55話『主人』
「ハルと一緒に行くから。嬉しいでしょ?嬉しいって言え~」
ミナは、からかうように抱きついてくる。
「ボディタッチが多い!とりあえずどっかで話そう」
通りの真ん中で騒ぐわけにもいかないので、……いや既に十分注目の的だ。
ミナを引き剥がして、とりあえず歩き出す。
「私着いたばっかでお腹空いたの。なんか食べましょ!あ、あそことかどう?」
いつの間にか腕を組んでいるミナが店を指差して言う。
いや、既に体はそのお店に向けて引っ張られている。
「かしこまりました~……」
◇
店に入った二人は適当に食べ物と飲み物を注文する。
「んで、どうしたの急に?」
ハルはミナに尋ねる。
「どうしたもこうしたも。色々聞いたわよ。竜の事も…アルフレッド様の事も。残念だったわね…」
「あぁ…うん。師匠らしいと言えばらしいんだけどね」
「竜を倒すとかあの人以外には無理よ。彼がいなければどうなっていたことか…」
アルフレッドの強さを間近で見たミナだからこそ、事の大きさがよくわかる。
そして短い間とは言え一緒に旅をした仲間だ。ミナも思うところはあるだろう。
「獣神が随分落ち込んでたわ。一緒に戦いたかったと。惜しい戦友を亡くしたと」
憂いを帯びた目でミナは言う。
もしあの場に獣神が居れば、結果は変わっただろうか。
いや、たられば話は止めよう。
と、丁度ここで飲み物と一品目が提供される。
「ミナ、乾杯しよう」
ハルはグラスを手にする。
「『雷神』様に」
真剣な表情でミナは答え、二人はグラスを合わせる。
「それと、再会に」
一口目を飲み、ハルがもう一度グラスをあげる。
「え、口説かれてる!?ありがとう!!」
「口説いてねぇよ!」
ミナはくいぎみに笑ってもう一度グラスを合わせる。
「「乾杯」」
ミナが料理を取り分けてくれたので食べ始める。
「濃いめの!味が!進む~」
魚の煮込み料理を食べたミナが唸り、酒をあおる。
「んで、結局ミナがここに来たのはなんで?」
ハルがもう一度尋ねる。
「だからハルと一緒に居るためよ」
さっき言ったじゃないか、なんてきょとんとした顔でミナが答える。
「いやだからなんで一緒に来るの?獣人の王女がウロウロしちゃまずいよね?」
誘拐されて売り飛ばされそうになったのを忘れたのかこの猫娘は?
「えっ…貴方と一緒に居たいから。…あ、もしかしていや!?」
真顔で答えた後に、涙目で少し焦る表情を見せるミナ。
「いや、いやじゃないよ?落ち着こう?」
慌ててフォローを入れるハル。え、ほんとにそれが理由?なんか用事があるとかじゃなくて?
「あ、セキチクでの事も聞いたわよ~随分派手に暴れたみたいね。獣神が戻ってきてワシと戦えって言ってたわよ」
ケラケラと笑いながらミナが言う。
うわぁ…獣神なら言いそう。いや、ガチで言ってるだろうな。
「いやいやムリムリ。獣神さんに殴られたらぼろ雑巾になっちゃうよ」
容易に想像がつく。あんなパンチくらったら跡形も残らない気がする。
「ハルも獣神達、人外側に片足突っ込んでるどころか胸くらいまでどっぷり浸かってると思うけどねー。普通の人間は敵軍を一刀両断なんできないわよ」
今さら何を言っているんだ、自分のやったことを思い出せ、と言うような顔でミナが言う。
「いやー…『雷神』基準だと普通だから!セーフ!」
「何それ、当てにならない基準ね」
ククク、と笑いながらミナは言い、さらに続ける。
「で、アリスとフィーダは??」
「あー、アリスとフィーダは自分の街に居るよ。俺は契約が終わったから一人で旅してた」
ハルが答えると、ミナは目を見開いてハルの目を見る。
「ぇ"っ…別れたの!?」
なんとも表現しづらい声をあげるミナ。
「別れたってか…いやまぁアリス達は家の仕事があるし。残るよう誘われたんだけど俺は行きたい所があるから断ったんだ」
「……ふ、ふーん…そうなんだ…(ちょっとこれチャンスじゃない!?)」
声に出そうになった後半部分をなんとか飲み込んだミナは努めて平静に答える。
「行きたいところってどこなの??」
「エルフの国だよ。師匠が最期に、行ってみろって言ってたから」
ミナが尋ねると、ハルが答える。
「ぇ"っ…エルフの国に一人で行くつもりなの!?大森林つっきって遥か東の端よ!?」
本日二回目の表現しづらい音と共に、ハルの壮大に無茶な計画に驚くミナ。
「……詳しい事はニアフォレストで調べようとおもったんだけど、やっぱ無茶?」
「いやハルなら魔獣は問題ないかもしれないけど、さすがに一人は…いや、なら丁度いいじゃない!私が一緒に行ったげる!よかったわねぇ~」
目をキラキラさせてミナは言う。
「いや助かるけどさ…獣神にはなんて言ってあるの?戻らなくて大丈夫なの?」
獣人であるミナは、大森林の進み方のプロだ。
ハルもアルフレッドと共に大森林で過ごしたことはあるが、一人っきりとなると話が違う。
精神的にも戦力的にも信頼できる相手がいるのは心強い。
「大丈夫!獣神から、貴方の力になるようにって言われたんだから!」
ミナはにっこりと笑って胸を張る。
「そっか。…じゃあお言葉に甘えようかな。ミナ、宜しく!」
「もちろん!よろしくね、ハル♪」
二人は笑顔で握手をする。
寂しい一人旅の予定だったが、予想外に賑やかになりそうだ。
少なくとも独り言ではなくなりそうだ。
二人は別れてからの近況を、これからの事を話す。
話題は尽きず、楽しい夕食となったのだった。
明日は20時です!!
ミナ、書いてて楽しいですな(^^)楽しんでいただけてますかね??




