33話『帰路』
城塞都市エイギスはファンテジア王国西端にある。
つまりここボーダーから、来た道を逆に辿るだけだ。
最短ルートなので、シャボーには寄らず、直接セキチク中立国へ向かう。
◇
旅を始めて初日の夕方
「よし、今日はこの辺にすっか。アリス、ハルと模擬戦だ」
アルフレッドが声をかける。
「はい!ハル君よろしくね」
アリスは手に入れた魔道具を使いこなす為に必死だ。
結局、何に形が変わるかはドルフさんが教えてくれたようだが、どんな優れた武器でも使いこなせなければ意味がない。
ハルとしては色々な武器と戦えるので助かる。戦ったことのない武器は特にそうだ。一回経験があるだけでも生存率はかなり違うだろう。
互いに距離を取り、構えた所でフィーダから声がかかる。
「はじめ!」
「俺からいくよ!」
そう言ってハルは炎のナイフを数本投擲する。
アリスは容易に回避するが、その間にハルは距離を詰めている。
そのまま飛び蹴りを放つが、風魔法で威力を弱めた上で盾でしっかりとガードされる。
さらにそのままハルを掬い上げるように盾を持ち上げる。
ハルは空中で回転しながら炎のナイフを投擲し、着地するが、既にアリスの姿は先程の場所にはなかった。
離れていくハルに対して、風の魔法で一気に距離を詰めていたのだ。さらにアリスの両手にはいつの間にか双剣が握られている。
踊るように流麗な、双刃の連戟が繰り出される。
(速い…!なんて密度だ…!)
なんとか回避し、受ける。反撃する暇もない。
と、アリスが少し大振りな斬擊を繰り出す。
(助かった、一旦距離を取って仕切り直しだ)
回避しながら回し蹴りを出すハル。受けるか回避されるかだろうが、仕切り直せれば問題ない。
アリスはなんとふわり、と後方宙返りをしながら空中に高く飛んで回避した。
(その回避は良くないよ)
不必要に大がかりな回避で離れていくアリス。いくら風魔法があっても空中で取れる手は限られる。攻めれば今度はハルがペースを握る番だ。
と、踏み出そうとした瞬間、アリスの双剣が消え、美しい白銀の槍がハルの眼前に迫る。
(なんっ!?)
咄嗟に籠手を槍に向けて出しながら全力で炎を爆発させて無理やり体を捻る。
なんとか回避は成功したが、勢い余って自らの炎の爆発で数メートル吹き飛んでハルは受け身をとって着地する。
「あっっぶねぇぇえ!!」
全身に冷たい汗が流れるのがわかる。
アリスは槍を起点にくるりと回転して着地する。
「ハル君さすがだね、まさか最後まで回避されるなんて」
「走馬灯が見えたよほんとに…」
もう完全に使いこなしてるように思える。知らない間に詰め将棋のようにじわじわと追い詰められていたのだ。
しかも何が恐ろしいってアリスは今回風魔法を攻撃に使っていないのだ。
これに風魔法の攻撃・牽制が入ればもう手が付けられない。
「そこまでだな」
フィーダから声がかかる。
「汎用性も高いし戦術的にも幅が広がるな。素晴らしい魔法武器だ」
アルフレッドも諸手を挙げての称賛だ。
「まだまだ、不馴れなせいか考えてるわ…武器の切り替えはもっと速くできそう」
アリスが武器を高速で切り替えながら言う。
…まだ速くなるのか…。
「まぁその為の模擬戦です。しっかり使いこなしましょう。不馴れな武器は危険ですからね」
「そうだな。切り替えの練習は欠かさない方がいいだろう。んじゃ飯にすっか」
フィーダとアルフレッドがそれぞれ言う。
俺も強くならなきゃな、このままじゃ守られる側になっちまう。とハルは考えていた。
◇◇
旅を開始して数日
帰路で始めての魔獣が現れた。狼の魔獣だ。魔獣としては小さめなので魔獣になったばかりだろう。
アルフレッド曰く、「魔獣としては低位」だそうなのでハル・アリス・フィーダの3人だけで戦ってみることになった。
魔身ありでいい勝負らしい。
「んじゃま、行きますか」
ハルが声をかけると、フィーダが答える。
「アルフレッドはやれると言ったんだ、やってやろうじゃないか」
「頑張りましょう!」
アリスが締めると、3人は機心を取り出し構える。
「魔身機召喚! 炎迅…点火!!」
「魔身機召喚!舞え…銀翼姫!!」
「魔身機召喚!!行くぞ、砂の騎士!!」
それぞれの機心が輝き、迸る魔力の奔流。そして魔身が召喚される。
狼の魔獣、魔獣としては小さめだが、それでも魔身よりは大きい。
狼は口を大きく開くと、咆哮と共に氷の散弾が放たれる。
狼のブレスは散弾のように飛んでくるため、近距離の威力は高いが離れると弱体化するようだ。
「二人とも後ろに!」
ハルは2機の前に出ると、炎の渦を起こし、壁としてブレスを阻む。
ブレスが止み、炎迅は腕で炎を払うように渦を解除する。
フィーダの魔身が土魔法で狼の魔獣の足元から鋼の槍がいくつも現れる。
が、狼の魔獣は見た目の通りの俊敏さで軽々と回避し、さらにこちらへ走ってくる。と、狼の魔獣の赤い目が鈍く光る。
地面から現れたいくつもの氷の槍に3機はバラバラに飛んで回避する。
「まねした!賢いなぁ」
ハルはすぐに模倣した狼の魔獣の知能の高さに驚いた。
「ハル、飼ってみたらどうだ?玉乗りでも仕込んでみろ」
フィーダはからかうように言う。
「いいっすね!乗りたいっす」
こう、ウルフライダー的な!?
「餌代高そうだから却下!」
雇い主から却下されてしまったので諦めるしかないようだ。
ハルが炎の大剣で斬りかかるが、容易に回避される。
「合わせるぞ!」「はい!」フィーダがハルに声をかける。
アリスから牽制の風刃がいくつか飛ばされる。
狼の魔獣に回避されるが、その瞬間にハルとフィーダが同時に斬りかかる。
狼の魔獣はハルの炎迅に向かって氷のブレスを吐き、なんとか炎の大剣を回避する。
と、跳ねるように飛び、身を翻すとフィーダの魔身の振り下ろした剣を噛むようにして牙で受け止める。
「真犬白歯取り!?」
予想もしない受け方にハルが驚愕する。
「誰が上手いことを言えと!!」
フィーダが悪態を付きながら狼の魔獣に蹴りを放つが、寸前で飛び退く。
「あれをかわすか。速いな」
「なんか手はある?」
「もちろん」
フィーダの言葉に、ハルがアリスに問うと、自信満々に答える。
銀翼姫は風の刃を地面スレスレにいくつも放つ。
狼の魔獣は飛び退いて回避する。
「フィーダ!今!」
狼の魔獣が飛んだ瞬間、アリスがフィーダに合図をする。
砂の騎士は土魔法で辺り一面を全て泥にし、深いぬかるみを作り出す。
「やっかいな機動力を生かせないようにね」
踏ん張れなければあのスピードも身のこなしもできないだろう。
が、狼の魔獣はぬかるみに着地する寸前に、足元を凍らせ、氷の足場を作り出す。
そこから飛び、さらに氷の足場を作り、フィーダの砂の騎士に襲いかかる。
「本当に知能が高い。だからこそ、読める。ハル君!」
アリスが言うと、貯めた力で炎の大剣を狼の魔獣よりもさらに大きくしたハルの炎迅が空から斬りかかる。
「うぉぉぉおおぉ!」
狼の魔獣は氷の盾を作り出すが、炎迅は盾ごと魔獣の体を真っ二つにした。
◇
「よく思い付いたなアリス」
一部始終を見ていたアルフレッドから声がかけられる。
ぬかるみにハマればそれでよし、はまらなくても氷で足場を作れば自ずと移動先が判るため、動きが読めるのだ。
その上で、相性がよく最も攻撃力のあるハルの炎迅でトドメをさす。
狼の魔獣はハルの攻撃だけは受けず、全て回避していた。
「なんとか上手くいきました。二人が私を信じて動いてくれたからね」
アリスはフィーダとハルに笑いかける。
「当然です。仲間を信じられるから戦えるのです」
フィーダはきっぱりと、だが心地良さそうに答える。
「これだけやれれば合格だな。お前達3人でもそうそうの魔獣には負けないだろう。だが忘れるな、どんな時でも油断一つで全てを失う。相手を甘く見るような事だけはするな。」
アルフレッドは優しい笑顔で3人に語りかける。
3人は静かに頷く。
「よし、んじゃ飯だ!準備しろお前ら!」
アルフレッドはにっこりと笑って言う。が、
「今日の食事当番はアルフレッド様よ」
「そうだっけ!?」
アリスから冷静なツッコミが入り、皆で笑いあった。
旅はここまで順調だ。明日か明後日にはセキチクに着くだろう。
朧月夜が薄く輝く夜だった。
明日は18時に更新します!
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