72話『帰路/異変』
魔法転移門を出るハルとミナ。
「うおっ…なんか背中がぞわぞわする…」
門を出るなりハルはしゃがみこむ。
「そう?私はなんともなかったわよ~ちょっとぞわっとしたくらい?」
ミナは平気そうな顔をしている。
「体質的なものかな??まぁ何度も通るもんでもないからいいか…さて、じゃあ地図を確認しよう」
ハルは荷物から地図をとりだす。
ダリウスさんがくれたものだ。
魔法転移門の場所も含めて周辺が書いてあるものだ。
魔法転移門自体にも、隠匿や忌避の魔法が掛かっているので、場所を知っていなければ見つけることはできないだろう。
その上、通行証となる魔道具か加護がなければ魔法転移門は起動しない。
遥か昔のハイエルフはかなり用心して作ったのだろう。
当然だ、敵に利用されれば容易に侵略されてしまうのだから。
そのお陰で現在も魔法転移門は無事で、次回からは楽に行き来ができるのだから助かるものだ。
ハルとミナは地図を確認しする。
魔法転移門の位置は、ニアフォレストから見れば北西の位置にある。
ニアフォレストから見れば、パーペチュアルは東南東辺りになるので、やはり魔法転移門の場所を知らなければまず行くこともないし見つけることもできないだろう。
「かなり近いね。2日もあればニアフォレストに着くんじゃないかな」
ハルはミナに言う。
「このまま森の中をまっすぐ南に下りましょう。森から出ると楽だけど食べ物がないわ」
「たしかにそうだね。よし、行こうか」
大森林から出てしまうと、平野になっているのでもちろん進みやすいが、その分、魔物はおろか、動物さえ見なくなってしまう。
馬車や馬があって十分に食料があるならば当然、森から出る方がいいのだが、今回は二人だけなので持てる数にも限りがあるので、狩猟しながら進みたい。
その為、このまままっすぐ森の中を南に下り、そこからニアフォレストへ向かう事にしたのだ。
慣れた足取りで二人はどんどん森を南下していく。
大森林の歩き方にもだいぶ慣れたものだ。
痕跡や気配、魔力の流れを読んで魔物などを探しながら、回避しながら進んでいく。
懐かしい。
「……ミナ」
ハルはふとミナに声をかける。
「なぁに?」
「ありがとう」
ハルはなんとなく礼が言いたかった。
「ふふふ、いいわよ」
ミナが妙にしおらしい。
ようやく私の大切さに気づいたのね!くらい言うかと思ったが。
「ニアフォレストに着いたら何かお礼をするよ」
「楽しみにしておくわ」
ミナがにっこりと笑う。
ストレートに返されるとこっちが恥ずかしいな…
と思うハルであった。
◇
夜
「結構来れたね。明日には着けそうだ」
干し肉と野菜のスープとパンを頬張りながらハルは言う。
「着いたら、ミナはどうするの??」
ハルが尋ねる。
「ハルはどうするの?ニアフォレストで冒険者を続ける?私は貴方に付き合うわよ」
パンをかじりながらミナが言う。
「そうだね…そのままニアフォレストで冒険者かなぁ。ミナはエルフの国との人材交流やらなんやらはどうするの?」
「それは獣神に連絡して、然るべき人物がこっちに来て交渉なり準備を進めるのよ。さすがに毎回私が行く訳にもいかないし」
「それもそうだ。お父さんも喜ぶといいね」
「そうね~思ったより大きな仕事になりそうだしね。まぁ私はハルと一緒に居るから安心して」
ミナがハルの目を見て言う。
「保護者じゃないんだから」
「だって貴方、一人にしたらどっか遠くに行っちゃいそうなんだもの」
ミナはハルの目をまっすぐに見つめ、ほんの少し心配そうに言う。
目を反らす事は、できなかった。
「ミナ、あのね。話があるんだ」
「(あっこれ…告白されるやつ…!?)」
ミナは無言だが耳がピクピクと反応する。
「違うよ?真面目な話だよ?聞こう?」
「なっなんでわかったにゃ!まだ何も言ってないにゃ!」
言い当てられたミナはうろたえる。
「実はね、オレこの世界の人間じゃないんだ」
…………。
◇
ミナにも全てを説明した。
「…だから、時が来たら俺は自分の世界に帰らなくちゃならないんだ」
自分の事情で、ミナを振り回す訳にもいかない。
好意に甘える事ような事はしたくない。
「……そっか、なるほどね。わかった、私もそっちに行く!」
ミナが立ち上がり、名案!!とでも言いたそうに宣言する。
「そうきたかー…いやーさすがっす」
正直予想外だったが、ミナなら神様まで言いくるめるかもしれない。
そんな場面を想像すると笑えてきた。
「私は私の意思で貴方と一緒に居るわ。少なくともこっちにいる間は、そばにいる」
ミナは強い目でしっかりとハルを見据えて言う。覚悟の目だ。
「……ありがとう」
ミナは強い。本当に、この世界の人達は強い。
そうして二人はどうやって神を言いくるめるかを相談するのであった。
◇
次の日。
順調に二人は大森林を南西に向かっている。
想定よりもずっと早く進んでいる。
あと半日もあればニアフォレストに着くだろう。
順調すぎるくらいだ。
「ねぇハル、おかしくない?」
ミナは怪訝な顔で言う。
「……少なすぎる。昨日から魔獣どころか魔物にも全く会ってない。どころか、動物も見ない」
昨日も全く魔物にも動物にも遭遇しなかった為、持ち歩いていた干し肉のスープになったのだ。
と、いぶかしんでいると。
ーーーォォ…ンーーー……………。
遠くでなにかが…これは…音?いや、空気が震えるような…魔力の震え?
「!!ハル!爆発音、ニアフォレストの方角からよ!!」
ミナの耳がピクピクと動く。
「急ごう!!」
それを聞いたハルは叫ぶ。
ハルとミナは放たれた矢のように一気に駆け出す。
…ミナが…速い!全速力でも付いていくのでやっとだ!
「ハル!急いで!!」
ミナが少し先で言う。
ニアフォレストで何かあったのだろうか?
とにかく今は少しでも早くニアフォレストへ向かわなければ!!
焦る心を必死に抑え込み、必死に走る。
無事でありますように、と心の片隅で祈りながら、二人は走る。




