69話『再来』
「くそっ!街が近くなってきた…そろそろ止めないとまずいぞ!」
守備隊のエルフ達は弓を射ち、魔法を放つ。
数人で協力して大きな土魔法を使い、空中で大きな岩を作る。
落ちる過程で土に戻ってしまうので大量の土を上からかけるだけになるのだが、思ったよりも嫌がらせにはなるようで、コオロギの進む速度はゆっくりになった。
それ以外にも、土と水でぬかるみを作ったり、とにかくやれるだけの事を全てやっている。
だが、肝心のダメージはほとんど与えられていないに等しい。
このままではいずれ街に侵入してしまうだろう。
エルフ達の焦りの色が濃くなり始めた時だった。
「ダリウス様!!あれを!」
エルフの一人が後ろを指差して叫ぶ。
「なんだ?そんな暇があったら…国王!?」
振り返ったダリウスが見たのは、この危険な戦場に近づいてくるエルフのの国王、エルポム・グラムの姿であった。
「いけません国王!!早く離れてください!貴様何を考えているっ!?」
ダリウスは王の隣にいるハルを見て叫ぶ。
「ダリウスよ、案ずるな。皆の者、聞け!我が息子、アルフレッドが魔獣との戦いで命を落とした。強大な竜から国を守りきったそうだ。彼はアルフレッドの弟子で、我らが天敵とも言えるそのコオロギを退けるだけの力がある。その為に来てくれたのだ!」
王は兵士に語りかける。
師匠の事はいずれ伝えなければならない。ならばこそ、今ここで、との王の意向だった。
「そんな…アルフレッド様が…」「なんてことだ…」「可能なのか…あの魔獣を…」
エルフ達は口々に言う。唐突すぎるのか、混乱や失意よりも戸惑いが大きい。
「…バカな…人間は魔身とかいう機兵を使うと聞いたが一人で魔獣などとても…」
ダリウスが言う。
魔法しか使えないエルフに比べれば、武器や身体強化のできる人間や獣人の方がまだ戦う事はできるだろうが、それにしても無茶な話だ。
あの人間は何をするつもりだ?
◇
「エルフの王子であり、我が師匠であるアルフレッド様は、神にも近い相手、竜を倒し、救国の英雄となりました。その名は後世まで語り継がれる事でしょう。ならばこそ、弟子である私も伝説の一端を担わなければならない。まして魔獣なんぞに師匠の故郷を荒らされてたまるか!!!」
ハルは静かに語り始め、最後には叫ぶように言う。
「ミナ!王を頼む!」
「はいさ~い」
ミナは気楽に手を振って答える。
「魔身機召喚! 炎迅…点火!!」
ハルの機心から光が溢れ、光は炎に変わる。
燃え盛る炎の渦を腕で払い退けると、炎の鎧が形作られていく。
さらに左腕の籠手から雷が弾け、青白く光ると、紫電は黒と金の装飾となって炎迅に刻まれていく。
「『雷神』アルフレッド・グランが一番弟子、『断陣剣』参る!!!」
◇
現れた魔身機を見てダリウスは思う。
人間というのはあの機兵を介さねば魔法もまともに使えないのだ。
そんな人間がたった一人であの魔獣をどうしようと言うのか。
熟練の冒険者でも数人がかりでやっとだと言うのに。
図体が大きい分、まだ近接戦は形になるかもしれんが、魔法もなしに何ができる?
まさか本当にアルフレッド様の弟子なのか…?一人でなんとかできると言うのか?
ならばその時は……
◇
りぃぃぃん…
魔獣は翅を震わせ、エルフ達を苦しめたあの音が広がる。
「……よし、魔身の解除まではできないみたいだな」
なんともなく動く炎迅にホッとするハル。
もしあの魔法を消す音が魔身機を解除してしまうのならばかなり面倒な事になる所だったが、問題はないようだ。
街が近すぎるので、とにかくコオロギをここから離したほうが良さそうだ。
せっかくなのでパフォーマンスも兼ねさせてもらおうか。
「師匠直伝……炎迅全開・全速前進!!」
炎迅は左腕の籠手を突きだし、稲妻を纏って一直線にコオロギに向かって突撃する。
激しい稲光と雷鳴が辺りを包む。
アルフレッドが最も多く使っていた技。
「あれは…アルフレッド様の!」
エルフの誰かが叫ぶ。この国にアルフレッドがいた頃、やはりその時からよく使っていたようだ。
「だが魔法は…」
すぐに誰かが続けて言う。
「いけぇええええぇぇぇ!!!」
ハルの気合いと共に、まさに雷のような目にも止まらぬ速さと雷鳴と共に炎迅は突撃する。
コオロギは翅を震わせ、魔法を消す音を出すが、炎迅の光は消えることはない。
炎迅はそのままコオロギに超スピードで突撃し、殴り付けるようにしてそのまま前へ前へ進んで行く。
周りの木々をなぎ倒しながら、紫電の突撃はコオロギを奥へ奥へと運んで行く。
「……なんて威力だ……」「ばかな…魔法は…消されるはすなのに…」「アルフレッド様を見ているようだ」
一撃で遥か遠くまでコオロギを殴り飛ばした炎迅を見てエルフ達はそれぞれ思ったことを口に出す。
「なぜだ!?なぜ奴の魔法は消えない!?」
ダリウスは思わず叫んでいた。
自分達をあれだけ苦しめた、魔法を打ち消す音がなぜ奴にだけ効かない!?理不尽だろう!?
「見てなかったの?消される端から魔法出してたじゃん。消されるよりも速く、消されるよりも多く、消されるよりも強く。それだけだよ」
ミナが起こっていたあるがままを話す。
理由は単純、消された端から、それ以上に大量に魔法を出していただけだ。
要は出力でごり押ししただけである。
「ばかな……そんな…人間の魔力量で出来ることではない!エルフでも無理だ!まるで……まるで…」
アルフレッドのようじゃないか。
ダリウスは出かかった言葉をなんとか飲み込む。
再来だとでも言うのか…?
ひしゃげた木々の先で、コオロギの姿が見える。
そして目についたのは、地面から空中へ雷が走り、突然空中に現れた炎迅の姿だった。
いつもありがとうございます!明日は21時です!




