79話『ニアフォレスト防衛戦』
「行くぜっ!」
ハルが言うと、ミナの獅子乙女は雄叫びをあげ、走り出す。
加速した獅子乙女が魔物の群れへ突っ込む。
魔物の群れに突撃したにも関わらず獅子乙女の勢いは衰えず、そのまま走り続ける。
魔獣の爪が横薙ぎに迫るが、直角に近い角度で方向転換をして回避する獅子乙女。
さらに続いて眼前に迫るしっぽでの攻撃を、棒高跳びのように飛び越える。
次は氷魔法の礫が放たれる。
「まかせろ!」
ハルが言うと、炎迅は炎の剣を前に突き出す。
剣から吹き出した炎が、走る獅子乙女ごと包むように広がる。
炎に包まれた二人は氷魔法の弾幕を走り抜けて突破する。
その勢いのまま魔獣へ向かい、獅子乙女は跳ぶ。
すり抜けるように走り、隙を見逃さずにハルは剣を振る。
魔獣が大きな音を立てて崩れ落ちる。
「次来たわよ!」
息つく暇もなく、攻撃魔法が空から降り注ぎ獅子乙女はふたたび駆け出す。
「空はズルい!嫌い!降りてきなさい!」
ミナは巧みに空からの魔法攻撃を回避しながら走る。
「雷神の鉄槌!」
雷神の籠手が輝くと、紫電が走り抜ける。
同時に天より巨大な竜のような稲妻が降り注ぎ、空を飛んでいた魔物が光に呑まれる。
消し炭のようになった魔物達が地上へ落ちていく。
その間にも獅子乙女は手当たり次第にそこかしこの魔物に噛みついては噛みちぎり、噛み砕き、爪で裂いてと大暴れしていた。
まさに人馬一体、といえる。馬ではないが。
そうして縦横無尽に走り回り、魔物のや魔獣を減らしていくハルとミナ。
◇
「ほぇ~…炎迅がまともに戦ってるの初めて見るが凄まじいな…」
「雷神の弟子ってのも納得だわ」
「さっきの亀!見た?真っ二つだぜ?『断陣剣』の本領発揮ってとこだな」
「つかアイツ、エルフの国に行ったんじゃなかったっけ?」
「たしかにたしかに、俺も聞いた。早すぎるよな?引き返したのかな?」
「さあな…ギルドマスターに聞いてみようぜ」
治療を受け、軽く食事をとって束の間の休憩をしていた冒険者達はさっそく動き始めた。
◇
「ロカビリーさん!聞こえますか!?」
ハルが言う。
さっきはギルドマスターの声が聞こえた。音魔法の使い手がいるはずだ。おそらくロカビリーさんだろう。
【聞こえてるよ!どうしたの?てか喋ってて大丈夫?】
返事をしたロカビリーだが、心配されてしまったようだ。
「いえ!何があったのかなと思いまして」
【それは私から話そう。その前にとにかく来てくれて助かった、ありがとう。】
クライヴが答える。
「いえいえ、大きな被害か出る前でよかったです」
【本当に直前だったがな。別に何があったわけでもない。1ヶ月ほど前から大森林に魔物や魔獣がさっぱり現れなくなってな。数日前に調査隊をだしたらこの大群の存在が発覚し、現在防衛中ってところだ。】
「俺とミナがエルフの国に出発した後だね。森の奥は普通だったけどなぁ」
ハルが呟くと、
「普通?エルフの国に何十年に一体の魔物が現れて、さらにそいつが魔法無効なんて馬鹿げた能力持ちだったのに?」
ミナが言う。
「……たしかに。そう言われると、普通じゃないかも」
ハルは思わず納得してしまう。
【やはり何かがあるようだな…】
クライヴが考え込むように言うと、次の瞬間。
【炎迅!よく帰ってきたなこのやろう!タイミング見計らってただろお前!?】【つかエルフの国行ったんじゃなかったのか?引き返したのか?】【やっぱめちゃくちゃな強さだな!つか下の魔身機はこないだの、猫の嫁さんか?昼も夜も乗ってんのか!ぎゃははは】
ギルドマスターとロカビリーさんが要る場所に誰か来たのだろうか。一気に聞こえてくる声が数人分増える。
「うるっさいのよあんた達!!こっちは必死で戦ってるんだから静かにしてなさい!てかそんだけ元気なら早く戻ってきなさいよ!!私はハルと違って普通なんだから長い時間もたないわよ!」
ハルが聞こえてきた声に答えようとした瞬間、ミナの怒声が響く。
それに合わせて獅子乙女が雄叫びをあげる。
あまりの気迫に、周りの魔物や魔獣の動きが止まる。
【【【すんませんっした!!】】】
一斉に謝罪の言葉が聞こえてくる。人間とはここまで完璧に声を揃えることができるのか。
【…とにかく。補給や応急処置も直に終わる。もうすこしだけ頼む。そのあとは二人もローテーションに入ってくれ】
クライヴは努めて真面目に言う。
「了解!」
ハルが答える。
「行くわよハル!」
鬱憤をぶつけるように、獅子乙女は牙を向き魔物に襲いかかっていくのだった。
◇
明日は…10時!




