛がナイフフォークでステーキを食べている。
「お嬢様、ポークステーキかもしれませんから」
「いやそれもそれで問題じゃない?」
フィーダの苦しいフォローだが、アリスの気持ちもよくわかる。
なんとも哀愁漂うと言うか、不思議な気持ちに強制的にしてくれる看板だ。
「と、とにかく入ろうか」
意を決して、恐る恐る扉を開けるハル。
「っっっしゃぁぁぁあっっせえぇぇぇえええ!!!っお入りでぇぇぇす!!!」
扉を開け、中へ入り、店員と目があった瞬間に爆音が襲ってきた。
「っなっ!っなに!??音響兵器!!?帝国の復讐!?」
耳の良い獣人は、突然の大音量で混乱してしまったようで耳が垂れ、眼を回している。
「あらららら、ミナ、大丈夫??」
なんとか抱き止めるアリス。
ハルもきーんと耳鳴りがしている。思わず頭を振るハル。
「すまない、連れが獣人で耳が良すぎてね、少しだけ抑えてもらえると助かる」
フィーダの言葉に店員は何かにはっと気付いたようで、申し訳なさそうに首に手をやり、静かに喋りかける。
「 」
にっこりと笑い、口が動く。そして手であちら、と案内する店員。
極端か!小さすぎて聞こえねぇよ!
歩きだした店員に、とりあえず着いていく四人。
ミナはまだフラフラしているようだ。
席に着き、飲み物と食べ物を注文し、『食の街』の夜ご飯が始まった。
「あ"っ"つ"い"に"ゃ"ぁ"!"けどおいしい!お肉がすっごい軟らかい!!」
復活したミナが熱々の骨付きの肉にかじりつきながら叫ぶ。
もはや一人熱々おでんコント状態だ。
「このトマト甘さと酸味がちょうどいい…トマト オブ トマトね…」
アリスはトマトを食べながら悦に入っている。
「あぁ…このワイン飲みやすい…いくらでもいけそう」
頬を染めたフィーダが鼻唄を歌いながら楽しそうに言っている。
いくらでもいかれるのは非常に困るが……大丈夫だろうか。
いや、さすがにフィーダなら大丈夫だろう…。
考えながら、アリスが取り分けてくれた料理を口に放り込む。
「うんまっ!!」
思わず声に出てしまうハル。
なんだこれは!?!?
楽しい食事はまだまだ続く。




