89話『街の様子』
宴会は意外にも早めに終了する。
と言うのも、冒険者達の疲れが限界すぎてすぐに酔いつぶれてしまったのだ。
当然と言えば当然ではある。
それでも楽しそうに、嬉しそうに酔いつぶれていく宴会は、やはりやらなければならなかったのだろう。
ミナが酔いつぶれて寝てしまったので、ハル達も早くに解散になった。
◇
次の日、ハル達は再びギルドへ来ていた。
というかギルドへ来ないと何もできないし、手伝える事などいくらでもあるだろう。
ミナは二日酔いだったので置いてきた。
「おはようございまーす…」
ハルがギルドへ入ると、職員達が慌ただしく走り回っていた。
「ハル様~おはようございます~」
受付嬢さんがほんわかと言う。
昨日、魔身機に乗っていた時は口調が違った気がするが、まぁ戦場特有の昂りだろう。
きっとそうに違いない。
「何かお手伝いできますか??」
ハルはイアに言う。
「すいません…でしたら壁の補修を…昼過ぎには住人や職人なども戻ってこれると思いますので~…」
イアが申し訳なさそうに言う。
「もう戻るんですか!早いですねぇ。それはよかった」
街の住人がもう戻ってくるそうだ。
まぁ住人がいなければ街が回らないのだから早く戻るに越したことはないのだが、あまりの早さに驚いた。
「じゃあ行ってきますね。現場に誰かいますか??」
「すでに兵団や騎士団の方々が作業を始めてますので、一緒にお願いします~」
「わかりました~あ、誰か訪ねてきたら壁に居ると伝えてください!」
「かしこまりました~」
イアが礼をするのを確認すると、ハルはギルドを出ていく。
壁は破損だらけだが、街事態には被害はほとんど出ていない。
街の人が戻ってくるならばこそ壁は早めに直しておきたい。
「こんちは~ギルドから来ました。手伝わせてくださ~い」
ハルが言うと、何人かがこちらを向くが、すぐに作業に戻っていく。
「ありがとよ!んじゃこの瓦礫を向こうまで運んでくれるか?」
温和そうな兵士がハルに答える。
壁自体を土魔法で強化しながら修復しているようで、想像以上に早く終わりそうだ。
黙々と作業に励むハル。
と、離れた場所で壁を直している兵士達がおしゃべりを始めた。
「しかし、昨日の襲撃はすごかったな…」
「あぁ…俺たちが来るまで本当によく守ったよ。冒険者もすげぇな」
「全くだ。特にアイツ、赤い魔身機の。『炎刃』」
「名前はハル…だっけ?出てくる魔獣を片っ端からばっさばっさと斬ってたもんな。ありゃ半端ねぇわ」
「ほら、こないだの『竜堕軍』を一刀両断したってのも『炎刃』だよ。『雷神』の弟子らしいな」
「眉唾だと思っていたが、目の前でアレを見せられちゃ信じられるわ…一回会ってみたいもんだなぁ」
兵士達は、うんうんと頷きながら作業している。
そんな兵士達を、壁の上から見ている人物が一人。
「貴方達、偉いわね。これをあげるわ」
急に頭上から声をかけられた兵士達が上を向くと、猫のような耳の生えた女性…、嬉しそうな顔をした獣人が視界に入る。
「誰だ?…ちょっわっ!」
「美人だなぁ…っとっと!」
兵士達がそれぞれ言いかけた所で、上からドリンクが降ってきた。
なんとかキャッチする兵士達。
「くれるのか?すまんな」
「よかったらご飯でも行きませんか~?」
二人が言う。が、
「ドリンクはサービス♪ごめんね、連れがいるから」
ミナはそう言って小さく舌を出すように謝ると、大きな声で叫ぶ。
「ハルーーー!!お昼にしましょーーー!」
女性が声をかけると、下にいた青年がキョロキョロとする。
「…この声は…ミナ?ありがと!わかった、そっち行くよ」
壁の下で働いていた青年が返事をする。
「えっ?今ハルって…」
「まさか下に居るのが…!?」
ミナが呼んだ人物の名前に反応する兵士達。
「いいよー!私が行くっ♪」
そう言ってミナは飛び降りる。
「!ちょっ!!…っと!…もう。無茶しないでよ」
なんとか抱き止めたハルが言う。
「信じてるから♪さっ!行きましょ~アリスとフィーダも待ってるから」
ミナは振り返り、壁に張り付いている兵士2人にウインクすると、バイバイ、とでも言うかのように小さく手を振り、行ってしまった。
「まじかよ…炎刃が下で瓦礫掃除してたぞ…」
「美人だったなぁ…」
二人は意外な出会いに、それぞれ言い、最後の言葉は重なった。
「「いい出会いだったなぁ…」」
向ける先は多少差異があったように思うが、二人共心なしか幸せそうであった。
◇
通りに面した飲食店のテラス席に二人は座っていた。
「む、来たか」
「二人ともこっちこっち」
近づいてくるハルとミナを見つけたフィーダとアリスが言う。
お店だけ決めていたようで、キョロキョロとあたりを見渡していたが、二人の声で見つけられたようだ。
「おはよう、遅くなってごめんね」
ハルが二人に言う。
「いや、今来たところさ。」
「二人にも同じランチ頼んでおいたからね」
言いながら、アリスが水をくれた。
「ありがとう、もうお店開店してるんだね」
ハルは回りを見て言う。
街の人が昼過ぎに到着とは聞いていたが、早めに着いて食材の準備をしたのだろう。
開店しているお店が少ないせいか、営業している店舗は兵士や冒険者で満席になっている。
と、あっと言う間に料理が配膳された。
ふと壁を見ると、『当店のモットーは、速い!安い!そこそこウマイ!です!!』
と、でかでかと書いてある。
そこそこって自分で言ってしまうのはどうかと思うが、住み分けも立派な戦略だろう。
「とりあえず食べながら話しましょう」
アリスが言う。ミナが今にも齧りつきそえな顔をしていたからだ。
「「「「いただきます!」」」」
野菜や肉を薄い生地で筒のように丸めて包んだものだ。
「うまいじゃん!」
思わず声が出るハル。
「そこそこウマイ、は謙遜だな」
フィーダもつられて言う。
「……♪」
ミナは無言だが、しっぽがリズムよく揺れているのでおいしいのだろう。
アリスは小さい口でなんとか頬張って食べている。
と、アリスが小さい声でおいしい、と呟いた。
飲み物も、酸味のある果汁に炭酸が入っているようで、飲み口も軽くさわやかだ。
「うん♪おいしい!!」
ミナが思わず大きな声を出してしまった。
「ありがとよ!これはサービスだ!」
奥から出てきた恰幅のいい男性、店長だろうか。
が、デザートまで出してくれた。
「街を守ってくれた冒険者や兵士さんに恩返しがしたくてな。すぐに作れるもので考えたんだが思ったより評判が良さそうだ!」
ガッハッハと笑いながら店長が言う。
「即興で考えたんですか…コレおすすめしてけば、壁の『そこそこ』は外していいんじゃないですかね」
にっこりと笑ってハルが答える。
「このドリンクもおいしかったですよ。今まではなかったですよね?」
アリスはドリンクを気に入ったようだ。
「避難先の村の名産らしくてな、小さい村だから今まで知らなかったんだが、ルート作ってレギュラーにしようかね。これは運が向いてきたかもしれねぇな!」
再びガッハッハと笑いながら店長が答える。
なんともまぁ、楽しいお昼になるのだった。
そして店長の活力に、元気をもらった一行であった。




