94話『北の街』
ニアフォレストを出発して数日後。
王国最北端の街、ファムノースへ到着した。
「ファムノースに着いたぞ!ここで補給だ」
御者をしていたフィーダが声をかける。
寝ているのだろうか、うずくまったミナのしっぽだけが揺れている。
アリスはミナの頭を撫でている。
美少女が猫耳女性の頭を撫でておる…
眼福…眼福じゃあ……。
おっといけない。
「どんな、街なんだっけ??」
ハルがアリスに聞く。
「ファムノースは地理的に魔物や魔獣がほとんど出なくて、大きな農場がたくさんあるの。王国の食料事情はここ次第、ってくらい重要な街だよ」
アリスが答えてくれた。
帝国からも遠い場所にある。
ある意味王都と同じくらい重要な場所だからだ。
「さて、それでは入るぞ」
フィーダが馬車をゆっくりと走らせる。
門の所で止まるが、手続きもいらず、簡単なサインだけで入ることができた。
ディアセイント家馬車の威力は凄まじい。
ゆっくりと街の中へ入っていく。
街の中は……普通だ。
冒険者向けの店ばかりのニアフォレストや、出張ドワーフの国とも言えるサウスワークに比べると、地味にみえる。
だが、よく見れば大通りに沿って、たくさんの出店か並んでいる。
様々な動物の肉や野菜、果物から魚、木の実からスパイスまで、とにかくたくさんの食料品がところ狭しと並び、しかも出店のほとんどが同じように食料品だ。
「なるほど、食の街か!」
たくさんの食べ物を見たハルが言う。
「王都の貴族達は『美食』なんて言って贅沢をするけど、本当に美味しいものはこの街にあるからね。『食の街』だかな」
アリスが答える。
なるほど、作っているから本当に美味しいものがあるし、自然と集まるんだな。
漁師が船の上で作る海鮮丼!みたいな、その場でしか食べられないようなものもあるだろう。
「やすいよ!やすいよ!!」
「新鮮だから生でも食べれるよこれは!」
店主や客の声で賑やかな雑踏を、ゆっくりと馬車は進んでいく。
「……いい匂いがする」
ミナがむくり、と起き上がり、鼻をすんすんと鳴らす。
「おはよう、宿に着いたら馬車を置いて散策しましょうか」
アリスがミナに優しく言う。
「やった!!美味しいもの!!」
アリスの言葉に、ミナは一気に覚醒したようだ。
アリス、最近お母さんみたいになってきてないか…?アリスの母性か…ミナが子供なのか…。
馬車は進んでいき、宿屋へ入る。
宿の手配をしにいく四人。
「いらっしゃいませ」
店主がにこやかに笑いながら言う。
「馬車を預けさせてほしい。四人なんだが」
フィーダが店主に言う。
「四人部屋でよろしいですか?」
と、言った所で最後にハルが入ってきた。
「できれば1人と3人に別れたい」
フィーダは遅れて入ってきたハルに視線を送り、店主に言う。
「お一人は男性でしたか。ん~…申し訳ございません、一人部屋はいっぱいでして。四人部屋か、二人部屋二つのどちらかですかねぇ」
店主は宿帳と空き状況を確認し、申し訳なさそうに言う。
「もったいないから一緒でいいでしょ?」
ミナが言い、さらに言葉を続ける。
待て、何を言う気だ…それ以上はダメだ!
「今まで私と一緒の部屋だったし」
あっけらかんとした表情でミナが言う。
「えっ?」「なっ!」
アリスとフィーダから声が漏れる。
「いや、あれは空きがなくて仕方なく…」
まずい、全く悪いことなどしてないのにこの雰囲気はまずい。
「えっ、ほんとに一緒の部屋?」
アリスがミナに問いかける。
「って言うかなんなら一緒のベッド、みたいなー?」
ミナが明後日の方向を見ながら言う。
アリスが一層、心配そうな顔になる。
ダメだ、もう我慢ならん!
「ミナが酔っぱらって朝まで吐き散らかしてた時の事かぁ~!?誰が介抱して部屋の掃除までしたんだっけ!?」
「うっ……。その節はすいませんでした…」
真実を言われたミナは小さくなる。
「はぁ~…そういう事か…」「やはりそんな所か」
アリスが胸を撫で下ろし、フィーダは小さく笑う。
「あの~…どうされますか??」
店主が苦笑いで尋ねる。
すっかり話が逸れてしまった。申し訳ない。
「あぁ、四人部屋を一つと二人部屋を一つ。二人部屋にハルが一人で入ればいい。それでいいか?」
フィーダが皆に尋ねる。
「「「はーい」」」
三人の返事がそろう。
ディアセイント家であるアリスとフィーダは言わずもがな、ハルはセキチク、パーペチュアルでの魔獣退治、ニアフォレストの魔物大軍団と大仕事ばかりこなしていたので金銭面での心配は全くない。
ニアフォレスト防衛戦の報酬はもらったばかりだが、かなりの金額だった。
ハルに同行していたミナも同様だ。
「ありがとうございます。では少し割引しておきますね!」
店主が笑顔で言う。
「ありがとう。しかし一人部屋だけ満室なのか」
フィーダが気になった事を尋ねる。
「えぇ、闘技大会が近いので。出場されるお一人の方が各国から」
「あぁ、そんな時期だったな。すまない、ありがとう」
「あの、それともう一つ…」
店主がミナをチラチラと見て言いづらそうにしている。
「何なに、惚れちゃった!?」
視線に気付いたミナがセクシーポーズを取る。
と、何かを察したアリスが店主に言う。
「あ、吐くほど飲ませませんので安心してください。私がいますので」
アリスが申し訳なさそうに言うと、店主も申し訳なさそうに笑顔になる。
「ははは、ミナが吐くかの心配だってさ!」
ハルは笑いながら言う。
ミナはがっくしと肩を落とす。
「ハルが余計な事を言うからでしょ…」
「最初に余計な事を言ったのはミナだよ」
「もう、こんな所でケンカしないの!美味しいもの食べに行くわよ!」
アリスが言って宿屋を出る。
やり取りを見て、ははは、と笑うフィーダに肩を叩かれ、二人も宿屋を出るのであった。




