83話『断尽剣』
雨あられのように飛んでくる、数々の攻撃魔法。
「なんのっ!」
獅子乙女は右へ左へ、軽々と回避しながら前進していく。
回避はしているが、やはり疲れもあるのだろう、動きに精細を欠きはじめた。
その間にもハルは炎の矢を放ち、魔物を倒していく。
と、低空に、地を這うように氷の魔法が飛んでくる。
獅子乙女は高く跳躍し、氷の魔法を飛び越える。
余裕の高さで回避し、着地しようとした瞬間、眼前の地面から土竜の魔獣が現れる。
(しまっ…)
突然現れた土竜に驚き、そして眼前に迫る土竜の爪を見て、なんとか回避しようと魔身を限界まで曲げながら捻るミナ。
この時すでに、上に乗っていた炎迅は振り落としている。
(よし、ハルは大丈夫ね…)
迫りくる凶爪は、限界まで体をひねったお陰か、なんとか頭は回避する。
が、回避しきれずに肩に爪が当たってしまう。
そのままの勢いで土竜は爪を振り抜き、爪が肩から背中にかけて深く裂いていく。
着地する事ができずに、飛び込んだ勢いのまま転がるように投げ出される獅子乙女。
「ハル…ごめん」
「ミナ!!」
倒れ混んだ獅子乙女に土竜が追撃の爪を放とうとする。
が、起き上がった炎迅がなんとか腕を出し、籠手で受け止めた。
籠手から電撃を流し、触れていた土竜は感電する。
痺れた一瞬の隙を見逃さず、炎の剣で横薙ぎにする炎迅。
土竜は胴体が上下に別れて倒れこんだ。
「ミナ!大丈夫!?」
倒れている獅子乙女を抱き起こす炎迅。
「ありがと。ごめん、ちょっと動けそうにないから一回解除して休むわね」
懸命に笑おうとしているが、辛そうなことが見てとれる。
長時間戦い続けた事による精神的な疲労と、魔身機が破壊されると一気に魔力が消費されるので、魔力的な疲労も襲ってくるためだ。
魔身機を解除すると、倒れこむようにうなだれるミナ。
「誰か!彼女を」
ハルが言うと、一番近くにいた冒険者ぐ答える。
「まかせろ。送り届けよう」
冒険者がそう言うと、魔身機はそっとミナを掌に乗せて街へ撤退していった。
「行かなくていいんですか?」
若い冒険者が声をかけてくれた。
本当は自分が送りたい所だったが、今この場を離れる訳にはいかない。
「大丈夫。むしろ彼女の性格なら、ここを離れたら怒るだろうね」
苦笑いしながらハルは答える。
「ははは、では頑張らないといけませんね」
若い冒険者は笑いながら言う。
「さて、それじゃ第2ラウンドと行こうか」
そう言って炎迅は剣を構える。
倒せども倒せども、魔獣は沸いてくる。
◇
街の中へ運ばれ、疲労回復の魔法を受けて眠りについたミナ。
「……ん…」
寝返りをうった拍子に目が覚めたミナ。
どれくらい眠っていたのだろう、頭がぼーっとしている。
目をぱちくりさせ、耳がぴくぴくと動く。
「はっ!戦争中だ!どうなった!?どれくらい寝てた!?」
覚醒したミナが声を上げると、見慣れた人物が目の前に居た。
「お目覚めですか~疲労だけでしたから、もう大丈夫でしょう~。機心もある程度直りましたよ~」
そう言ってミナの機心を手渡す受付嬢。
心なしか、イアの表情も優れないように見える。限界まで回復魔法を使い続けているのだろう。
機心の方は土竜に魔身機がやられ、機心にも傷が入っていたのだが、傷が薄くなっている。
細工師かドワーフが直してくれたようだ。
「ありがとう!イアちゃん!!どれくらい経った?戦場は!?」
ミナはベッドから起き上がると横に置いてあった装備を手早く着けていく。
ここで周りを初めて見て、大勢が倒れこむように寝ている事に気づく。
ケガをしている者も多い。
「魔獣の襲撃は継続中です~見てもらったほうが早いでしょうから、どうぞ~」
そう言って笑ったイアは歩き出す。それに続くミナ。
まさに、死屍累々といった所か、通路にもケガ人が溢れている。
(…まずそうね)
味方の被害が増えてきている。ミナは心の中で呟いた。
◇
街の壁際、一段と高く、櫓のようになっている場所。
イアはどうぞ、と言って入るよう促す。
「おぉ、お嬢さんか!もう大丈夫か?」
ギルドマスター・クライヴがミナの姿を見て言う。
「ありがとう、休んで疲れもとれました。もう大丈夫です」
そういってミナは頭を下げる。
「いやいや、君とハル君には無理をさせている。すまないね」
クライヴが申し訳なさそうに言う。
「いえいえ。ハルはどこにいますか?すぐに行くわ」
「あそこだ。…とてつもないよ、ずっとあの調子だ。もう何時間も戦い続けてる。疲れない加護でもあるのか?」
「竜の加護を授かってるらしいけど…レアすぎて効果がわからないのよね」
そう言って二人が見つめる先には、雷と炎、二振りの剣を手に駆け回る炎迅の姿があった。
亀の魔獣に対して、炎を吹き上げつつ、回転しながらの踵落としを喰らわせる。
亀の魔獣は甲羅が割れ、大きな叫びを上げる。
すかさず割れ目に雷の剣を突き入れる炎迅
すぐさま振り返り、攻撃魔法を回避しつつ炎の大剣で猪の魔獣を一刀両断する。
魔法で飛んできた鋼の槍を籠手で受け流し、炎で形作った剣を飛ばす。放たれた炎の剣は魔獣に刺さると爆発した上で一気に燃え上がる。
飛びかかってきた魔獣を二本の剣で三度、四度と切りつける。バラバラになって魔獣は崩れ落ちた。
現れた魔物・魔獣を突き、払い、薙ぎ、切り、斬る……ただひたすらに、がむしゃらに。
◇
まさに一騎当千、まさに無双。鬼神のごとき強さに、思わずイアが呟く。
【深淵より現れ出づる魔を、二振りの神剣でもって尽く断つ】
【まるで戦神…まさに『断尽剣…』】
イアの小さな言葉。
だが、その言葉はしっかりと冒険者達に届いている。
実際、怪我人も増え、戦況としてはかなり厳しい。
だんだん戦える人数が減ってきているのだから当然だ。
だが、ハルが一人で何百を超える魔獣を屠っているからこそ、ギリギリでなんとか保てている状態だった。
「『断尽剣』!いいじゃねぇか!だがよ!!」
「俺たちには一騎当千の戦神がついてるぞ!!負けるわけねぇ!!」
「お前だけにいいかっこさせてたまるかよ!!!」
「行くぞ!!!気合いみせろお前ら!!!」
各地で一気に冒険者達が奮い立つ。
「私たちも行くわよ!!」
ミナはそう言って櫓から飛び降り、戦場に向かう。
「魔身機召喚!全開でいくわよ!獅子乙女!!」
四足の獣の王妃が地面に降り立ち、大きな声で吼える。
獅子乙女も気合い十分だ。
戦場全体から怒声のような叫びが起こる。
冒険者達は、負けるつもりも死ぬつもりも微塵もない。
彼らは守るために、ただ目の前の魔を尽く斬るだけだ。
戦いを、終わらせるために。




