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70話『雷神』





「堅いな……今のでも平気か」




ハルはコオロギを見て呟く。



雷の魔法も突撃推力も全開でぶん回したが、やはり魔法を消されるのは大きかったようで、威力がかなり下がってしまった。



あとは、コオロギの魔法への防御力が異常に高いのもあるだろう。



やはりコイツ(コオロギ)は強敵だ。魔法が効かないと言うのはかなり厄介だ。



と、ハルが考えていると、コオロギは歯をギチギチと鳴らしながら翅を広げる。



きぃぃぃぃいん…



引っ掻いたような高音が響く。



すると、いかにもよく切れそうな風の円輪がいくつも現れ、荒れ狂うように複雑な軌道を描きながら炎迅(ハル)に向かって飛んでくる。



炎迅(ハル)は風の円輪をいくつも見切って回避し、いくつか剣で打ち払い、ほんの少し籠手で反らす。



が、回避した風の円輪がまた弧を描き炎迅(ハル)の後ろから、横から再度襲いかかる。



「打ち落とさないとだめか…」



ハルはさまざまな角度、場所、全方位から襲いかかる風の円輪を回避しながら、剣で打ち払う数を増やしていく。



打ち緒とした数が10半ばを超えたあたりでようやく風の円輪が全て無くなった。



ふぅ、と一息ついた所に、今度は小型の竜巻が炎迅(ハル)に襲いかかる。



相手の魔法を封じて近づけさせない遠距離戦か。



厄介だな…



(プラズマ)化…」



小さく呟くと、左腕の竜鱗の籠手から紫電が小さく魔身に走り、一瞬魔身がぼやけるように揺らめく。さらに、炎迅(ハル)の目の色が変わる。



激しい竜巻が炎迅(ハル)を巻き込む…



が、竜巻は炎迅に吸い込まれるように消えてしまった。



それを見たコオロギは、怒りだろうか?鳴き声をあげると、圧縮された空気の弾丸を打ち出す。



が、炎迅の体が霞のようにぼやけ、空気の弾はすり抜けてしまう。



「魔法無効が自分だけの専売特許だと思うなよ」



ハルはそう言うと、雷鳴と閃光と共に空中へ移動する。



炎迅(ハル)は右手の実体剣をしまい、雷神の籠手の付いた左手を開いて前に出す。



「断陣剣・雲耀の太刀(タケミカヅチ)



炎迅の左手が虚空を掴むと、紫電が走り、何もなかった空間に剣が生まれる。



剣は細身で蒼白く、美しい。時折(いかづち)が剣の周りを走り、妖しく輝く。



師匠の機心を取り込んだ、雷神の籠手。



この刀は師匠の心だ。雷神の(つるぎ)だ。



炎迅(ハル)(いかづち)を帯びた刀を頭上に掲げる。



バチバチと激しい音を立てながら、刀から雷がのびてゆく。




「必殺…紫電一閃!」



激しい雷鳴と共に振り下ろされた稲妻の(つるぎ)は、堅い外皮も魔法防御力も、魔法を打ち消す音さえも意に介すことはない。



全く抵抗がないかのように滑らかに、魔獣の下と後ろの地面深くまで共に切り裂く。



魔獣(コオロギ)の体は左右真っ二つに別れ、地面に倒れる。



雷光と共に地面に降りた炎迅を解除するハル。



その様子を全て見ていたエルフ達から歓声が上がる。



「なんて力だ!まるでアルフレッド様のようだ」「彼がいなければどうなっていた事か…」



魔法が効かない、エルフの天敵とも言える魔獣を撃退したのだ、エルフ達には、安堵の色と喜びがみえる。



そして、戻ってきたハルは手厚い歓迎を受ける。



感謝の言葉をかけるエルフ達。



そこに一人の男が近づいてくる。



「……疑って申し訳なかった。謝罪させてくれ。そしてありがとう」



ダリウスはハルに頭を下げる。



「いえ、見ず知らずの人間の言葉を簡単に信じる事などできないですよ。責任感の為、王や国を思っての事でしょうから。素晴らしい事だと思います」



「すまない。だが…だとするならばアルフレッド様の話も本当か…惜しい人を亡くしたものだ」



ダリウスは悲しそうに言う。



信じたくない、と言うのもあったのだろう。



息子(あれ)が悔いはないと言ったのだ。仕方ないのだろう。寂しくはなるがな。そして実に見事な戦いぶりだった。ありがとう」



国王がハルに言う。



「ありがとうございます。お力になれてよかったです」



ハルは頭を下げる。



「凄まじい力だった!立ち話もなんですのでとりあえず戻りましょう?」



王子の一言でようやく動き出す。



守備隊の面々はコオロギの始末に行くようだ。



「しかしあれですね、こういう事があると、エルフ以外の種族も迎える方がいいのかもしれませんな、父上」



王子が言うと、王も、そうだのう…と思慮にふける。



たしかに今回の件は、冒険者(バスター)か獣人が何人かいればあそこまで苦労することはなかったかもしれない。



「他種族が住んでもいいの?『神聖なエルフの里に~云々』とか言わない?」



ミナが王子に尋ねる。



「ここ2、3000年は気にするエルフも減りましたからね、問題ないですよ」



どうやら昔はそのような考えもしていたようだが、肉食等と同様に、エルフの考え方も変わってきているらしい。



「だったら獣神(パパ)に話してみましょうか。もしかしたら移住希望の獣人がいるかもよ。ある程度は保証がほしいけどね」



ミナが言う。



「でしたら人材交流の形をとるのもいいかもしれません。いい加減、森の奥に引きこもっている時代でもないですから」



ダリウスが言う。



「ほっほっほ、やはり外の人と話すと楽しいの。よし、ダリウス、詳しい話をしてくれ。空き家もある、保証は十分につけるようにな」



国王が笑いながら言う。



「かしこまりました」



こうして魔獣のお陰と言ってはおかしいが、意外な形で獣人の国とエルフの国に交流が生まれそうだ。



距離がかなり遠いのが難点だが、きっとそんな事は問題にならないだろう。



お互いの国のために、いい形になるといいな。



師匠も喜んでくれてるといいな。



歩きながら、そんな事を考えるハルであった。









明日は10時に更新します!

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