56話『おねがいshall we~?』
しこたま飲んで騒いでお腹一杯な二人は店を出る。
「あ"ぁ"~食べたぁ~飲んだにゃぁ~」
ミナが伸びをしながら言う。おへそが見えているがご愛敬だろう。つか酔うと語尾そうなるんだ。
「うまかったね~。俺あっちだけど、ミナは?送ろうか?」
「私もそっちだから大丈夫だよ~」
「じゃあ一緒に行こうか。」
同じ方向を指差したミナ。ハルはミナと共に宿の方へ歩き出す。
「明日はどうするの?」
ミナが寄り添って尋ねる。
「とりあえずニアフォレストに向かうから、買い物かな?二人になったし調整しないとね。一緒に買いに行こう」
「了解にゃ!」
ミナは楽しそうにスキップをして、敬礼をする。やっぱ酔ってる?
「さて、俺はここの宿なんだけどミナは?送っていこうか?」
自分の宿に着いたのでハルが尋ねると、
「私もここだよ~」
ミナは上機嫌に答える。
「なんだ同じ宿か。偶然だね」
そう言ってハルはミナと共に宿に入る。
ハルは受付で鍵をもらうと、ミナを待つ。
ミナは受付のおやじと何か話しているようだが、少しすると笑顔でこちらにやってきた。
「話はついたよ~ラッキーだね」
「?そう…なんだ?」
ミナの言っている意味がよくわからないが相づちをうつ。
なんだ?ミナが普段より猫っぽい顔してるぞ?
階段を上がっていくハル。ミナもそれに続く。
受付のオヤジがミナに向かってサムズアップをしていたが、ハルは気づいていない。
◇
部屋の前に立ち、鍵を開けるハル。
「それじゃおやすみ~」
「はーい」
ミナにそう言ってハルは部屋に入る。
が、ミナはハルの後を追って部屋に入ろうとする。
「ちょっと待って、自分の部屋は!?」
気付いたハルは慌ててミナを止めて尋ねる。
「?私もこの部屋だよ?」
何の話かわからない、と、きょとんとした顔でミナは言う。
「いやいや、ここは俺が借りた部屋だよ?自分の部屋は!?鍵は!?」
まさかコイツ…!?
「受付のおじさんに、連れですって話したら、この部屋に泊まれって言われたよ。差額は払ったけど。二人部屋だから大丈夫だよ」
笑顔でミナは答える。
「いやいや、まずいでしょ!!違う部屋借りてくるよ!」
ハルは慌ててミナに言い、受付へ行こうとする。
「ハル、忘れたの?『空きがないから、二人部屋だけど一人部屋の料金でいい』って受付で言われたでしょ?」
……言われた。
街に来てここに宿を取りに来たときそんな事を言われた。
なにか催しがあるとかで、どこも宿がいっぱいだと言っていた。
くっ…これはまずい!
「わかった、わかったよ。じゃあ俺は野宿する。ここはミナが使っていいから!」
「いやいや風邪でも引かれたら困るしー、もう二人分の料金払ったしー。そもそも何回も野宿で一緒に寝てるんだから今さら変わらないでしょ?」
ミナが正論で捲し立てる。……正論か?
「いや、そうだけど…いやーまずいでしょ…」
ハルは冷や汗が止まらない。
「まずいこと起きるの?……ハルのえっち…信じてたのに…」
ミナが上目遣いで見てくる。
「い、いや、大丈夫だよ!当たり前じゃん!」
「じゃあ問題ないね。それに、同じ部屋だけど寝るのは別なんだから。おっきい馬車の中だと思いなさいな。てかこんなとこで話してたら周りに迷惑だから早く入ろう?」
ミナは早口に言う。
「そ、そうか…な?たしかに、そうか…」
「そうそう、これから旅の間はずっと一緒なんだから。特別でもなんでもないわよ。ほら入った入った!」
そう捲し立てられ、ハルは勢いに負けて部屋に押し込まれる。
すかさずミナも部屋に入る。
ミナの後ろ手からカチャリ、と何かの音がする。
肉食動物の眼が輝く。
◇
部屋に入るハルとミナ。
部屋の中央にベッドが2つ並んでいる。
(なんでくっついて並んでんだよ!?二人部屋なら普通端っこだろう!?)
予約をとった時点で、二人部屋を一人で使うお客さんが、広く使えるようにと宿屋のオヤジが好意でわざわざくっつけてくれた事は誰も知らない。
おやじもこんな事になるなんて思っていなかったのだから。
だがこの偶然はミナにとっては天から降って沸いた幸運である。
(僥倖っ…!なんという僥倖!天が味方してるっ!)
(本妻はアリスに譲ろうと思ったんだけど…今はいないし、このチャンスふいにする手はない!)
ミナは表情に出さずに笑う。
が、狩る者は焦らない。
サバンナでは焦った者は兎を手に入れる事はできないのだ。
焦らずに、この兎ちゃんを頂くッ!!
「私は疲れたから先寝るわ。シャワーは朝浴びるから。ハルは浴びてから寝てね。おやすみなさい」
そう言って横になるミナ。
◇
「あ、あぁ、おやすみ……」
ミナは嵐のようにベッドへ入って、動かなくなってしまった。
呆気に取られたハルは足が動かない。
(……そうだよな。そりゃそうだ。俺は何を考えてるんだ。勝手に盛り上がって。痛々しい奴じゃねぇか!!)
いらぬ妄想をした自分に急に恥ずかしくなる。
そして激しく自己嫌悪。
(ミナ、着替えてねぇけど…獣人ってそーゆーもんなのかな。まぁいいや、とりあえず風呂入って頭冷やそう……)
ほっとしたような、違うようなため息を一つして、ハルは部屋に備え付けのシャワーを浴びにいく。
◇
シャワーから上がり、着替えを済ませて部屋に戻る。
ミナは寝ているようだ、寝息の音だけが聞こえる。
かなりお酒も入っていたし、当然だろう。
ひょんな事から出会い、一緒に旅をすることになった。
心強い仲間だ。
やれやれ、振り回されたな、と笑って、ハルは床についた。
すぐに睡魔がきて、眠りの底へ落ちていくハルであった。
◇
ぱちっ
星明かりしか光源がない部屋の中は暗く、その中に開かれた2つの大きな瞳が、瞬きをしながら輝いている。
瞳は暗闇の中を動き、自分の荷物から何かを取り出し、焚く。
暗闇の中に、甘い香りが広がっていく。
「にゃはは…♪私もシャワー浴びよ~♪」
瞳は、スキップでもしているのだろうか?音もなく弾みながらシャワーへ向かう。
◇
………ル…………ハル…………。
……ん?……誰かが……呼んでいる?
感覚的にはあまり長くは寝ていないような気がするが、起こされた…ようだ??
ハルが寝ぼけ眼を開く……が、やはり部屋は暗い。朝ではなさそうだ。
…ん??
なんだこれ?
目の前に何かあるようだ。
……柔らかい…はっ!
と、気づいて飛び退こうとした瞬間、目の前の人物に抱き締められる。
片方の手は頭に、もう片方の手は腰に回され、豊満なバストに顔を押し付けられる。
足が絡み付いてくる。
柔らかい感触と甘い匂いが脳髄を刺激する。
「ハル…」
耳元でミナが、息を吹き掛けるようにつぶやく。
「ミナ!?とりあえず離して!?」
「離したら、逃げちゃうでしょ?……ダメ」
ミナの吐息まじりの言葉が耳をくすぐる。
「いや、あの…」
引き剥がしたい所だが、自分からミナの柔らかい身体に触れたら何かが決壊してしまいそうで怖い。
なんとかならないかとハルは身をよじる。
「ぁんっ…あっ…」
ハルが動いたせいで何かが擦れたらしいミナから艶声が漏れる。
いかん!この声を聞いたらダメだ。天元突破してしまう!
焦ったハルは動くのをやめる。
「獣人はね、強い異性に惹かれるの。パパも、ハルの子供なら大歓迎だって」
「えっ…」
それって…
胸元にきつく抱き締められていたのが少し緩められ、ミナと顔が近づく。
シャワー上がりなのだろう、少し湿った髪と火照った身体。
燻る甘い香り。潤んだ大きな瞳。まつげが触れるほどの近さだ。
「瞳を閉じて…。」
そう言ってミナは再び抱きしめ、ハルの耳に向かってウィスパーボイスで囁く。
ミナの指先がハルの背中を触れるか触れないかのギリギリの感触で撫でる。
「…いいんだよ」
ミナがゆっくりと言う。
息が漏れるような、蠱惑的な言葉に、翻弄される。
いいって……いいんですかーーー!!!
◇
待て待て待て待ていいのかそれで。お前アリスが好きなんじゃないのかよ?
いやいやいやいやここまで来て我慢するとかないでしょしょうみ。てか無理。
一生かけて責任とるんだよ?わかってるー??
本望だ!一生ケモミミ愛でて生きようぞ!!
いや開きなおんなよ…アリスとの別れはなんだったんだよ情けない。
ここで問題。 下は大火事、上は大水なーんだ。
……風呂?
正解は、据え膳目の前にした男です。
くだらねぇこと言ってんじゃねぇよ!とにかく代われ!
◇
あまりにも頼りない、僅か髪の毛一本分ほど残った理性をかき集めてハルは言う。
「ミナ!気持ちは嬉しいけどやっぱ一回落ち着いてさ、しっかりと…」
ハルはミナを抱き締め、諭すように言う。
……が、反応がない。……様子がおかしい。
「……ミナ?」
ハルはミナを引き剥がし、顔を見る。…と、
「……無理……吐きそう…うっ…」
涙目で青い顔をした酔っぱらいがそこに居た。
風呂の暑さと香の甘い匂いが酒に効いたのだろう。
「待って!下に俺がいるから!お願い!せめて場所を変えよう!?」
ハルは焦ってミナと上下を入れ替わろうとするがうまくいかない。
「……揺らしちゃ…だめ……」
「ノォォォォオオオオオ!」
なんとか抜け出したハルはミナをお姫様抱っこでトイレまで連れていく。
酔っぱらいの介抱は明け方まで続くのだった。
明日は10時でございます(^-^)/
主人公が色を好む路線なら行ったんですがね。ハル君は純情ですのでこのようになりました。違う路線が読みたい人はワッフル×2(略




