27話『ドワーフの国』
獣人の国を出て数日後
師匠と獣神ガルル・ギルの戦いがいい刺激になったのか、三人ともいい緊張感と高い意識の中で魔物の撃退や訓練に当たっている。
とある夜。
ハルは変な時間に目覚めてしまった。
(寝れない…水でも飲もうかな。番はだれだっけ…?)
のそのそと寝床から這い出て、パチパチと焚き火の音がする方へ行ってみる。
「…ハルか。どした?」
見張り番は師匠だった。
「なんか起きちゃいまして」
頭をかきながら師匠の方へ近づく。
「そうか、焼きチーズがいい感じだから食え」
そう言って師匠はとろけたチーズを渡してくれた。
いい香りが辺りに広がっている。
「いただきます!…これ、魔物とか寄ってきませんかね?」
あっちぃ!しかしとろけたチーズはなぜこんなにうまいんだろう…パン…パンあったかな。
「熱いから気を付けろよ?…動物は来る。魔物や魔獣は来ない。あいつらは魔素を見て行動してるからな」
アルフレッドは自らもチーズを口にいれ、酒を煽る。
「最近どうだ。」
アルフレッドは言う。
「思春期の息子と話す親父じゃないんですから」
笑いながらハルは答える。
「まぁ、楽しいですよ。旅も順調ですし」
「そうか。ソレは?」
師匠はブレスレットに目配せする。
師匠にだけは全て話してある。
「ようやく一つ灯りましたね。まだまだ先は長そうです」
4つある宝玉のうち、1つは輝きを放っている。
が、これまで何ヵ月もアルフレッドと二人で魔物や魔獣を狩った事を考えるとかなり先は長そうだ。
「そうか。目的があるんだ、死ぬなよ。そして自分の選択や行動に後悔するな。」
アルフレッドは火を見ながら静かに言う。
その言い方は…師匠は何か後悔しているのですか?
と聞こうかと思ったが、なぜか聞いてはいけない気がした。
「…はい。ありがとうございます」
そう言ってチーズパンを頬張った。
焚き火の音と虫の声がよく響く高い高い満月の夜だった。
他愛のない話はいつでもできるはずなのに、なぜか尽きることはなかった。
◇◇
数日後、ドワーフの国に着いた。
「到着しましたね。ようやく半分。私とフィーダはしきたりの件でうちの工房へ行きますがお二人は?」
アリスがハルとアルフレッドに告げる。一緒に行かなくてもいいのかな?
「なら俺達は別行動だ。行きたい店があるからな」
師匠は俺と行きたいところがあるらしい。デートか。
「では夜にあそこの宿屋で集合しましょう。今後の予定を話したいので」
フィーダが大きな宿屋を指差して言った。
「わかりました!では二人も気を付けて」
ハルが言うとそれぞれの方向へ別れていった。
◇◇
ハルとアルフレッドはどんどんと奥へ進んでいく。
しかしこの国はさすがドワーフの国、右も左も武器や防具、魔道具や細工品など、とにかくものづくりに特化している。
ファンテジア王国のサウスワークも立派だと思ったが、本場は凄い。あそこはボーダーの出張所みたいな立ち位置なんだろうなぁ。
「で、師匠、どこ行くんですか?」
まぁなにかしら師匠の知り合いとかなんだろうけど?
「そこの角だ。入ればわかるさ」
と言ってる間に着いたらしい。
ん?なんか見覚えあるなこの店…
「はいんぞ~生きてっか~?」
師匠がゆるい声で言いながら入っていった。
「お邪魔しま~す…」
控えめに言いながらハルも店に入る。
と、奥から誰か出てきたようだ。
「アルフレッドかぃ?久しぶりだねぇ」
!?ダルじいさん?なぜここに?いやどうやって??
ニアフォレストで俺に機心を作ってくれた人だ。
…ん?…ダル…おばぁさん?
微妙に違和感がある。
「久しぶりだな、ばーさん。」
アルフレッドが声をかける。やっぱり別人…?いやしかしそっくりすぎるよね…?
「そこのお若いの、その顔はダルを見たことがあるね?私はシム、ダルの妹だよイッヒッヒッヒ」
シムと名乗ったおばあさんは悪戯でも成功したかのような顔で笑っている。
なるほど、妹さんか…通りで似てるはずだ。
「失礼しました!ダルさんにはお世話になりました。ハルと言います、よろしくお願いします」
「あらアルフレッドが連れてきたにしてはマトモな子じゃないか。イッヒッヒッヒ」
「うっせぇぞ」
アルフレッドは舌打ちして答える。頭は上がらないらしい。
「ちなみにダルさんかシムさんはヨガとか得意だったりします?火を吹いたりテレポートしたり」
「何を言ってるんだお前は」
「前言撤回、やっぱりアルフレッドが連れてくる子は変だったねイッヒッヒッヒ」
もしやと思って聞いてみたが総ツッコミされてしまった。
「本題に入るぜ。こいつの機心を見てくれ。ダルじいさんには分からなかった。魔道具ならあんたの得意分野だろ」
アルフレッドが言う。
なるほど、コレを調べたかったのか。
「ほぉ、あいつにわからんとはね。何があったんだい?」
ハルは機心とブレスレットが一つになってしまった事を話し、ブレスレットを見せる。
シムばぁさんはレンズのような物で細部まで調べる。
「…ふむ、元々このブレスレットは『吸収』の効果の魔道具じゃな。」
…なるほど、運命力を吸収して宝玉に溜め込む、ってのがこのブレスレットの使い方だもんな。納得。
「で、まぁなんらかの理由で機心を、機心も魔道具じゃからな、機心の効果ごと吸収したんじゃろう。合体って言い方もまぁ間違いではないかの」
「なるほどな…んじゃ他の物も吸収できたりすんのか?」
アルフレッドは思い付いたように聞き、シムばぁさんが答える。
「できん道理はないが…しかしな、そもそも普通は吸収の魔道具なんぞ吸収する量が多くないから大して使い物にならんのだがの」
「よし、試してみようぜ。…これでいいか。ハル、やれ!吸収だ!」
アルフレッドは壁に掛かっていた魔道具をハルに渡した。
「えぇ、やれって言われても…」
意識してやった訳じゃないからやり方がわかんないんだけど…シムばぁさんの方を見て助けを求める。
「わしも見てみたいのぉ」
まさかの期待に満ちた目を向けられてしまった。
「えぇー…。んじゃ、………はっ!」
右手に魔道具を持ち、分からないなりに適当に集中して吸収しろと念じてみた。
暖かいような感じがした…が、魔道具は変わらずそこにある。
「…だめっすね。機心の時は派手に光って合体しましたから」
「だめか…なんでも吸収できたら便利だったのになぁ…」
アルフレッドは残念そうに言う。
何を便利グッズみたいな扱いしようとしてんですか。
「ま、そんなもんじゃろう。あ、ついでに機心をお主用に調整してやろう。しばし待たれよ」
「ありがとうございます!お願いします」
機心に刻まれている召喚魔法に、例えば自分や魔身の名前、なんらかの単語等を追加で刻む事によって親和性が増すそうだ。
「終わったよ。またいつでもおいで」
「ありがとよ!参考になったぜ」
「ありがとうございました!また来ます」
シムばぁさんの言葉に対してアルフレッドとハルは答え、店を後にした。
すっかり日が暮れてしまっていた。
アリスはどうなったかな??




