39話『意図』
セキチク王城
「失礼します」
声をかけると、扉が開かれる。
アリスとフィーダは順番に中へ入り玉座の前へ向かう。
「アリス・ディアセイント、フィーダ・マクスウェル、参上致しました」
「出発しようとしていた所をすまない、だが間に合ってよかった」
セキチク王がさらに続ける。
「二人とも回復したようだね、本当に良かった」
「ありがとうございます。お陰さまで助かりました。陛下、詳しくお聞かせ願えますか」
アリスが言うと、隣にいたギルドマスターが口を開く。
「第一報は聞いていると思う。北方、マルメゾン帝国より軍団が現れた。数はおよそ七万。使者の言葉を要約すれば『この場所を明け渡せ、さもなくばここは戦場になる』だ」
ギルドマスターは吐き捨てるように言う。まさに荒唐無稽、馬鹿も休み休み言え、そんな事を言いたくなるような横暴さだ。
「そんな事をすれば周辺国全てを敵に回すことになるはず」
「帝国はセキチクを国として認めていない。国じゃなければ何してもいい、なんて話かな」
セキチク王は自嘲ぎみに言う。
「そんな事が許される筈がない…」
『戦うしかない』
場にいる誰もがそう考えている。当然だ、はいそうですかと明け渡す事などできる訳がない。
しかも相手はあのマルメゾン帝国。奴隷制が唯一残っており、そこかしこの国へ戦争を仕掛け続ける凶国。
民がどうなるか分かったものではない。
だが、竜をどうする…。
言うなれば最悪の挟み撃ちだ。しかも、主力はほとんどが竜の方へ出発してしまっている。
国に残っているのは守備人員に、城の常駐兵と、ランクの低い冒険者
あとは竜の一報で他国から救援に来た冒険者くらいか。
圧倒的に人数も練度も足りていない。
重苦しい雰囲気が全員を包む。
前門の帝国、後門の竜…ジョークにしても笑えない。
「…王よ、国にとって最も大切な物はなんでしょう」
突然、アリスが王に尋ねる。
「民、人だ。人がいなければ国は成り立たぬ」
セキチク王はきっぱりと断言する。
「では国の宝、『人』を守りましょう」
「……そうだな。民に血が流れるのだけは耐えられん。この地をす」
セキチク王が言いかけた所でアリスが慌てて言葉を挟む。
「いえいえ王よ!せっかくですので一矢報いてからに致しましょう。その選択はそれからでも遅くないです。それに、うまくいくかもしれませんし」
アリスが淑やかに言う。
「……何をするつもりだ?」
ギルドマスターが尋ねる。
「今頃、主力部隊が『雷神』『炎刃』と合流して、撤退してくる筈です。竜を誘き寄せて帝国にぶつけましょう」
(なんと…)
ギルドマスターの額に汗が一筋流れる。
「はっはっは!面白いな!可能なのか?」
セキチク王は笑って尋ねる。
「わかりません。ですが普通に戦えばまず勝ち目はありません。防衛に専念し、主力部隊が戻るまで時間稼ぎをしましょう。うまくいけば厄介事が同時に片付くやもしれません」
「……それでも、守るだけでも、厳しい戦いになりますよ」
ギルドマスターが言いづらそうに、だが言わねばならない事だ。
「よい、やらねばならんのだ。覚悟を決めよう。二人はどうする?」
王がアリスとフィーダに尋ねる。
二人はこの国の関係者ではない。極論を言えば逃げても問題にはならないのだ。
この国のギルドに登録している冒険者は国難時に義務が生じてしまうが、二人は違う。
それにアリスはファンテジア王国きっての大貴族の娘。なにかあればファンテジア王国がセキチクの敵になる可能性さえある。
「もちろん共に戦います。迎えに行けなくなりましたので、仲間が戻る場所を守らなければ」
フィーダはきっぱりと答える。
「ディアセイント家のお家芸、『守るための戦い』力の限りに」
アリスは優雅に礼をする。
「ギルドマスター、二人と共に防衛の手筈を整えてくれ。任せられる能力のある者に任せよう」
「かしこまりました。二人とも協力に感謝します。ではこちらへ」
そう言ってギルドマスターはアリス・フィーダと共に退出していく。
「最悪の場合でもあの二人だけは脱出させろ。絶対にだ」
セキチク王が控えていた重臣に命じる。
「さて、どこまでやれるか…」
王は誰もいなくなった玉座で頭を抱え、大きなため息をついた。
複雑に絡み合った糸はどうなるのだろうか。
◇◇
ハル達が竜と遭遇する数日前
マルメゾン帝国にて
「…逃がしただと?」
玉座に座り、片ひじをついて、報告にきた兵士を見下ろす老齢の男。
マルメゾン帝国 皇帝 マルメゾン・ガラム・ヘリオガバスである。
「申し訳ございません!!自我を消している最中に暴れまして」
兵士は床に頭を擦り付けるように低い体勢のまま叫ぶ。
兵士の鎧は立派な物で、一般兵ではなくなんらかの地位にあることがわかる。
「どこへ行った」
帝王が静かな声で、兵士の言葉を遮る。
「はっ!このままですとセキチク方面と思われます」
兵士は顔中に脂汗が流れている。当然だ、皇帝の意志一つで自分の命が無くなるかもしれないのだから。
「……竜を捕まえろ。その辺りは不当占拠して国を名乗っているやつらが居たな。不運にも竜の脅威にさらされた人が居たら助けてやりなさい。庇護を求めるのならば帝国領にしてやるのもいいな」
皇帝は片方の口角を上げながら獰猛に言う。
「……!は、はい!すぐにとりかかります!失礼しました!」
皇帝の意図を察した兵士は慌ただしく部屋から出ていった。
「聞いて居たな。第一軍団を出せ」
皇帝は隣に控えていた男に言うと、男も動き出す。
「竜はいい兵器だ。服従の魔道具も希少なのだ。まだ手放す訳にはいかん。ついでにあの国ももらおう」
皇帝は誰もいなくなった部屋で一人、酒を煽り、呟いた。
様々な意図が絡み合う。
次辺りで話が動きます。書いてると他の事も、他の人も、とどんどん脱線しそうになる…
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泣いて喜びますよ(・∀・)
明日は9時です!




