68話『弟子』
「魔獣?入ってくるのもたまにいるだろう。守備隊に撃退させろ!忙しいんだ」
慌ただしく入ってきた兵士の報告に、ダリウスは辟易して答える。
「そっ、それが、魔法が効かないのです!とにかく来てください!」
「魔法が効かない!?……ちっ、わかった、すぐに行く。」
兵士の不穏な報告に返事をすると、ダリウスはすぐにハル達の方に振り返り、言葉を続ける。
「話は終わっていない!部屋を手配させる。すぐに戻ってくるので待っていろ!」
そう言って兵士に指示を出すと、部屋を出ていってしまった。
なんだか嵐のような人だなぁ……内心まだ少し小さな怒りは残っているが、まぁ問題はないだろう。
「客人よ、すまない…謝罪させてくれ。悪い奴ではないのだが、どうもこう思い込みの激しい所があってな…何千年も生きてるとどうもなぁ…」
王は髭をさすりながら苦笑いをする。
「私からも。申し訳ない」
師匠の弟、王子も頭を下げる。
「いえいえ!頭を下げないで下さい。怪しいのも分かってますから…仕方ないかと…」
ハルは慌てて答える。王族に頭など下げさせるものではない。
「しかし『魔法の効かない魔獣』ですか…本当でしょうか?ハル殿はご存知で?」
王子が言う。たしかに気になる所だ。
「ドワーフの国で戦った鉄蛟竜が霧のベールで魔法をかき消すのを見たことがありますが…同じようなものですかねぇ?ミナはある?」
「私はないわね…そもそも獣人は、魔法は補助で使うのがほとんどだから…」
そりゃそうだ、有り余る筋力や俊敏性をさらに魔力強化で伸ばす方が効率がいいし無駄がない。何よりも性に合っているだろう。
「その時はどうやって倒されたのですか?」
王子がハルに問う。
「炎や風などは無効化されましたが、土魔法は多少は効果がありましたので、それをメインに。ですが最後は仲間が剣で首を落としました」
鉄蛟竜は今思い出してもなかなかギリギリの戦いだった。
「ほう!なるほど…すごいですね」
王子は嬉しそうに聞いている。
セリスさんもそうだけど、エルフって引きこもりの割には外の事知りたがるよな…。
「ねぇ、いいの?」
ミナがハルに問いかける。
「なにが?」
ハルが問い返すと、ミナが言う。
「土魔法と弓だけで魔獣を倒せるのかしら」
……たしかに。しかもハル達が倒したときは結局とどめはアリスの剣だった。
まずくないか??
「……王よ。居合わせたのも何かの縁。ご助力させて頂けませんか?」
主力攻撃である魔法を封じられたエルフよりは、自分達の方がまだまともに戦えるだろう。
「むしろ助かる。こちらからお願いしたいくらいだ」
王は神妙な顔で言う。
「でもあのプライド高くて思い込みの激しいエルフが文句いいそうね」
ミナが肩を竦めて言う。
「ならば王よ、命じてください。『アルフレッドの弟子と名乗るならば力を見せてみよ、他の者は手出しするな』と。さすれば守備隊のメンツも守れましょう。王命ですから」
王に命じられて待機してたから仕方ないよね、と言うスタンスで居てもらうのだ。
「よかろう、折角だ私も見せてもらおうか」
そう言って王が立ち上がる。
「私も行きます!!」
王子も立ち上がる。楽しそうだ。
そうして部屋から出ると、王達の護衛も含め、皆でぞろぞろと向かうのであった。
◇
「ダリウス兵長!!」
ダリウスが現場に到着し、目に入ったのは、魔獣、10メートルを超える巨大な蟋蟀だ。
余談になるがエルフの国(里)には結界がある。
正確には、『入れなくする』ものではなく、『来たくなくなる』効果がある。
つまり障壁ではなく、忌避だ。
魔物や魔獣の類いが、『なんとなーく嫌』な雰囲気や魔素、空気で、自然と近づかなくなる、ように出来ている。
が、やはり何事にも例外はある。
何年か、なん十年に一度、入ってくる魔物や魔獣がいるのだ。
そしてそんな時のためにエルフの国の守備隊はある。
エルフは魔力量が多く火水土風の四大属性が全て扱えるが、魔素による筋力強化は扱うことができず、元来の性格もあって体術などはほとんど期待できない。
「もう一度だ、いくぞ!」
ダリウスが声をかけると、返事が聞こえる。
一斉にいくつもの火球がコオロギに向かって飛んでいく。
コオロギはそれを見ると、歩みを止め、翅を広げる。
りぃぃいいぃぃい……
「くそっ!またこの音か!!」
翅から不思議な音が流れ、辺りに広がっていく。
すると、飛んでいった火球はみるみるうちに小さくなり、ついには着弾する前に霧散してしまった。
何度やってもあの音が聞こえると魔法が消されてしまう。
翅を止めれないかと弓を射かけてみたが、ゴムのように分厚く弾力のある翅はびくともしなかった。
「ならば土魔法だ!」
続いては一斉に土魔法を放つ。地面から巨大な槍を出す者、地面が盛り上がり、大きな固まりが落ちるように降らせる者、マシンガンのように弾を打ち出すもの。
様々な攻撃がコオロギに近づく。
が…
りぃいいいいぃん…
同じように、翅が音を出すと、…なんと不思議な光景か。
地面から伸びていた槍などが、逆再生にでもしたかのように、その場で崩れて地面に戻っていく。
「くそっ!物質でも同じとは!なんと厄介な!」
悪態をつきながら、ダリウスは考える。
炎も土も、一瞬でかき消されるわけではない。と言うことは無効化や消滅ではない…。
ならば魔法を起こしている魔素の動きを止める『停滞』か『縮小』辺りの複合魔術だろう。
穴を掘って落とした上から水でもいれてやろうかと思ったが、掘ってる間に魔法を止められてしまう。
それに、掘ってからでも、落とす手段がない。
魔法があればなんでもできると思っていた。
魔法が使えないだけでこんなにも無力になるとは……
あのコオロギはエルフにとっては最悪の天敵だ。
だが諦めることはできない。
守備隊は必死に弓を射かけ、魔法を打ち続ける。
コオロギの、不気味な翅の音が戦場に響いていた。
明日は20時てす!




