34話『強襲』
狼の魔獣を倒した後、食事も終わり、夜も深くなった頃。
見張り番のフィーダは1人、馬車を背にして焚き火を炊いていた。
馬車の後ろは山の岩肌なので、基本的には前の森に注意していれば問題ない。
剣の手入れをしていると、誰かが起きてきたようだ。
「よう」
アルフレッドが声をかける。
「アルフレッド…どうしたの?まだ交代ではないでしょう」
「起きちまっただけだよ」
アルフレッドはぶっきらぼうに言う。
そんなアルフレッドを見てフィーダは小さく笑う。
「エイギスに着いたら、どうするつもり?」
「…さぁなぁ…またハルと一緒に魔獣を倒す日々、かな」
焚き火にあたりながらアルフレッドは眠そうにしている。
「二人が良かったら、一緒にエイギスに留まらないか?お嬢様も喜ぶ」
フィーダは剣から目を離さずに言う。
「ハルはともかくとして、俺がか?俺は高けぇぞ。3食に昼寝と夜は酒だな」
アルフレッドは悪戯に笑う。
「ふふ、それでいいの?いい買い物ね。ならお嬢様に進言しておくわ」
フィーダはにこりと笑う。
口角を上げたアルフレッドは何も言わず、手を振って寝床に戻っていった。
◇
アルフレッドが戻り、少し経った頃。
月に厚い雲がかかり、月明かりが遮られ、一層夜の闇が深くなる。
ちょうど剣の手入れが終わった所でフィーダは違和感に気付く。
(…森が静かすぎる。)
フィーダが立ち上がって辺りを見回そうとした時、雲の切れ間から一瞬月が顔を出し、月光が降り注ぐ。
暗い夜の帳の中、フィーダの目に飛び込んだのは、目前の森の上で月光に照らされる、大型の魔獣。
『竜』が今まさにブレスを放たんと口を開いた所だった。
「敵襲!!!!魔身を早く!!!」
フィーダは出せるだけの大声で叫ぶ。
(ブレスが来る…魔身召喚は間に合わない…仕方ない)
竜のブレスが放たれる。魔身召喚は間に合わないし、後ろに仲間がいる以上、避ける訳にもいかない。
取れる手は一つだ。
フィーダは地面に手を着くと、最大限に硬く、厚くした鋼の盾を地面から出し、自身と後ろの仲間を守る。
「ぐっ…く…う…」
爆音と共に途方もない威力のブレスが放たれ、盾はみるみる内に削られていく。
フィーダは魔力を全力で流し続け、必死に鋼の盾を生成し続ける。
(…まも…る…!こんな…ところで…!)
フィーダにとっては永遠とも感じる時間。
現実にはわずか数瞬の後、竜の咆哮が止む。
◇
フィーダの叫びを聞いて数秒後、アリス、ハル、アルフレッドの3人は寝床から飛び出る。
3人が目の当たりにしたのは、初めて見る『竜』と、竜のブレスであろう、破壊の爪痕。
フィーダが守った、自身らの居た場所。それ以外が、数百メートル後方まで荒野となっている光景。
「まさか…竜…?」
アリスが呟く。圧倒的な迫力、存在の強さに息を飲むハル。
そして力尽き倒れるフィーダと、今まさにフィーダに迫る紫水の刃であった。
◇
アリスとハルは一斉にフィーダの元へ駆ける。
一瞬早く着いたアリスがフィーダを抱えようとするが、紫水の刃がそこまで迫っていた。
「ただの水刃じゃない!かわせ!」
アルフレッドが叫ぶ。
しかし既に回避できる距離ではないと判断したアリスは盾を前に出して紫水の刃を受ける。
大きな衝撃が盾からアリスに伝わるが、盾に当たった瞬間、紫水の刃は形を無くし、水風船のように弾ける。
大部分は盾で防いだが、足に少しかかってしまった。
ここで追い付いたハルが続いて迫っていた紫水の刃を切り落とそうとする。
「炎で斬れ!」
竜に向かって牽制の魔法を放っていたアルフレッドの警告に、ハルは素早く剣に炎を纏わせ紫水の刃を切り払う。
刃は弾けることなく蒸発する。
フィーダを抱え、アルフレッドの元へ戻ったアリスとハル。
「魔力の限界を超えて守ってくれたんだな。ありがとう。ゆっくり休め」
アルフレッドは優しくフィーダの髪を撫でる。
「…ア…ル…………」
フィーダは無意識で、小さく呟く。
「全速力で3人共セキチクへ向かえ。アリスも分かってるな?ハル、頼んだぞ。俺の名前を使って全戦力を出させろ。あの竜は上位どころじゃない、国がいくつも滅ぶぞ」
アルフレッドは指示を出すと、また魔法を打ち込む。
「師匠!俺も残ります!フィーダさんはアリスに…」
言いかけた所でアリスが割り込む。
「お願いハル君!早く!」
悲痛な表情で顔色が悪い。まさかさっきので…?
「雇い主守らねぇとな。とにかく行け!んで援軍連れて戻ってこい。早くしねぇと倒しちまうぞ!ぶっ倒して『最強』の二つ名を頂くのも悪くない」
ニヤリと笑ってアルフレッドが言う。
「すぐに戻ります!御武運を!」
ハルはアリス、フィーダと共に馬車に乗り込み、全速力でセキチクへ向かう。
走り出してすぐに、
「毒かな…ごめんね、ハルくん…後は…よろしく…」
そう言ってアリスは倒れこんでしまった。
「アリス!!」
ハルは必死に馬車を走らせる。
◇
「行ったか。よし、んじゃおっぱじめようぜ」
アルフレッドはそう言って耳飾りの機心に触れると、目映い光が溢れる。
「魔身機召喚…魔導王」
コックピットから竜を見据え、アルフレッドは呟く。
「最短で1日半ってとこか…付き合ってもらうぜトカゲちゃんよ」
アルフレッドは超越した存在に、無謀な戦いに身を投じる。
守るために。
死ぬつもりもない。
我が儘、貫かせてもらうぜ
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