76話『怒涛』
猪の魔獣に相対する、ダリルとジョンの魔身機
魔身機と同じ程度の大きさなので、魔獣としては小型な方だ。
魔身機でさらに見上げるような大型のものに比べればやりやすい方だ。
だが、もちろん生身ではとても敵う相手ではないし、小型とはいえ突進の一撃をまともに喰らえばひとたまりもないだろう。
「いくぞっ!」
ダリルは気合い一閃、左側からハルバードを叩きつける。
何も言わずに、ダリルに合わせて右側から突きを放つジョン。
猪の魔獣はまるまるように身を強張らせ、両側からの刃を受ける。
なんと魔身機の攻撃は両方とも歯が立たず、弾かれてしまった。
「大人しく矢で死んでるうちはかわいいのによぉ」
ダリルはやれやれ、とため息をつく。
この猪、魔物のうちは倒しやすいのだが、魔獣になると途端に毛皮が強固になり、とくに身を固めたときはかなりの防御力となる。
「身を固めていると歯が立たん。隙をつくぞ」
ジョンはそう言うと、魔身機は高く跳躍して猪の首の辺りに飛び乗る。
「何する気だ!?」
相棒の予想外の行動に思わず声が出るダリル。
ジョンの魔身機は剣の柄頭で猪の頭を殴り付ける。
猪の魔獣は嫌がり、振るい落とそうと激しく身をよじる。
それでもジョンの魔身機が手を離さないので、ついに猪は走り出した。
猪の頭に捕まり、なおのこと剣を叩きつけ続けるジョンの魔身機。
猪は頭をふりながら猛烈な勢いで走り回る。
そして直線上にいるダリルの魔身機に向かって走る。
ダリルは慌てず、ハルバードを構える。
猪が当たる直前に横にステップして回避し、猪の突撃に対してカウンターを入れるように右から左に向かってハルバードを薙ぐ。
ハルバードの斧先が猪の鼻に思い切り当たる。
が、あまりの突進の勢いにダリルの魔身機が弾き飛ばされてしまう。
「くっそ…カウンターでもダメか…」
起き上がる魔身機に、方向転換してきた追撃の突進が迫る。
ジョンは猪の首の辺りで剣を突き立てようとしている。
「ジョン!なんとかしやがれ!」
「そう言うなら一秒でも動きを止めろ!」
ダリルの叫びに、ジョンが答える。
「よしきたぁー!」
再び突進に対して構え、同じようにステップして回避するダリル。
だが今回は、ハルバードの横に突き出たピック部分を使って猪の前足を引っかける。
猪の魔獣は右足がひっかけられ、勢い余って体勢を立て直すこともできずに転んでしまう。
土煙と激しい音。
「しゃおらっ!」
飛び上がったジョンの魔身機が倒れた猪に剣を突き立てようとする。
ほんの少し、先が刺さるが、そこで止まってしまう。
「こいっ!ダリル!ぶったたけ!!」
ジョンの魔身機は猪の足蹴にし、先が少し刺さった剣か抜けないように支えながら言う。
「くぅーらぇえぇっ!!!」
叫びながらダリルの魔身機はハルバードをハンマーのように、ジョンの剣の柄頭を思い切り叩きつける。
叩きつけられたハルバードの勢いで、深く突き刺さる魔身機の剣。
こぼっ!っと音を立てて血が吹き出し、猪の魔獣の動きが緩慢になっていく。
少しさて猪が動かなくなったのを確認したダリルとジョンは、何も言わずに拳を突き合わせた。
◇
「よし!ダリルとジョンがやったな!」
「さすがですね。あ、もう一匹の方も終わったようです」
クライヴの声に、ロカビリーが答える。
城壁近くで戦っている冒険者達も、魔物相手にうまく立ち回っているようでまだ大きな被害は出ていない。
「!…なんと…大型が来ます!」
森から現れる、大型魔獣の音に気付いたロカビリー。
が、ここで風向きが変わってしまう。
100匹程の魔物と一緒に出てきたのは、なんと大型の魔獣が3体。
狼の魔獣と、熊の魔獣、蛙の魔獣だ。
「ちっ…まずいな…大型だ…」
ダリルは三匹の魔獣の姿を見て舌打ちをする。
明らかに先ほどの猪の魔獣よりも2回り以上大きい。
中型から大型と言った所だろうか。
魔獣としてのランクは低位だが、大きさは強さだ。
大きいだけで危険度ははね上がる。
「ぼやくな!とにかくいくぞっ!」
ジョンはそう言って、魔身機が走り出す。
【ダリル、ジョン、狼を引き付けてくれ!防御に自信のある者5名、熊を引き付けてくれ。それ以外全員で蛙を叩く!一匹ずつやるぞ!】
「「「「「了解!」」」」」
クライヴの指示に、一斉に返事が帰ってくる。
狼の魔獣は動きが速く、捕捉するだけでも困難だ。
熊の魔獣は耐久力が高く、倒すのに時間がかかる。
蛙の魔獣は毒や麻痺、酸など厄介な能力があるため早めに倒したい。動きも耐久力も三匹の中では最も低い。
倒すならばまずは蛙。他二匹は時間稼ぎだ。
【たのむぞ皆っ!】
「「「「「応!!!」」」」」
◇
三匹の魔獣と戦いはじめてかなりの時間が経った。
熊と狼の時間稼ぎが厳しいが、危ないときにはロカビリーが城壁の上から魔身機で音弓を放ちヘイトをうまくコントロールしていた。
蛙の動きもだいぶ鈍くなり、体にも傷が増えてきている。
蛙を囲む冒険者達の魔身機はうまく連携して蛙を翻弄していた。
そして、状況が一変する時は突然やってくる。
蛙の魔獣が突然鳴いたのだ。
ウシガエルのような、低く大きな鳴き声。
と、共に体から吹き出す紫の煙。
「!?なんだ!?」「一旦離れろ!」
蛙を取り囲んでいた魔身機が少し距離をとる。
突然、狼と熊の魔獣が周りの魔身機には目もくれず、蛙に向かって走り出す。
「まずい!そっち行くぞ!」「ダメだ!こっちには見向きもしねぇ!」「離れろ!」
それぞれの陽動が攻撃をしかけるが、意に介さず蛙に向かう二匹。
まるで蛙を守るかのように一目散に集まり、蛙を囲んでいた魔身機達に襲いかかる狼と熊。
「くそっ!なんだいきなり!?」「一旦離れろ!立て直すんだ!」「…?まずい!城壁に向かってる!止めろ!」
冒険者達から混乱の声があがる。
「まずい…間に合わん!」「近づかせるな!!」
急に城壁を目指して進みだした三匹に、なんとか止めようと攻撃をしかける冒険者達。
「間に合わん!使いたくなかったが仕方ないが、三匹一緒なら丁度いい、アレを使う!壁際の者は待避しろ!」
【壁際の者は待避!!】
その指示に一斉に冒険者達は避難する。
【今だ!!!】
クライヴの号令と共に、街すら覆いかねないほどの大きな魔方陣が地面に展開される。
すると、城壁の外、少し離れた位置にいた三匹の魔獣のちょうど足元辺りで爆発が起きる。
ッドォオオオォォン!!!!!
とてつもない爆風と轟音、あまりの衝撃に大地が震える。
土煙が晴れると、そこには瀕死になった熊の魔獣が一体居るだけであった。
【よし、止めをさせ!そのあとは一旦撤退だ!】
クライヴの言葉に、魔身機達は素早く動きだし、熊の魔獣に止めをさす。
こうしてなんとか大型の魔獣3体を撃破したのだった。
だが戦いは終わらない。まだまだ次が待っているのだから。
明日は10時です!




