85話『雲外蒼天』
敵増援…魔獣が1000…
イアの言葉に、動きが止まる冒険者達。
「…うそだろ…」
「これは…ここまでか…?」
「いつまで続くんだ…」
あまりにも唐突すぎる、あまりにも残酷な情報。
これまで1日半以上かけてようやく倒してきた魔物や魔獣とほぼ同数が一気にやってくる。
魔獣一体に、魔身機7~8体は必要なのに、相手の方が数が多い。
魔身機持ちの、Bランク以上の冒険者が8千人近く必要なのだ。
それは彼らの心を折るのに十分な力を持っていた。
実際、ここまでなんとか守りきってきた。
だが、奥の手の魔術兵器も使用したばかり。
冒険者達は疲労困憊に傷だらけ。
何より厄介なのは、突破されてはいけないこと。
引きこもって守りに徹するだけではいけないのだ。
魔獣の数体でも防衛線を突破されれば、内地の村や町にどれだけの被害が出るか検討もつかない。
冒険者達に、嫌な空気が流れ出す。
その場で立ち止まってしまい、誰も動こうとしない。いや、動くことができない。
見かねたクライヴが声をかけようとした瞬間。
【よし、んじゃ行くか】
落ち着いた声で、ダリルが言う。
ロカビリーが戦場全員に聞こえるようにしてくれた。
【そうだな。どうせなら一番真ん中の最前列にしよう】
ジョンが答える。
【それはいいな!特等席だ】
ダリルが笑いながら答える。
【怖く…ないのか?】
近くにいた、若い冒険者が二人に尋ねる。
他の者は固唾を飲んで聞き入っている。
【あぁ…?そんなこと言ったって、俺達がやらなきゃ誰がやるんだよ?村も街も捨てて、家族も見捨てて、帝国にでも逃げ込むか?俺はゴメンだね】
ダリルは言う。
動きを止めていた冒険者達が、一人、また一人と武器をとって歩き出す。
【ギルドマスターも言ってただろう。俺達は何だ?追っ払う者だろ?ならやることは一つだ】
ジョンが言う。
全員の歩みに、もう迷いはない。
【ダリルさん、ジョンさん!俺もやりますよ!!】
ハルが言う。
【当たり前だろ!お前がいなけりゃとっくに逃げとるわ!】
「ははは、さっきと言ってること違うじゃねぇか」「ちょっといいこと言ったと思ったらこれだ」「何をびびってんだ俺は…」
『追っ払う者達』は笑いあい、軽口を言いながら街の前へ集まっていく。
(ダリル……ジョン……ありがとう)
その様子を見て、クライヴは嬉しさが込み上げてくる。
なんて気持ちのいい連中だろうか。
だこらこそ、なんとしても守りきらなければならない。
街の前に全員が集まった。
ケガや疲労で街の中に居た者達も全員が出てきている。
正真正銘の、全戦力だ。
地平線を埋め尽くす、魔物と魔獣。
少しずつ近づいてくるそれらを見据える
『追っ払う者達』
「俺、来月結婚するんだ」
「え、今このタイミングで言う!?絶対言っちゃダメなやつだろ!」
「結婚する前でよかったじゃねぇか」「死ぬ前提!!」
追っ払う者達はリラックスできているようだ。
いや、これは、…死を覚悟した者の目なのかもしれない。
ギルドマスター、クライヴ・イーグルベルは意を決して口を開く。
「諸君!王国を、人々を守る盾としてよくぞここまで戦ってくれた!!私は感動している!!そして今、目の前には我らを遥かに超える数の魔物が迫っている。……だからどうした?やることは変わらん!一匹たりともここは通すな!構えろっ!!」
クライヴは大きな声で叫ぶ。
一斉に魔身機や冒険者達は武器を構える。
演説を、想いをぶつけるクライヴだが、言葉の途中で魔物と魔獣が急速に接近してくる。
空を飛ぶ鳥の魔物と魔獣だ。
「おい、あれ!まずくないか」「攻撃しないと直接ギルマスの所に行っちまうぞ」
若い冒険者が焦って言う。
「ギルドマスターの演説の途中だろうが。静かに見てろ」
「大丈夫だ」
ダリルとジョンが言う。
不安そうにクライヴを見つめる若い追っ払う者達。
当のクライヴは、演説への闖入者を見やり、右腕を頭上へ挙げる。
「魔身機召喚!駆けろ!!空の王者!!」
クライヴが叫ぶと、右腕の機心から嵐のような風が吹き荒れる。
竜巻から現れたのは、翼の生えた魔身機。
背中には大きな翼、腕や足には大きな鈎爪、頭には鷲の意匠が入っている。
翼をはためかせ、クライヴの魔身機は空を駆ける。
「話の途中だろうがぁぁぁあ!!!」
凄まじいスピードで魔獣とすれ違うと、突然鳥の魔獣達の体がバラバラに切り刻まれ、墜ちていく。
目にも止まらぬスピードで魔獣達を屠った大空の王者は言う。
「魔獣共に、森から出てきた事を後悔させてやれ!!!全軍、進めえぇぇぇ!!!」
クライヴの号令と共に、追っ払う者達は一斉に駆け出す。
「「「「「「うぉぉぉおおおおぉぉぉ!!!!!!!」」」」」」
全軍突撃だ。
魔獣の大群と、『追っ払う者達』全軍がぶつかる。
「大きいのは任せろっ!!」
炎迅は炎の大剣を手に、踊るように戦い、どんどん魔獣を撃破していく。
「おいてかれんなよっ!!お前らっ!」
ダリルが叫ぶと、周りにいた追っ払う者達達も一層気合いが入る。
「いや、炎迅の真似事はできないから。複数で、一体ずつ確実に当たれ!」
ジョンが言う。
【すごい…第一波殲滅!…第二波、来ます】
イアが言う。
「休憩させちゃくれねぇか…こいやぁっ!」
突き刺したハルバードを抜き、血を払いながらダリルが言う。
まだ最初の10数体を倒しただけだ。魔獣は後ろに嫌になるほど控えている。
少し先の場所に現れた次の魔獣を見据え、言う。
「いくぞっ!!!」
魔身機達が走り出そうとした瞬間。
ドォォォオォオォン!!!
視線の先の、魔獣の群れに雨あられのように攻撃魔法が降り注ぐ。
魔法の飽和攻撃に、魔獣達が倒れていく。
「「「なんだ!?」」」
一斉に声を上げ、魔法の飛んできた後方へ、振り返る追っ払う者達。
彼らの目線の先には。
「ファンテジア王国騎士団、団長代理フィーダ・マクスウェルだ。これより加勢する!……待たせたな!」
右後方より、白金の鎧に身を包んだ者達……王国騎士団が現れた。
その鎧には一切の汚れも曇りもなく、燦然と輝いている。
国民を、王都を、国王を守る忠義の剣達だ。
もうひとつ、左後方から現れたのは。
「エイギス守備兵団、アリス・ディアセイント、参上致しました」
ディアセイント家の家紋の入った、白銀の鎧を身に纏った少女が優雅に礼をする。
エイギス守備兵団は度重なる帝国からの侵略を退け続けており、実践による練度の高さは凄まじいものがある。
まさに本物の『叩き上げ』だ。
彼らの目は自信に満ち、動きに寸分のズレもない。
王国最高の盾と言われている。
◇
「騎士団だ…!エイギス兵までいるぞ!!」「間に合ったんだ!!」「いける!いけるぞ!!」
事態を飲み込んだ『追っ払う者達』は口々に言い、実感が沸いてきたのか一気に歓声があがる。
「王国を乱さんとする者達に鉄槌を!!」
「人々の安寧を守るため……火の粉を払います」
フィーダとアリスはそれぞれ言い、最後は声が重なる。
「「抜刀!……戦闘開始!!」」
白金と白銀の兵達が一斉に戦闘態勢をとる。
風向きが変わった。
明日も10時です!




