91話『北へ』
ニアフォレストを出発した四人は神聖法国アークライトを目指し、北上していた。
「と言うことで出発した訳ですが、まずはファンテジア王国の北の街、ファムノースへ向かいます」
フィーダ先生から旅の注意だ。
「「「はーい」」」
三人が返事をすると、先頭からも聞こえてくる。
「ひひん」
馬車を引くシルバーからだ。
ハルとミナがエルフの国へ行ってる間は預かってもらっていたが、帰ってきてそのまま防衛戦になったため、なかなか会うことができなかった。
どうやら避難民の馬車を引いたりと、シルバーもがんばってくれていたらしい。
ハルやアリスが引き取りに行くと、大きく嘶いて全身で喜びを表していた。
特にアリスに会えたのが嬉しかったらしく、シルバーはずっとご機嫌であった。
ハルがシルバーの首をなでる。
「よかったな」
「ひひん」
まぉ再会後に、うまい物を食べさせろと要求されて大変だったのだが。
「で、そのファムノースとやらはなんかあるの??おいしいものとか」
ミナが尋ねる。
「ファムノースのパンが最っ高よ!~私も大好きなの」
アリスが目を輝かせながら言う。
「そう…パン…好きだけどね…」
「作物だけでなく放牧なんかも盛んだから肉料理もおいしいぞ」
フィーダが付け加えると、ミナのテンションは無事回復していた。
「それはよかった!やっぱり肉がなくっちゃね♪」
やはりこの辺は獣人、肉食である。
新しい街の名物や特産を味わうのは、旅の楽しみだ。
発見であり、未知との遭遇に近い。
そんな食への談義が続き、落ち着いた雰囲気で馬車は進んだ行った。
◇
その日の夕方
「折角だから訓練も兼ねて手合わせしない?」
夕食後、アリスが言った。
「そうだね、離れてる時間もあったし、ミナの事もあるしね」
ハルはミナとずっと一緒にいたので問題ないが、アリスとフィーダはかなり久々だ。
お互いに、どれだけやれるのか知っておく必要があるだろう。
「いいわよ。どうせならフィーダとやりたいわね。やったことないでしょう?」
ミナが肩を回しながら、牙を出して笑う。
「かまわんぞ。そういえばミナは魔身機には大分慣れたようだな」
「ハルと連携するためにずっと乗ってたからね、魔身機でもなかなかのもんよ!」
「それは頼もしいな。よし、では始めよう。ハル、合図を頼む」
二人が相対し、構える。
空気が一変して、張り詰めていく。
「始め!!」
ハルが大きく宣言した。
「先手必勝っ!!」
叫ぶや否や、ミナは地を這うかのような低い姿勢で一気に駆け出す。
身体能力に優れた獣人がさらに魔力で強化した速さだ。
並みの冒険者や魔物では反応すらできないであろう速さ。
「後の先という言葉がある」
対してフィーダは、全く焦らず堂々とした構えだ。
どんなに速かろうが、速いことが分かっていればそれなりに対処はできる。
それが経験というものだ。
フィーダは土魔法で弾丸を放つ。
無数の弾丸がミナに対して放たれるが、完全に見切っているのだろう、ミナはほんの少しの動き、くぐったり反らしたり、弾いたりで回避しつつ、弾丸の中を前進してくる。
「いい目をしている!」
ミナの前進スピードも計算にいれた上で、剣の届く範囲に入るギリギリのタイミングで剣を振るうフィーダ。
◇
(ギリギリ当たる…)
フィーダの剣は少し遠い距離からだと思ったが、おそらく当たることを察知したミナは地面を横に蹴り、右へステップする。
それすらも超高速で、目の前至近距離で見れば消えたように見えるレベルだろう。
ステップし、そのまま踏み込むミナ。
渾身の回し蹴りを放つが、絶妙なタイミングで後ろに下がるフィーダ。
下がりつつ、上段からの切り下ろしがミナの頭上に迫る。
振り下ろされる剣を、空中で横から打ち払うミナ。
打ち払った次の瞬間、フィーダの、突き込むような足刀蹴りが迫っていた。
(避けれない…!)
完全な回避が難しいと判断したミナは、全力で強化した左腕でなんとかガードする。
蹴りの勢いで吹き飛ぶミナ。
(くっ…ちょっ…!)
飛ばされている最中にも地面から弾丸が放たれる。
小さく丸くなり、回転しながら目を凝らして全て打ち払うミナ。
「油断も隙もあったもんじゃないわ!あぁ腕が痛い!」
着地したミナはじんじんと痺れる左腕を振り回しながら言う。
ミナが押せば引き、引けば押してくる。
しかもミナの攻撃に対して、一瞬で最適解を出しつつ、さらにその次の一手まで打ってくる。
なんともまぁやりづらい。とにかくペースを握らせてくれない。
と、フィーダが口を開いた。
「全て回避するとはな…たまげた反射神経だ。しかもお土産つきとは」
フィーダは油断なく構え、ミナに言う。
よく見ればフィーダの足首の鎧が凹んでいる。
ミナが蹴りを食らう瞬間に一発入れていたらしい。
それで蹴りの威力が多少殺されていたようだ。
なんともまぁ目にも止まらぬ早業である。
二人ともニヤリと笑い、据わった目で構える。
「…そんなもんでいいんじゃないですかね」
ハルが二人を止めた。
ノッてしまうとこの二人は止まらない気がしたからだ。
「…ふむ、まぁいいか。ありがとう、ミナ」
「そうね、またお腹空いちゃうし」
そう言って二人は握手をするのだった。
「フィーダがあれだけ色々やったのにほとんど回避しちゃうなんて…ミナも強くなったね!」
アリスが言う。
戦い方は当然フィーダの方が上手い。
相手に選択肢を与えず、詰めていく。
だが、それを尽く回避したミナの反射神経と身体能力も凄まじい。
理性vs.野生の頂上決戦のような戦いだった。
反省点や改善点、連携等を話ながら夜は更けていった。




