73話『勿怪』
ハル達がパーペチュアルを出る少し前。
「……しっかし暇だなぁ……」
ニアフォレストのギルド内、酒場で机に突っ伏しているひげ面の男、ダリルは気だるそうに言った。
「お前だらけすぎだぞ……しゃきっとしろしゃきっと」
つり目の男、ジョンは、溶けたアイスのように机にくっついている相棒に向かって言う。
「んなこと言ったってお前…仕事はねぇし…暑いし…イアちゃんは構ってくれねぇし…」
恨めしそうな目でカウンターを見るダリル。
ニコニコと業務をこなす受付嬢がいる。
「暑いのは知らん。髭を剃れ」
ジョンは冷たい水を手渡して言う。
「ふっざけんな!俺のダンディな髭を剃るなんてとんでもない!」
大きな声で言った後、ありがとう、と相棒に言って水を飲むダリル。
「お前の事情は知らんが仕事がないのは困ったもんだなぁ~…」
「何かあったんですか??」
最近冒険者になったばかりの新人が、二人の会話に入る。
新人は薬草の採取や街の中での手伝いしかしていないのでなんとも思っていなかったらしい。
「あぁ?どーもこーも1ヶ月くらい前から魔物や魔獣がとんと出なくてよ。大森林に入っても全く成果なしでよ」
ダリルが新人に言う。
「?護衛とか、他の仕事すればいいのでは?」
新人は首をかしげる。
「もちろんそうなんだがな、護衛の仕事だけじゃ数が多くないから仕事の取り合いになっちまうんだ。そうならない為に、俺達みたいな戦闘メインの冒険者は討伐依頼がないときは魔物を狩ってギルドからの討伐報酬もらったり素材を売ったりして生活してんだよ」
ジョンが言う。
「……なるほど、魔物がいないからお金を稼げない、仕事の取り合いするしかないってことですね!」
新人はなるほど!と頭の上に電球でも光ってそうな能天気な笑顔で言う。
「ギルドの仲間と揉めたくねぇからな、取り合いする気はねぇ。……だからこんなとこで茶を撒いてんだよ。わかったらお前らは大人しく薬草でも取ってこい」
ダリルは再び気だるそうに机に突っ伏して言う。
「あ、だからって大森林には入るなよ。もし魔物が出たらお前らなら10回は死ぬからな」
ジョンが言う。
「わかりました!がんばります!!」
そう言って新人は元気に返事をして、パーティと共に受付へ向かうのだった。
「気楽なもんだねぇ……わかってんだかなぁ…」
「後でもっかい森に入ってみるか」
「おうよ。いい加減酒のみてぇからな」
◇
(……なんだかんだ優しいのだから)
新人に説明している二人を視界の端に捉え、小さく笑う受付嬢。
(それにしても、実際問題これは異常…としか言いようがない。そろそろもう一度しっかりと調査をしたほうがいい…ギルドマスターに進言しないと)
(たぶんそろそろあの人が帰ってくるはず…お願いしましょうか)
思いを巡らせ、纏まった所でイアは受付を立ち、後輩に任せる。
「ごめんなさい~カウンターをお願いね~」
イアはギルドマスターの部屋へ向かっていった。
◇◇
少ししてから。
「依頼完了、これをお願いします」
一人の男が包みを持ってギルドのカウンターへ向かう。
「ロカビリーさん~お待ちしておりました~」
受付嬢は、やってきたロカビリーに声をかける。
「??何かしましたかね?」
受付嬢に待たれるような何かをしただろうか?
見に覚えのないロカビリーは尋ねる。
「ギルドから大森林の調査依頼指名です~」
受付嬢が言う。
「はい~ダリルさんとジョンさんにも同行して頂きます~。ロカビリーさんの魔法なら、安全に広範囲の調査ができるだろう、とのことでの人選です~」
「ふむ。構わないですよ。いつからですか?」
大森林の異様な静けさには不安を抱いていた所だ。
「あんたがよければ今すぐにでも!だ!」
やってきたダリルがロカビリーに声をかける。
ダリルとジョンには既に受付嬢が声をかけ、快諾してくれている。
「ギルドからの調査指名なら報酬もいいしな。最近仕事してなくて働きたくて仕方ないんだよ。いつもは働きたくないのになぁ」
ジョンがおどけたように言う。
「ははは!大丈夫ですよ、荷物を纏めてくるので少しだけ待っていて下さい。ではイアさん、急ですが私の準備が終わり次第すぐに出ますよ」
「ありがとうございます~期限は往復4日半、片道2日で行けるところまで行って戻ってきて下さい~」
頭を下げるイア。
少しして荷物を纏めたロカビリーが戻り、三人は大森林へ調査に入っていくのだった。
◇
初日の夜
「おかしいな…やっぱりなんにもいねぇ…」
三人で焚き火を囲み、食事を取っている。
行けども行けども、動物にも魔物にも会わずに進んでいる。
順調と言えば順調だが、何かしらの情報が欲しい。
「魔物がいない」以外の情報が。
その情報が重要になるだろうからだ。
「私は音魔法で辺りを探りながら進んできたが、全く生き物の音がなかった。やはり異常だ」
ロカビリーが言う。
「魔物はどこへ行った?まさか奥に引きこもってるなんてことはないよなぁ」
ジョンが言う。
「そういや二ヶ月と少し前に『炎刃』が森に入ったな。まさかあいつが片っ端から倒してたりしてな」
ダリルが冗談めかして言う。
「はっはっは!あり得るな!魔獣でも裸足で逃げだすぜ」
ジョンは笑いながら言う。
「時期的には少しずれているので違うとは思うがなぁ…明日はもう少し範囲を広げて進んでみるよ」
ロカビリーが言う。
音魔法での探知をしながら歩くのは集中力がいるのだが、ここまで周囲に何もいない上に襲われる事もないのならばもう少し広げる事もできそうだ。
「頼むぜ、ダンナ!」
こうして初日は何もなく過ぎていった。
◇
二日目
早朝に起き、進みだして数時間。昼すぎくらいの時間だ。
ニアフォレストから見れば丸1日かかるか、かからないか、と言った程度の距離。
突然、ロカビリーが歩みを止める。
「……なんだこれは……」
まさに顔面蒼白、ロカビリーの額に一気に汗が吹き出す。
「?どうしたんだ?何か居たのか?」
ロカビリーの様子に気づいたジョンが尋ねる。
「ダンナ、大丈夫かい?」
続けてダリルも言う。
「……夥しい数の魔物、大きさからみて魔獣もいる…」
ロカビリーは目を瞑り、集中して音を聞いている。
「!数はどれくらいだ?」
ジョンが尋ねる。
「……数えられん。分かるだけで、少なくても魔物が100以上」
「バカな!?ありえん!……いや、だからか」
ダリルは信じられず、思わず否定に入るが、最近の大森林の魔物の少なさを考えれば納得できる。
それどころか、もっと多くてもおかしくない。
「どうする?戻るか?」
「……いや、ギリギリまで近づこう。私の音魔法でこちらの音を消せばかなり近くまで行くことができる。私自身も目で見ないと信じられん」
ジョンの問いにロカビリーが答える。
「危なくねぇか?」
「どんな魔物なのか、同種の大量発生なのか、種族問わずの集団なのかだけでも分かれば対策が立てやすい。最低でもそこまでは調べたい」
ジョンのさらなる問いかけに、ロカビリーはさらの答える。
「わかった、もしなんかあったらロカビリーさんが情報を伝えてくれ。俺達が盾になる」
ジョンはどんと胸を叩く。
「頼んだぞ」
ダリルが言う。
「いやお前も盾だから!何オレだけ残る感じになってんだよ!相棒だろうがよ!?」
ジョンが思わずツッコミを入れる。
「ふふふ、君たちと居ると飽きないな。大丈夫、三人で戻ろう。必ず」
ロカビリーは握りこぶしを二人に向かって出す。
ダリルとジョンは無言で拳を出し、ロカビリーの拳をそれぞれ小突くように合わせる。
◇
テント用の認識阻害魔法の巻物を使用し、ロカビリーの音魔法も駆使して限りなく気配を消す。
迂回して、群れの側面から近づく三人。
そうして慎重に進んだ三人が見たのは、数えることなどとてもできない、他種族入り交じった魔物の群れであった。
(なんという…!100どころの話ではない!)
(魔獣らしき奴もかなり居るな…これはこれは)
(…少しずつ西へ向かっている。戻ろう!すぐに報告だ!)
三人は顔を見合わせると、すぐにその場を離れた。
◇
群れからかなり距離をとり、魔法を解除する。
一気に全身から汗が吹き出す。
「見間違いであってほしかったものだ」
ロカビリーがポツリ、と言う。
「悪夢だぜこれは…」
息を切らしながらダリルが言う。
「とにかくすぐにニアフォレストに戻ろう。報告して一刻も早く対策を練らねば」
ジョンの言葉に、二人は頷く。
そうして三人は全速力でニアフォレストへ向かうのだった。
あの数にどう対抗するのか。
もはや国難のレベルであろう、魔物と魔獣の大群。
とにかく、一秒でも速く。
3人は不眠不休で走り続けた。
明日は10時です!いつもありがとうございますm(_ _)m




