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40話『防衛/犠牲』

いつも読んで頂きありがとうございます!





セキチク北砦   



目の前にある平野の先に、帝国軍が展開されている。




砦からその様子を見たフィーダは忌々しげに呟く。



「よりにもよって第一軍か…」



「そんなに強い軍なのですか?」



若い兵士がフィーダに尋ねる。



「帝国の第一軍は周辺国全てを入れても最強と言われている、通称『竜墜軍(ドラゴンフォール)』だ。率いるは帝国軍大将ゼノ・グランツベル。もう老齢だが、こいつ自身も元S級冒険者…帝国は本気でここを落としにきているな」



普通の兵士であれば当然、知っている事なのだが、新米である彼は知らなかった。



新米以外は『雷神』の援護に(ドラゴン)の方に行っているからだ。




蛇足だが、『竜墜軍(ドラゴンフォール)』と呼ばれる所以は、帝国領土に隣接する、人間ではとても登れない険しい山々がある。



これのお陰で帝国領は天然の要塞になっているが、飛竜が山を超えてくる事があるのだ。



そのため帝国軍は定期的に現れる飛竜を日常的に撃退・撃墜している。



魔獣でも低位から中位に当たる様々な飛竜を狩り続けている。



ゆえに練度が高く、最強と言われる『竜墜軍(ドラゴンフォール)』があるのだ。


いや、国を守るために作り上げるほかなかった、と言うのが正しい。




(理想は『竜墜軍(ドラゴンフォール)』が竜を撃墜、又は撃退するも、『竜墜軍(ドラゴンフォール)』も被害を受けて撤退してくれるのが一番だが…そううまくはいかんだろうな…)



厳しい状況だが、やれる事をやるしかない。アルフレッドとハルが戻ってきてくれれば、なんとか上手くいくかもしれない。僅かな希望を掴むために、私は戦う。…だがお嬢様だけはなんとか脱出させたいが…聞いてはもらえないだろうな…。




◇◇




竜墜軍(ドラゴンフォール)』 本陣



この最強の大軍 率いるは帝国軍大将 ゼノ・グランツベルである。



(陛下からの命は逃げ出した(ドラゴン)の捕獲。(ドラゴン)襲撃の混乱に乗じてセキチクの制圧。あの様子だとまだ(ドラゴン)は来ていないようだな。少し待つ必要がある…(ドラゴン)に襲われ、助けを求めてくるまで)



ゼノ・グランツベルは髭の下で歪んだ笑みを浮かべる。



(圧倒的な暴力に、敵対している軍に助けを求めるセキチク王…愉快だな。楽しみだ)



この男、加虐趣味の最も濃厚な所だけを集めたような性格をしている。



とことん相手の嫌がる事をやり、徹底的に痛め付ける。それが何にも勝る快楽なのだ。



その為に強くなり、この地位まで登り詰めた。



「閣下!展開は既に完了し、いつでも始められます!」



「よし、戦奴隷と魔身少しで軽く一当てしてこい。殺しすぎるなよ。すぐに撤退させろ」



(何度も小さく攻めて怖がらせておかんとな。その方が後が楽しい)



邪悪な笑みを浮かべるゼノ。



「はっ!かかれ!」



副官が声をかける。



ついに開戦の狼煙があがる。





◇◇




怒号と土煙と共に大軍が突撃してくる。



「くるぞ…とにかく死ぬな!防御に徹しろ。時間を稼ぐ事が我々の勝利に繋がる!わかったな!」



フィーダは兵達に発破をかける。



敵軍の一部しか来ていないのが気になるが、好都合だ。




「魔身機召喚!!行くぞ、砂の騎士(ジョゼフ)!!」



突撃してくる獣人と魔身を蹴散らすフィーダ。



「こいつら…戦奴隷か」



戦争で戦うための奴隷。使い捨てに近いが、帝国軍では武勲を上げれば奴隷でも昇進する事ができるため、士気は高い。



回りでも戦いが始まっていたが、少しすると敵軍は退いていく。



(退いた?…早すぎる。何が目的だ)



敵軍のおかしな行動に疑念が尽きないフィーダ。



自軍の被害状況の確認もあるため、フィーダも兵を退いていく。




「フィーダ!」



アリスが駆け寄ってくる。アリスは癒しの加護を使えるため、前線には出ず後方部隊に入るようなんとか説得したのだ。



「お嬢様…被害はあまりないですが…妙ですね。」



「えぇ…退くのが早すぎる」



アリスも腑に落ちないようだ。



「ゼノ・グランツベルの性格を考えれば、わざと小出しにして恐怖を与えると言うのも考えられますが…」



「アイツならやりかねないわね。けど…何か裏があるような気がする」



「……とにかくこちらにとっては都合がいい。注意だけはしましょう」



アリスは無言で頷く。



幸い、被害は少ない。一か八かの賭けに出るため、なんとか保たせるしかないのだ。







◇◇





ハルがアルフレッドと合流し、戦い始めてからかなりの時間が経っている。



「はぁはぁ…くそ…」



炎迅(ハルの魔身)は剣を杖にしてなんとか立ち上がる。



機体のそこかしこに破損やヒビ、部品の脱落等が見てとれる。




「さすがに…そろそろ限界だな…」



アルフレッドの魔導王(グランオーサム)も同じようにボロボロだ。



特にアルフレッドは丸1日以上、不眠不休で戦い続けている。



アルフレッドでなければとっくの昔に魔力切れになっているのだ。



対して、(ドラゴン)も多少、ダメージが蓄積されているようだ。オーラは薄くなり、爪や牙にも欠けが見える。



自慢の鱗や翼にも傷が付いている。



「時間的にもそろそろ来るはずだ…もう少し…頑張るぞ」


「ですね…」



アルフレッドは激しい頭痛に苛まれながらなんとか言う。



精神的な疲れ、肉体的な疲れ、ダメージ、魔力切れ、原因はいくらでもある。



(ドラゴン)が咆哮を上げ、大きくはばたく。



生まれた竜巻の中には水刃がいくつも舞っている。



叩きつけるような風と共に竜巻が2機に迫る。



「ここにきてまた厄介な攻撃を!」



魔導王(グランオーサム)は合間を縫って回避しつつ雷撃を放つ。



大きな音と共に空より現れた三つの雷撃は(ドラゴン)の背中や翼に当たり、(ドラゴン)は唸りをあげる。



ハルの炎迅は爆発するような炎で竜巻を一直線に突っ切ると、そのまま(ドラゴン)の脚に切りつける。



炎と爆発音が上がり、(ドラゴン)がよろめく。



が、(ドラゴン)は咆哮すると一歩下がって時計回りに回転するようにしっぽを振る。



「くっ」



屈み、剣を盾にしてなんとか受ける炎迅。受けきれずかなりの距離を後ずさる。



そうして幾度も、斬りつけ、回避し、魔法をうち、反撃を受ける。



一瞬でも判断を間違えば終わる。そんな事を延々と繰り返す。







が、その時はついにやってくる。





(ドラゴン)が水の刃をいくつも飛ばす。問題なく回避するが、続けざまに破壊の咆哮(ブレス)を放つ。



2機ともなんとか回避する。(ドラゴン)魔導王(グランオーサム)の方へ向かって、噛みつこうと口を開きながら突進する。



それを横から見ていたハルは攻撃しようと踏み込んだ所で、気付く。



最初に放った特大の水刃が戻るように向きを変え、魔導王(グランオーサム)の背後から迫っている。



(軌道操作までできんのかよ!今までそんなのやってなかったじゃねぇか!…いやそんなことより師匠がまずい!)



とっておきはここぞで使うからこそ効果がある。まんまとやられたのだ。



しかも普段であれば絶対に魔力の気配に気付くであろう、アルフレッドも、疲れの為か、気付いていない。このままでは直撃する。



ハルは一気に加速し、アルフレッドの元へ駆ける、いや、爆発で、飛ぶに近い。



「師匠ぉおおぉおぉ!!!!」



このハルの声でようやくアルフレッドが背後の攻撃に気付く。



(!しまった…後ろ!…どうやってもどっちかはくらっちまう…しかもハルまで巻き込む…)



一瞬で状況を把握したアルフレッドは、たった一つの答えにたどり着く。




前進し、自ら(ドラゴン)の牙へ。



牙が突き刺さりひしゃげる機体。



グランオーサム(アルフレッド)の身代わりになるために入れ替わろうとしていた炎迅(ハル)の手は空を切る。



次の瞬間には迫っていた水刃が魔導王(アルフレッド)の背に突き刺さる。



血を吐くアルフレッド。



倒れた炎迅(ハル)はすぐに立ち上がり、振り返ると同時に、助けるために動こうとした瞬間




「…ハル…最後の魔法だ…よく見てろ」



ひしゃげ、今にも噛み砕かれそうにギシギシと音を立てるコックピットで、アルフレッドは静かに言う。



「…師匠…ダメです!そんな!」



ハルは必死に叫ぶ。



魔導王の四極光(グランドスラム)



魔導王(グランオーサム)の手から放たれた魔法四属性の光。四色の光が混じりあい、極光となって眩く輝き、弾ける。



目が開けられない程の光と、(ドラゴン)の断末魔。



極光は天へと昇る。



ーーーーーー ーーーーーー



両方が収まったとき、全てが終わっていた。



戦いの終わりだ。



(ドラゴン)は倒れ、ピクリとも動かない。



近くに生身のアルフレッドが倒れていた。



魔身を解除し、駆け寄るハル。



「師匠!師匠!!」



ハルが抱き起こすと、アルフレッドは辛うじて瞼を開ける。



「…ハル…生きてたか。良かった」



弱々しい声でアルフレッドは言う。



「なんでこんな!俺を助けるために!」



「バカ野郎…てめぇの命欲しさに弟子を犠牲にする師匠がいるわけねぇだろうよ。それより(ドラゴン)は様子がおかしかった。なんか理由があるはずだ。調べろ」



「そんな事今はいいでしょう!それよりも手当てを!」



【とびきり強力な服従の呪いの魔道具だ。人間達よ、解き放ってくれて感謝する】



突然の会話への乱入に、辺りを見回すと、(ドラゴン)が薄く目を開けて語りかけてきている。



【お前たちに加護をやろう。可能ならば呪いの魔道具を壊してくれ。あれは危険だ】



「そんなもんいらんから師匠を助けられないか!?(ドラゴン)だろ!頼む!」


ハルは叫ぶように懇願する



「やっぱりそうか…ハル、頼んだぞ。竜よ、俺はもう手遅れだからコイツに全部やってくれ」



【いいだろう。…限界だ、ありがとう、強き者達よ】



そう言って竜が目を閉じると、魔力だろうか、(ドラゴン)の体から虹のような粒子が抜けるように立ち上ぼり、消えていく。



「ハル、これはお前が持ってろ。できるならエルフの国(パーペチュアル)へ行ってエルフ王に見せてくれ。アリスとフィーダを頼むぞ、俺の最後の仕事だ。あぁ…もっと色々教えてやりたかったな…」



そう言ってアルフレッドは自分の耳から機心(耳飾り)を外し、ハルの耳に着ける。



「師匠…待ってください、まだまだ教わる事がたくさんあります、師匠と一緒に居たいです…」




嗚咽を漏らしながらハルは言う。



「お前はもう大丈夫だ、自分の力を信じろ。妹さん…助けられるといいな。楽しかった…ぞ…ハ…ル…」



アルフレッドの手から力が抜け、まぶたが落ちる。



「師匠ぉぉぉ!!!」



魂の慟哭とでも言うのだろうか、涙が、叫びが、溢れてくる。



いつまでもいつまでも、ハルの叫びが止まることはなかった。








明日は21時ですm(__)m

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