78話『見参』
【誰か注意を引き付けてくれ!特大魔獣の亀を倒すには魔術兵器を使うしかない。それまで時間稼ぎを頼む。その間に少しでも他の魔獣を減らすぞ!】
クライヴの指示に冒険者達が各々返事をする。
「くそっ!効いてんのかこれ!?」
魔身機達が一斉に魔法を放つが、直撃したにも関わらず亀の魔獣は見向きもしない。
全く気にする様子もなく歩いている。
歩いているだけでも大地は揺れ、仮に踏まれようものなら命がないのは明白だ。
それほどの大きさと、それに違わぬ防御力を持っているのだ。
「くそ!止まらねぇ!」「やべぇぞ!」
冒険者達はなんとか亀を止めようと、もしくは注意を引き付ける為に攻撃を続けるが、亀の歩みは止まることはない。
「もう目の前まで来ちまったぞ!」「ギルドマスター!逃げてくれ!」
冒険者達は必死に叫ぶ。
いくら攻撃してもびくともせず、今にも街が破壊されそうな距離まで接近しているのだ。
あのような巨体の魔獣の攻撃をくらえばいかに砦とて容易に破壊され、中の者達がどうなるかなど想像に難くない。
【かまわん!みんなよくやった!たった今チャージが終わった。できれば小型の魔獣も巻き込みたかったが仕方ない!離れろっ!】
クライヴが叫ぶと同時に、前回と同じように街から巨大な魔方陣が展開される。
魔方陣に明かりが灯ったと思うと。轟音と強烈な光と共に爆発が起きる。
……
「やったか!?」
冒険者の誰かが言う。
煙が晴れると、山のように大きな亀がその場でひっくり返っていた。
少しすると、亀は足を動かし始めた。
「…倒しきれてない!なんて硬い奴だ!」「あれで倒せないなんて…」「いや、まて!チャンスじゃないか!?亀だろう?起き上がれないんじゃないか!?」
亀の魔獣はダメージは見えるものの、倒すことはできなかったようだ。
だが亀はひっくり返っている。普通の亀なら頭を伸ばして起きる所だが、亀の魔獣は足も首も地面に届いていない。
むなしく、空を切るばかりだ。
「いける!」
そう言って冒険者達が攻撃をしかけようとした瞬間。
亀の口から、とてつもない威力の水が吐き出される。
まるで高圧のポンプのように凄まじい勢いだ。
「なんだ…おいまさか…」
冒険者がいいかけた言葉をとめる。
亀は両手足も引っ込め、そこからも水が吹き出し、亀が高速で回転する。
「ぐわっ!!」「なんっ!!く…」「しまっ…」
その場で回転し、360度無差別に放水攻撃を行う亀。
たかが放水とは言えない。圧縮された放水は容易く魔身機をバラバラに引き裂き、破壊する。
そのまま回転した勢いで宙に浮いた亀はくるりと天地を返すように、正しい姿勢に戻ってしまった。
「ぐっ…くそ…」
魔身機が破壊され、一定のダメージを超えると召喚は解除されてしまう。
周りにいた冒険者達の魔身機は半数以下になっていた。
「姿勢を戻すついででこれかよ…」
ダリルが言いながら立ち上がり、亀を見ると亀は街に向かって攻撃を行おうと言うのか、口を開き始める。
「さっきの速い四つ足が…もう来ます」
ロカビリーが言う。
「ここまできたら一匹増えても関係ない。ほっておけ」
クライヴはロカビリーに言う。
【全員撤退!!身を守れ!】
そしてクライヴは全員に向けて叫ぶ。
街の壁には対魔法の障壁魔法が貼られているが、とてもあの水魔法の攻撃を受け止められるとは思えない。
亀の口から、無慈悲な水魔法の弾丸が放たれる。
「ギルドマスター!!!」
冒険者達の悲痛な叫びが響く。
亀の魔法攻撃が街の壁、砦に当たろうとする一瞬前に、何かが割り込む。
「「「!?」」」
割り込む瞬間まで、亀に夢中で誰も気付いていなかった。
いつの間にかそれが森から出てきていた事を。
凄まじいスピードで亀の攻撃の目前に飛び込んだそれに水魔法の弾丸が直撃する。
瞬間、水魔法の弾丸が何かに当たったように弾け飛ぶ。
いや、切り払われた。
特大サイズだった水の弾丸が切り払われ、大量の水飛沫が辺りに舞う。
視界が澄んでくる。
冒険者達の目に入ったのは、獅子の魔身機に跨がり、雷の剣と炎の剣をそれぞれの手に携えた魔身機、『炎迅』の姿であった。
「『雷神』が一番弟子、『炎刃』……推して参る!!!」
そう言うと、炎迅を乗せた獅子の魔身機が弾かれたように駆け出す。
「先に小さいのを片付ける。行こう、ミナ!」
「任せなさい!振り落とされないようにね!獅子乙女、行くわよ!」
ミナが言うと、さらに獅子乙女は加速する。
狼の魔獣とすれ違い様、炎迅は炎の剣を振るう。
スピードを落とさず駆ける獅子乙女。
遥か後方で狼魔獣の首が落ちる。
飛びかかるように空中から襲いかかってきた魔獣を雷の剣で一刀の元に切り伏せる。
亀の魔獣が水弾を放ってくるが、獅子乙女は華麗に回避しながら走り続け、炎迅は魔獣を斬り続ける。
一瞬のうちに戦場を駆け巡った獅子乙女と炎迅は小型の魔獣を全て撃破し、亀の魔獣の元へ戻る。
「あとはコイツだけよ!ハル!」
ミナが言う。
「おう!|炎迅全開!!!」
亀魔獣の眼前に跳んだ獅子乙女。
背中に乗る炎迅はそう言うと、炎の剣を両手で構える。
天へ向けどこまでも大きく伸び、燃え上がる。
「もっと!もっとだ!燃えろぉおおお!!」
さらに大きく燃え上がった炎の剣が、亀魔獣に振り下ろされる。
「『断陣剣・火之迦具土!』」
天をも衝きそうな程巨大な炎の剣は、振り下ろされた亀の魔獣をいとも容易く両断し、勢い余って地面までも斬り、地下深くまで斬撃の痕が残る。
「ギルドマスター!今の内に負傷者の撤退を!」
ハルはすかさず叫ぶ。
先程の亀の魔獣による無差別攻撃の被害が大きい。一度冒険者達は態勢を整えねばならない。
【『炎刃』すまん、助かった!いろいろ聞きたいがとにかくしばらく頼む!】
クライヴはそう言うと、全員に一度撤退を命じる。
「炎刃!ありがとう!」「助かった!無理はするなよ!すぐ戻る!」「遅れてきたんだ、その分働け!」
口々に礼や軽口を言いながら撤退していく冒険者達。
「さて、それじゃミナ。しばらく付き合ってくれるかな?」
「あら~戦場で二人っきりなんてロマンチックじゃない~いいわよ~♪」
ミナもまだまだ元気そうだ。
と、森から次々と現れる魔物や魔獣の大群。
それらを見据え、剣を構える炎迅。
獅子乙女は今にも駆け出したくてウズウズしているようだ。
「よし…行くぜっ!!」




