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53話『風に吹かれて』

いつも読んでいただきありがとうございますm(_ _)mブクマ、評価、励みになっております♪






城塞都市エイギスの一番外の門を出るハル。




ディアセイント家の屋敷を出てから、エイギスを出るまでは一度も振り返る事ができなかった。




振り返ったら動けない気がして。





もしも仮に俺が残ると言ったら、彼女は喜ぶだろうか。



いや、「妹さんはどうするつもり?」なんて怒るかもしれないな。




たぶんあり得ないけど、彼女が「ここに居て」と言ったなら、俺は全てを投げ捨てて残ったかもしれない。





逆に、「一緒に来て」……いや言えるわけないな。この国トップの大貴族の娘を、いつかこの世界からいなくなる奴がつれ回していいハズがない。



彼女の人生はそんなに軽くない。




いや、もうやめよう。



お互いの性格と立場を考えれば、そうはならない。し、ならなかった。




それだけだ。





師匠が命をかけて守ってくれた。




俺は絶対に目標を達成して元の世界に戻らなければならない。




じゃないと師匠に合わせる顔がない。




だから、進むんだ。前に、前に。








エイギスを出発し、ハルはまっすぐ西へ向かっている。




そのまま行けば王都エリンバラだ。



そこからさらに西へ、ニアフォレストへ行き、森へ入る。



目指すは大森林を突っ切って遥か西の果て、パーペチュアル(エルフの国)だ。




完全な一人旅は初めてだが、旅自体は慣れているので問題はない。



馬に無理をさせない程度の速度で進んでいる。



幸い、王国の内部なので大きな魔獣や魔物はほとんど出ない。



小型の魔物か、動物程度だ。





「少し休憩にしようか。よし、飯にしよう」



ハルは馬を降り、餌と水を用意すると、馬は嬉しそうに(いなな)く。



カイムさんに用意してもらったこの馬、とても賢く人懐っこい。



「よし、お前の名前はシルバーにしよう。我が愛馬は狂暴…ではないな」



ひひん?シルバーが頭を傾げている…ような気がする。



独り言を言いながらハルは自分のご飯の用意をする。



旅も長いので慣れたものだ。




火は魔法が使えるので楽だが、やはり水が問題だ。




多少高くても水を出す魔法の巻物(スクロール)は買ったほうが良さそうだ。




火を起こし、一人用の小さな鍋に干肉や適当な食べれる野草や根菜を入れてスープを作る。




マリア(アリスの母)さんから貰った椀を取り出す。



せっかくなのでお土産に、と頂いたのだが、親戚の家にでも来たような気分になった。




細かい装飾に、太陽を模した柄が入っている。美術品はわからないがいい品なのだけは分かる。美しい品だ。



「ほう、(みやび)な椀だな~」



自分で取り出して自分でツッコむ。



「あ、シルバーじゃなくヤッ○ルにするか?でも馬だしなぁやっぱシルバーだな。ハイヨーシ~ルバーしたいしなぁ…」



いかん、一人旅が始まってから独り言が多い気がする。



いや、シルバーが聞いてくれてるので一人ではない!



シルバーがちらりとこっちを見て、鼻を鳴らして目を反らす。




つれないなぁ……。だがそこも可愛いぜ!




パンとスープを食べ終わり、片付けをしたので寝る。



星空とは言え、当然夜は暗い。危ないので進もうなんて考えてはいけないのだ。




「おっとそうだ、アレを使わないとな」



ハルは道具袋から魔法の巻物(スクロール)を取り出す。



この音魔法の巻物(スクロール)、発動すると数時間のあいだ、範囲内の音を外に漏らさないようにしてくれる。さらに、何かが近づくと教えてくれる機能つき!



音を消してくれるので魔物等に見つかりにくく、さらに察知までしてくれる。一人旅には必須の超便利アイテムだ。



ただ、やはり。……安くない。むしろいい値段する。



が、これがあるとないとでは旅の楽さが段違いな為、必要経費と割りきって使用する人も多い。



死んだら元も子もないからな。



魔法の巻物(スクロール)を発動させると、シルバーが範囲内に入り、ハルに寄り添ってきた。




「ほんとに賢いなお前」



ごろんと横になったハルは、シルバーの首筋を撫でる。



虫の綺麗な鳴き声が聞こえる。



シルバーと、焚き火のぬくもりがある。



夜空には、いつか見たような満点の星空が広がっていた。



どこまで旅をすれば、一人前になれるのか、なんて歌いたくなる夜だった。






◇◇







時間は少し遡って(ドラゴン)と『竜墜軍(ドラゴンフォール)』を撃退したハル達がセキチクを出る頃。







「……なんだと?もう一度言ってみろ」



玉座にはマルメゾン帝国皇帝 マルメゾン・ガラム・ヘリオガバスが座っている。



が、様子が少しおかしい。



「は……はい…(ドラゴン)は討伐され、『竜墜軍(ドラゴンフォール)』は全滅…いえ、もはや消滅に近い状態です」




帰ってきたのは戦奴隷がわずかばかりだけだ。




()()最強の第一軍、『竜堕軍』(ドラゴンフォール)が1割しか帰ってこないなんて。



その場にいた全員の顔がひきつる。




「ゼノ様も戦死されたそうだ…」「バカな……」



「それともうひとつ、『雷神』も死んだようです」



部下が報告を続ける。帝国としては朗報だが…



「なるほと、雷神か…」「一人で(ドラゴン)『竜堕軍』(ドラゴンフォール)を?さすがにそれは…」



周囲がさわめく。



「いえ、『雷神』は(ドラゴン)と相討ち、『竜堕軍』(ドラゴンフォール)は雷神の弟子を名乗る者の仕業だとか…」



「なんだそいつは?」「そんな奴が我が『竜墜軍(ドラゴンフォール)』を!?」




「雷神め…くたばったと思ったら弟子まで厄介なのか。どこまでも忌々しい」



ガラム・マルメゾンは苦虫を噛み潰したような、怒りの混じった表情をしている。



「とにかく軍の再編成を急げ。いつ飛竜が来るとも限らん。それとその弟子とやらの事を調べろ。あとは……そうだな、アイツを呼べ。(ドラゴン)(つがい)のもう一匹の方を堕とす。準備をしろ」



ガラム・マルメゾンが指示を出すと、部下が礼をして出ていく。




誰も居なくなった部屋でガラム・マルメゾンは呟く。



「折角長年かけて準備したものを駄目にしよって…死ぬ時まで忌々しい!ツケは弟子とやらに払わせてやるぞ…雷神め」




なんとも腹立たしいが、当たり散らしても仕方ない。



それよりも無くなったカードと手に入った情報でこれからどうするかだ。



無くした物『竜と主力軍』は惜しいが、王国が払った代償も大きい。



これからが楽しみだ。




ガラム・マルメゾンは笑う。



老齢なれど、この世の全てを手に入れようと力を欲する様は活力に満ち、まさに邪悪の権化のようだ。



まさに悪魔の遣い、……はたまた悪魔そのものか。



彼の目は狂気に満ちていた。

 






明日は21時です!


再び王都エリンバラへ。




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