84話『暗雲低迷』
「せいっ!!」
冒険者の魔身機が、槍を魔物に突き刺す。
魔物はじたばたと足を動かすが、ほどなくして動きが止まる。
「っはっはっ…よし…次っ!」
槍を魔物を引き抜き、次の相手を探そうとしと瞬間、世界が大きく揺れる。
いや、魔獣の体当たりで魔身機ごと吹き飛ばされたのだ。
「大丈夫か!」
すぐさま一緒に居た仲間が牽制の魔法を放ちながら駆け寄る。
「…すまん、大丈夫だ」
魔身機は傷だらけだが、なんとか立ち上がる。
「しかしこいつは…速いな」
魔獣は電光石火のような速さで動き回る。
これを捕まえるのは骨が折れそうだ。
◇
「左翼が急速に押し込まれています」
イアが戦場の状態を見て言う。
【左翼が押し込まれてる、何人か救援に言ってくれ!】
それを聞いたギルドマスターが指示を出す。
「ちょっと待て、イアちゃんがそこにいるのか!?」
どこからか、ギルドマスターの指示に対して、不思議な問いかけがきた。
ダリルのようだ。
【隣にいるがどうした】
クライヴは不可思議な問いかけに頭を捻る。
「頼むギルドマスター!指示を出すのをイアちゃんにお願いできないか!大事な事なんだ!」
【何の意味があるんだ!!】
意味不明な懇願にクライヴは辟易する。
「その方がやる気でるんだよ!!!」
絶叫に近い、魂の叫びとでも言えそうな言葉。
「ダリルよく言った!」「お前は漢だ!」「イアちゃんお願い!」
どこまで言ってもマイペースな冒険者達に、頭を抱えるクライヴ。
だが、ここまできてそんな事を言えるアイツらは、ある意味では強いのかもしれない。
色々な感情を通り越して、笑えてきたクライヴは隣にいるイアに尋ねる。
「だ、そうだが、どうする?」
「…構いませんよ」
イアは言葉短く答える。
目を瞑り、ふぅ、と息を吐くイア。
一瞬のあと、目を開けると一気に喋り出した。
【替わりました。ギルドマスターの指示を私がお伝えします】
イアはきっぱりと言う。
いつもの間延びした口調ではない。
「ひゃっほい!イアちゃんの声を聞けるなんて、なんて贅沢だ!」「やる気でてきたぉぁあぁ!!」「…いつもとしゃべり方違くない?」
聞こえてきたイアの声に、喜ぶ冒険者達。
【いい加減にしなさい。早く救援に行く!!】
冷静でありながら、少し強く言うイア。
「「「「かしこまりましたぁぁぁ!!!!」」」」
怒号をあげながら突撃するような勢いで救援に入る冒険者達。
それ以外でも、押し込まれていたはずの場所が、敵を押し返していく。
【ダリル班は魔獣撃破後西へ移動し中央に合流。ラティス班はザック班の撤退を支援。終了後は東Aポイントへ。炎迅は西へ100メートル移動、そこで大型の魔獣が来ます。それ以外の班は現況維持です】
「「「「うぉぉぉおおおおぉ!」」」」
イアの指示に返事をすると迅速に行動する冒険者達。
クライヴは苦笑いでその様子を見つめている。
指示を出しているのはクライヴに変わりはないのだが、イアが伝えるだけで士気が違う。なんとも現金なものだ。
「まぁとにかくもう一頑張り、頼んだぞ!」
クライヴはそう言うしかなかった。
◇
炎迅は炎の剣で魔獣を袈裟懸けに切り捨てる。
飛んできた氷の刃を、炎の竜巻を纏うようにして消滅させる。
すぐさま左腕の籠手が光り、魔獣の頭上から雷が降り注ぐ。
黒焦げになった魔獣を確認し、すぐに次の相手にかかる。
炎迅が移動しようとした瞬間、
【街の真東に大量の魔獣出現、最低限の人員を残して至急救援へ!!足は遅いですが20体近く居ます!】
イアから緊急の連絡が入る。
一ヶ所に集中して20体の魔獣…随分戦術的な攻め方だ。
とにかく急いで向かわなければ、突破されてしまう。
各地から人員が集中してくる。
魔獣20体ならばどう考えても必要だ。
各々、到着次第戦闘を開始していく。
20体の魔獣は、足こそ遅いが巨体で防御力が高く、一体倒すのにも時間がかかる厄介な魔獣であった。
それでも、冒険者の移動の方が早く、人数が集められたおかげでなんとか五分に戦えている。
「よし、このまま少しずつ倒していけばいけるぞ!」
冒険者の誰かが言う。
(…おかしい)
クライヴが違和感に襲われた瞬間、街の壁、魔法障壁に大きな音と共に衝撃が走る。
どおおぉおぉおん!!
「なんだ!?」
その大きく派手な音に誰もが驚く。
煙の上がっているところをよく見れば、ぼんやりと何かが動いている。
「しまった!不可視の魔法だ!魔獣がいるぞ!」
ロカビリーが魔法矢を放つと、何もない空間に突き刺さる。
と、魔法が解除されたのかカメレオンの魔獣が姿を現した。
「ご丁寧に不可視だけでなく気配遮断で音まで消してやがったのか!!」
ロカビリーは叫ぶ。が次の瞬間さらに恐ろしい事に気づく。
「!?まずい!別の魔獣がもうそこまで来てる!!」
20体の魔獣と、不可視の魔獣の混乱を見計らったかのように、異常な速度で街へ迫る魔獣の群れが居たのだ。
「こいつらが本命か!?」
すでに肉薄している足の速いダチョウの魔獣の群れを見据えてクライヴは言う。
(ダメだ、冒険者達は20体の魔獣の方に行ったせいで街から離れすぎている。間に合わん)
「イア!」
クライヴは叫び、イアと目が合うと、何も言わずに頷く。
イアも黙ってそれに答える。
【全軍に通達、ニアフォレストはこれより魔術兵器を使用します。街に近いものは街の中へ撤退、遠い者は射程範囲から離脱して下さい。繰り返します…】
完全に不意を打たれ、ほぼ無防備な状態で街に取り付かれてしまった。
この状況では魔術兵器を使用するしかない。
が、魔術兵器は範囲内の者を全て吹き飛ばすため、味方が居ては使えない。
その為に街に近い者は結界の内部へ、それ以外は範囲外へ逃れなければならない。
「俺達も下がるぞ!」
ジョンが言う。と、炎迅が魔獣と戦いながら街の方へ引き連れていくのが見えた。
「炎迅!お前も撤退しろ!」
ダリルが叫ぶ。
「せっかくなんでこいつらを範囲内にいれてきます!直前で離脱しますので」
ハルが答える。
「…わかった、無理はすんなよ!」
ダリルとジョンはハルを見送る。ハルがやると言うならばやるだろう。
ならば自分達は他の事をしなければ。
ダリルとジョンは周りに指示を出しながら、少しずつ範囲外へ逃れていった。
カメレオンの魔獣とダチョウの魔獣の群れはこれでもかと、街の結界へ攻撃をしかけている。
その内、まばらだったり距離のあった魔物も結界へたどり着き、そこらじゅうに群がっている。
(頼む…持ってくれよ…)
攻撃されるたびに軋み、音を立てる結界。
「撤退はまだか!」
クライヴが叫ぶ。
【もう少しです…急いで!】
イアが叫ぶ。
【ハル君!?】
魔獣と共に街へ向かってくる魔身機がいることをロカビリーの耳は捉えた。
「ギリギリまで囮になります!誰かがやらないと結界が持ちそうにない!」
街へ近づいてきたハルはそう言って、魔物と、魔獣しかいない結界の前で一人で戦い始める。
【大丈夫なのか!?】
「大丈夫です!ギリギリでなんとかしますので!」
【すまん、頼んだ!撤退は終わったか!?】
クライヴは叫ぶように聞く。
【あと一人…まさか動けないの!?】
範囲内には、ハルと、範囲内ギリギリの位置にもう一人いるようだ。
「すいません!片足がやられてて…」
冒険者の一人が魔身機の片足がない状態で移動しているらしい。
【解除して走れば……変わらないか…誰か!】
魔身機を解除して魔素で肉体強化して走ってもいいが、サイズが違いすぎるので結局同じくらいの速さになるだろう。
「俺のことはいい!起動してくれ!」
冒険者が叫ぶ。
と、彼の魔身機の前に四足の巨体が現れる。
魔獣か!?と身構えた瞬間。
「見つけた!!掴まりなさい!荒っぽくなるわよ!」
ミナが叫ぶ。
四足の魔身機は冒険者の元へ駆け寄り、姿勢を低くする。
「炎迅の…助かる!」
片足の魔身機は素早く四足の魔身機の背中に捕まると、獅子乙女は放たれた弓のように駆け出す。
「いいわよ!ハルも避難して!」
冒険者を連れ、一気に範囲外まで走りきったミナが言う。
【すまん、助かった!炎迅も早くしろ!】
クライヴがミナとハルに叫ぶ。
ハルは相変わらず壁の手前でたった一人で戦っている。
「俺は大丈夫なんで起動してください!もう結界がギリギリなんではやく!」
【何を言ってるんだ!早く!】
【……あっ!ギルドマスター!彼は大丈夫なので早く起動を!!】
焦るクライヴの横で、何かに気付いたロカビリーが言う。
【本当に大丈夫なのか!?信じるぞ!?ええぃ、ままよ!!!】
クライヴが魔術兵器を起動する。
眩い光が辺りを包み、一瞬遅れて轟音がやってくる。
「ハル…!?嘘でしょ!?ハルーーー!!!」
ミナは撤退しなかったハルの様子を見て叫ぶ。
いくらハルでも、魔獣を一撃で倒すような魔法が直撃したら……。
全員が不安そうに見つめる中、土煙が晴れてくる。
その中には……
炎迅が無事に立っていた。
魔身機の体が炎のように揺らめき、時折、稲妻が走る。
「竜化……ギリ間に合った……」
ハルはそう呟くと、竜化を解除する。
「そうか……貴方そのすり抜けるやつがあったわね…忘れてたわ…ほんとにもう」
少し呆れたような、ほっとした顔で呟くミナ。
「よかった…よくわからんが無事なんだな…」
クライヴも安心したようだ。
ハルの回りには、魔物も魔獣も残っていない。
今回は範囲内のすべての魔獣を倒すことができたようだ。
「よしっ!!」「すげぇ!一網打尽だぜ!!!」
そう言って街へ戻りはじめる、範囲外にいた冒険者達。
冒険者達が街の近くまで戻ってきた。
と、何かに気付いたロカビリーが表情を変える。
ロカビリーの報告をうけたイアが言う。
【敵増援およそ1000。総員戦闘態勢。 敵、猛攻 来ます】




