53話『風に吹かれて』
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城塞都市エイギスの一番外の門を出るハル。
ディアセイント家の屋敷を出てから、エイギスを出るまでは一度も振り返る事ができなかった。
振り返ったら動けない気がして。
もしも仮に俺が残ると言ったら、彼女は喜ぶだろうか。
いや、「妹さんはどうするつもり?」なんて怒るかもしれないな。
たぶんあり得ないけど、彼女が「ここに居て」と言ったなら、俺は全てを投げ捨てて残ったかもしれない。
逆に、「一緒に来て」……いや言えるわけないな。この国トップの大貴族の娘を、いつかこの世界からいなくなる奴がつれ回していいハズがない。
彼女の人生はそんなに軽くない。
いや、もうやめよう。
お互いの性格と立場を考えれば、そうはならない。し、ならなかった。
それだけだ。
師匠が命をかけて守ってくれた。
俺は絶対に目標を達成して元の世界に戻らなければならない。
じゃないと師匠に合わせる顔がない。
だから、進むんだ。前に、前に。
◇
エイギスを出発し、ハルはまっすぐ西へ向かっている。
そのまま行けば王都エリンバラだ。
そこからさらに西へ、ニアフォレストへ行き、森へ入る。
目指すは大森林を突っ切って遥か西の果て、パーペチュアルだ。
完全な一人旅は初めてだが、旅自体は慣れているので問題はない。
馬に無理をさせない程度の速度で進んでいる。
幸い、王国の内部なので大きな魔獣や魔物はほとんど出ない。
小型の魔物か、動物程度だ。
「少し休憩にしようか。よし、飯にしよう」
ハルは馬を降り、餌と水を用意すると、馬は嬉しそうに嘶く。
カイムさんに用意してもらったこの馬、とても賢く人懐っこい。
「よし、お前の名前はシルバーにしよう。我が愛馬は狂暴…ではないな」
ひひん?シルバーが頭を傾げている…ような気がする。
独り言を言いながらハルは自分のご飯の用意をする。
旅も長いので慣れたものだ。
火は魔法が使えるので楽だが、やはり水が問題だ。
多少高くても水を出す魔法の巻物は買ったほうが良さそうだ。
火を起こし、一人用の小さな鍋に干肉や適当な食べれる野草や根菜を入れてスープを作る。
マリアさんから貰った椀を取り出す。
せっかくなのでお土産に、と頂いたのだが、親戚の家にでも来たような気分になった。
細かい装飾に、太陽を模した柄が入っている。美術品はわからないがいい品なのだけは分かる。美しい品だ。
「ほう、雅な椀だな~」
自分で取り出して自分でツッコむ。
「あ、シルバーじゃなくヤッ○ルにするか?でも馬だしなぁやっぱシルバーだな。ハイヨーシ~ルバーしたいしなぁ…」
いかん、一人旅が始まってから独り言が多い気がする。
いや、シルバーが聞いてくれてるので一人ではない!
シルバーがちらりとこっちを見て、鼻を鳴らして目を反らす。
つれないなぁ……。だがそこも可愛いぜ!
パンとスープを食べ終わり、片付けをしたので寝る。
星空とは言え、当然夜は暗い。危ないので進もうなんて考えてはいけないのだ。
「おっとそうだ、アレを使わないとな」
ハルは道具袋から魔法の巻物を取り出す。
この音魔法の巻物、発動すると数時間のあいだ、範囲内の音を外に漏らさないようにしてくれる。さらに、何かが近づくと教えてくれる機能つき!
音を消してくれるので魔物等に見つかりにくく、さらに察知までしてくれる。一人旅には必須の超便利アイテムだ。
ただ、やはり。……安くない。むしろいい値段する。
が、これがあるとないとでは旅の楽さが段違いな為、必要経費と割りきって使用する人も多い。
死んだら元も子もないからな。
魔法の巻物を発動させると、シルバーが範囲内に入り、ハルに寄り添ってきた。
「ほんとに賢いなお前」
ごろんと横になったハルは、シルバーの首筋を撫でる。
虫の綺麗な鳴き声が聞こえる。
シルバーと、焚き火のぬくもりがある。
夜空には、いつか見たような満点の星空が広がっていた。
どこまで旅をすれば、一人前になれるのか、なんて歌いたくなる夜だった。
◇◇
時間は少し遡って竜と『竜墜軍』を撃退したハル達がセキチクを出る頃。
「……なんだと?もう一度言ってみろ」
玉座にはマルメゾン帝国皇帝 マルメゾン・ガラム・ヘリオガバスが座っている。
が、様子が少しおかしい。
「は……はい…竜は討伐され、『竜墜軍』は全滅…いえ、もはや消滅に近い状態です」
帰ってきたのは戦奴隷がわずかばかりだけだ。
あの最強の第一軍、『竜堕軍』が1割しか帰ってこないなんて。
その場にいた全員の顔がひきつる。
「ゼノ様も戦死されたそうだ…」「バカな……」
「それともうひとつ、『雷神』も死んだようです」
部下が報告を続ける。帝国としては朗報だが…
「なるほと、雷神か…」「一人で竜と『竜堕軍』を?さすがにそれは…」
周囲がさわめく。
「いえ、『雷神』は竜と相討ち、『竜堕軍』は雷神の弟子を名乗る者の仕業だとか…」
「なんだそいつは?」「そんな奴が我が『竜墜軍』を!?」
「雷神め…くたばったと思ったら弟子まで厄介なのか。どこまでも忌々しい」
ガラム・マルメゾンは苦虫を噛み潰したような、怒りの混じった表情をしている。
「とにかく軍の再編成を急げ。いつ飛竜が来るとも限らん。それとその弟子とやらの事を調べろ。あとは……そうだな、アイツを呼べ。竜は番のもう一匹の方を堕とす。準備をしろ」
ガラム・マルメゾンが指示を出すと、部下が礼をして出ていく。
誰も居なくなった部屋でガラム・マルメゾンは呟く。
「折角長年かけて準備したものを駄目にしよって…死ぬ時まで忌々しい!ツケは弟子とやらに払わせてやるぞ…雷神め」
なんとも腹立たしいが、当たり散らしても仕方ない。
それよりも無くなったカードと手に入った情報でこれからどうするかだ。
無くした物『竜と主力軍』は惜しいが、王国が払った代償も大きい。
これからが楽しみだ。
ガラム・マルメゾンは笑う。
老齢なれど、この世の全てを手に入れようと力を欲する様は活力に満ち、まさに邪悪の権化のようだ。
まさに悪魔の遣い、……はたまた悪魔そのものか。
彼の目は狂気に満ちていた。
明日は21時です!
再び王都エリンバラへ。




