38話『混沌』
竜との戦いにハルが参戦して数時間
竜が放つ巨大な風刃が迫る。
「セイハットウ!」
炎迅は大剣で素早く三段斬りを放ち、風の刃を切り払う。
「くらえっ!」
炎迅が手を前に出すと、空中で炎の剣が産み出される。
そしてハルの掛け声と共に竜に向かって射ちだされる。
炎の剣は竜の横っ腹と腕に当たり、大きな爆発を起こす。
竜はダメージにうめき声を上げると、翼をはためかせ暴風のような竜巻を起こす。
炎迅が炎の大剣を空中で振ると炎の竜巻が生まれ、竜巻同士がぶつかり合う。
わずかに竜の竜巻が勝ったようで、炎迅は弾き飛ばされてしまう。
「っぐっ…くそ、もう少しだったのに」
ハルはなんとか立ち上がり、剣を握り直す。
(…ハルの奴、最初は受ける事もできなかった風の刃を今は軽々切り払ってやがる。…もしかするといけるかもしれねぇ)
アルフレッドは、この数時間の戦いの間に目覚ましく成長しているハルにわずかな期待を持っていた。
援護が来るまでまだ数時間、粘らなければならない。
◇◇
セキチクにて ギルド併設の治療所
ハルがセキチクを出発してから約1日後。
「…ん………はっ…くっ…」
目が覚めたフィーダは辺りを見回す。
(竜と遭遇して…どうなった…ここはどこだ…お嬢様!?)
隣で寝ているアリスが目に入り驚くフィーダ。
「お、お嬢様…お嬢様!」
呼吸はある。寝ているだけのようだ。肩を揺らし、思わず声が少し大きくなってしまう。
「ん………ん。ん?フィーダ?フィーダ!良かった!」
アリスも目覚めたようで、起きるなりフィーダを抱き締める。
「あぁ、お二人とも目が覚めたのですね。よかった」
話し声を効いたのか、入ってきた回復術士が二人に声をかける。
「ここはどこですか?竜はどうなりましたか!?」
フィーダは二人に尋ねる。最後の記憶は竜のブレスを受けていた所だ。
「フィーダのおかげでアルフレッド様もハル君も私も無事だったのよ!けど私は竜に毒を貰ってしまって、アルフレッド様が1人残って足止めを。その間にハルくんにセキチクをまで送ってきてもらったのよ」
「そうでしたか…ここへ来て何日寝ていましたか?連れのハルがどこへ行ったか知っていますか??」
フィーダは回復術士に尋ねるが、首を横に振られてしまう。
と、そこへ誰かが入ってきた。
「『炎迅』なら『雷神』を助けに1日前に竜の所に戻ったぞ」
小柄な少女がフィーダとアリスの前へやってくるなりそう言った。
「失礼ですが、あなたは…?」
アリスが恐る恐る尋ねる。当然の疑問だ。
「私はセキチクのギルドマスターだ。『炎迅』からの報告を受けて住民の避難と他国への応援の要請が始まっている。また、『雷神』と『炎迅』の撤退を援護し、竜を防衛・撃退するための軍も既に竜に向けて出発した所だ」
ギルドマスターは一息に喋りきると、さらに言葉を続ける。
「セキチクの騎士団長が竜の方へ向かった為、私はこちらに残って指示と防衛戦力の準備を行っている。寝起きで悪いが、君たちも戦力に数えていいのかな?」
AランクのフィーダとBランクのアリスは貴重な戦力だ。
フィーダは自身の戦闘力もさることながら以前は騎士団長をやっていた為兵の指揮ができるし、フィーダの癒しの加護と空での戦力は代えがきかないからだ。
「もちろんだ、すぐにでも出発しよう」
「もちろんです」
フィーダとアリスは一も二もなく引き受ける。
アルフレッドとハル、仲間が二人で戦っているのだから当然だ。
「ありがとう、もうすぐファンテジア王国から救援の冒険者が来る。彼らが到着し、準備が整い次第、第二陣として出発してくれ」
ギルドマスターがそう言うと、二人は揃って返事をする。
本当は、今すぐにでも出発したかったのだが、仕方ないだろう。
竜はもはや天災の域だ。
(無事でいて…ハル君…アルフレッド様…)
アリスは神に向かってお祈りをしたのだった。
◇
小一時間後、無事にファンテジア王国より冒険者を乗せた馬車が到着した。
「王国から救援に参りました、冒険者のロカビリーです」
馬車から降りてきた、リーダーらしき人物がアリスとフィーダに話しかけてきた。
「アリスです。宜しくお願いします」
アリスは優雅に礼をする。
「フィーダ・マクスウェルだ。よろしく頼む。貴方がリーダーか?」
フィーダが尋ねると、男は首を振る。
「いえ、今回来たメンバーはソロやコンビばかりですので、年長だった私が到着するまで一時的に、です。全員そちらの指揮にはいりますよ」
人の良さそうな男、ロカビリーはそう言って笑った。
「承った。しかし早かったな」
「連絡を貰った時にギルドにいたメンバーですぐに出発しましたので。馬車も魔法のかかった物ですし。速いですね~」
国同士、ギルド同士、それなりの大きさの町は魔法で連絡が取れるようになっている。
今回は天災級の国難なので国が魔法つきの速度の速い馬車を貸してくれたそうだ。
「よし、物資の補給を済ませたら出発する。よろしく頼む」
「「「応!!!」」」
◇
物資の補給や装備、冒険者達の休憩も終わりアリスとフィーダ、冒険者一行がさぁ出発しようか、とセキチクを出ようとした時。
若い兵士が大慌てで馬車に向かって走ってくる。
「フィーダ様!アリス様!!大変です!至急王城へお越し下さい!!!ギルドマスターがお呼びです!!」
息も絶え絶え、若い兵士はなんとか報告する。
「バカを言うな!竜より大変な事などあるものか!」
フィーダは不可解なタイミングでの呼び出しに不安がよぎる。
「北方よりマルメゾン帝国の軍勢が侵攻しております!侵略戦争です!!!!」
兵士の口から飛び出したとんでもない事態に、フィーダやアリスはおろか、馬車の全員が驚愕する。
「なんだと…!?このタイミングで…!?」
絡まった糸のように、事態は混沌を極めようとしていた。
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