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25話『雷神vs獣王』



なんですと?獣王から師匠へのお誘いが…。師匠はどうする?見てみたい気もするけど。



「パパはSランクの冒険者に勝った事があるから、アルフレッド様でも楽しいかもよ?」



ミナが無邪気に言う。



Sランク倒したの?やっぱめちゃくちゃ強いじゃないかこの人!?



「やだよめんどくさい」



とぼけた顔でアルフレッドが言う。



「なんと!…私は見てみたいものでしたね…」



フィーダさんが歯痒そうに言う。



「アルフレッド様ならそう言う気がしましたけどね」



飲み物を口にしながらアリスが言う。



「むぅ…」



獣王凹んでるじゃねぇか。



(ハル、なんとかならない?)



小声でミナが言ってきた。父の願いを叶えたいのだろう。



(えぇ~なんとかってもなぁ~。)



(お・ね・が・い)



ミナが身体を寄せ吐息を感じるほど耳元で囁く。腕に当たってますよ?



「ハルくんどうしたの?」



すかさずアリスがこちらを見て言う。目は笑っていない。



「い、いや、なんでもないよ!ミナ、分かったから席に戻ろうか!」



ふむ。まぁ獣王の戦いぶりと師匠の本気を見てみたいと言うのも正直ある。



アルフレッドの所に行き、こっそりと言う。



(師匠、獣王にへそ曲げられて酒代なんて要求されたらたまりません。俺の婿入りも断る訳なので、ここは一つ、戦ってあげてはいかがでしょう?適当にあしらって、獣王が満足したらもっといい酒が出てくるかもしれませんよ?ミナの話では幻の大吟醸があるとかないとか…)



どう考えても娘の命の恩人に酒代なんて要求するはずないのだが、酔いの回ってきている師匠にはこんなガバガバ理論でも効くだろう。



「んー?なるほどな、一理ある。よし、獣王!やんぞ!」



アルフレッドは納得したようでやる気になったようだ。一理ねぇよ。



「本当か!よし、ではさっそく行くぞ!合図はミナ、頼むぞ!」



嬉しそうに獣王は腕を回しながら言った。







「相手は雷神…いくら獣王様でも…」


「獣王様がんばれー!!」


観客からはさまざまな声が聞こえる。雷神が強いのは知っているが、身近な獣王が負ける所も想像できないのだろう。






「さて、それでは始めよう、雷神よ。全力で行くぞ」



力を込めたかと思うと、獣王の体が二回りほど大きくなった。



離れていてもとてつもない圧力を感じる。



「おう、どっからでも来い。」



師匠はいつものようにリラックスしている。



肉弾戦ならどう考えても獣王有利だと思うが魔法なら師匠に軍配だろう。



いかに自分の得意を相手に押し付けるか、ってところだろうか。



獣王がふっと笑ったかと思うと、体が一瞬ぶれる。次の瞬間には10メートル以上離れていたハズの師匠の眼前に人の頭よりも大きな拳が迫っていた。



「なっ!?離れてるこの距離からでもほとんど見えなかったぞ!?」



フィーダが驚愕の声をあげる。



「私の目でも残像しか見えなかった…」



ミナも初めて見る父の本気に驚いている。




(思ったより数倍速いな…これはギリギリだ)




眼前に突然現れた拳を、極限まで速度を上げた風の魔法を使ってなんとか回避するアルフレッド。



すると、空を切った獣王の拳の余波で、後ろにあった木が当たってもいないのにひしゃげて吹き飛ばされる。



「拳圧だけで木が折れましたよ」



信じられない、と言った顔でアリスが言う。



何が起こったか見えていなかったであろう観客達も、一瞬で獣王が消え、木がぶっ飛んだにも関わらず、無事に立っているアルフレッドを見て、とにかく二人がとてつもなく強いのを理解したようだ。



「「「うおおぁおおお!」」」


観客は、大盛り上がりだ。とりあえず危なそうなので全員さらに後ろに下がることにした。




「さすがにやるな、雷神。アレをかわした奴は久しぶりだ」



「いやさすがに、1パンでやられるのはカッコ悪すぎるだろ?んじゃ次は俺から行くぜ?」



すっかり酔いが冷めたアルフレッドは腕を前に出す。



「まずは小手調べだ!拳の特級畑(グラン・クリュ)!!」



すると獣王の周りの地面が盛り上がり、まるで千手観音のように数えきれない腕が180度パノラマで拳を放つ。



「ふんふんふん!」



獣王は高速で拳を繰り出し全てを打ち落とす。




偉大なる空の物語グランブルー・ファンタジスタ!」



唐突に獣王の体が何かに叩かれたように真横に吹き飛び、また反対からも同じように何かに弾き飛ばされる。


が、慣れたのか拳を突き出して相殺しだした。



「空気の塊でぶん殴ってるのか?エアハンマーと言った所か」



フィーダが冷静に分析している。


ギリギリ…ギリギリセーフだ!ハルは某ゲームにギリギリで気が気ではなかった



「もいっちょ!紅き月の抱擁(グランド火月)!」



10メートル程の岩石が炎に包まれた状態で現れ、獣王に向かって落ちていく。



「ねぇハルくん。前から思ってたんだけど、アルフレッドさんって…変わったネーミングセンスだよね」



アリスが多少の苦笑いをしながら聞いてきた。



「うん…俺もそう思う…」



なぜ俺が恥ずかしくなるのだろうか。




「ぬぅぅうあっ!!!」


叫び一閃、獣王が炎に向かって拳を振り抜くと、粉々になって砕け散った。



この人はドラゴン◯ールの住人かな?



「自慢の(たてがみ)が少し焦げてるぜ?大丈夫かよ?」



アルフレッドが言うと、



「ふむ。さすがにこのままでは無理か。済まない、では本気を出そう…!」



おいおい今ので本気じゃなかったのかよ。なにする気だ?

何が起こるのか、ハルも観客も刮目して見ている。



「ぬぅぅう…ふんっ!」



獣王が構え、気合い一声入れると、辺りの雰囲気が変わった。



(たてがみ)が逆立ち、地面にヒビが入る。



魔力か?冷たいような、張り詰めたような…



!?気付いたときにはアルフレッドは吹き飛ばされ、木に派手にぶつかっていた。



一瞬間を置いて全身に痛みが走る。



「かはっ…」


とてつもない衝撃に悶える。咄嗟に魔法でガードしたが、その上でとんでもない威力だ。



「…まさかお前、今まで魔力の身体強化してなかったのか…?」






「雰囲気が変わった…その後のは全く見えなかった。まさか今までが素の身体能力だけでやっていたとは…」



フィーダは信じられない、といった顔をしている。というか、観客も含め場にいる全員が思っているだろう。






「ゆくぞ」



獣王は短く言うと、無慈悲に攻撃を開始する。



防御に出した石壁も、空気の壁もすべてぶち破って獣王はアルフレッドを蹴り抜く。



「がはっ…」


アルフレッドが血を吐いた。蹴りの衝撃波の威力だけで10メートル先まで気が薙ぎ倒されていた。




「うそだろ…師匠…」



師匠が負ける姿は想像できなかったが、獣王の強さはそれすら凌駕している。なにより肉弾戦に全く対応できず魔法戦にもっていく事ができない。







「…その目はまだ奥の手があるな?雷神よ」



「…あぁ…いっちょまえに心配なんてしてやがるバカ弟子の前だからな…負けてやる訳にはいかねぇんだ。かっこつけないとな」



「来い!貴様の全力に我が拳で答えよう!」





「とっておきだ。魔身機召喚…出番だぜ、尊大なる王(グラン・オーサム)!」



アルフレッドの耳飾りが眩く輝くと、魔身機が形作られていく。



黒を基調に、鎧などピンポイントに金で意匠が施してある。




「なっ!?アルフレッド殿はエルフではなかったのか!?エルフは召喚をできないと自分で言っていたのに…」



「本当は人間…とか?いや、だとあの大規模な魔法の説明がつかないよね…?」



アルフレッドの事と、魔身機の事を知っている人間は皆驚いている。



「…あ…思い出した。師匠は自分をハーフエルフと言っていた…!人間とのハーフなんだ…だから魔身機を使えるのか…!」



そう言えば会ったばかりの時に言っていたような気がする。



勝手に思い込みで師匠は魔身機を使えないと思っていたんだ。



「なんと!雷神殿もできるのか。ただのエルフではないのだな」



「加減できねぇからな…死ぬなよ獣王!」



アルフレッドは叫ぶ。



勇壮なる王の独演会(グラン・ド・ライヴ)!!」



アルフレッドの魔身機が手を上げ、空を斬るように手を下ろした瞬間、辺りに稲光が光り、狂った竜のような雷が何十と降り注ぐ。



スドドドドドォン…



音と稲光が止むと、アルフレッドの魔身機から見える範囲数百メートル以上が焼け野原となり、森があったはずの場所も何も残っていなかった。




「無茶苦茶だ…これが師匠の本気…」




獣王は、と言うと多少毛皮は焼けているがしっかりと立っている。


アレをくらっても平気な顔をしている獣王も大概の化け物だろう。




獣王はその場で連打を放つ。



一つ一つが途方もない威力の空気のミサイルとなりアルフレッドの魔身へ向かうが、風魔法の風弾で全て撃ち落とす。



アルフレッドの魔身は腕を組んだままだ。



風と風の当たる衝撃で辺りに暴風が吹き荒れる。



「…余波だけでまるで嵐だな…」



フィーダが呟く。後ろでミナが飛ばされそうになっている。




獣王はゆっくりと構えをとる。



「!次で決まる」



フィーダが二人の雰囲気の変化に気づく。決めるつもりだろう。




獣王は駆ける。何よりも速く。相手よりも先に拳を当てるために




魔身機(グランオーサム)のスラスターが全て開き、風の魔法を全開で噴射する。さらに雷を纏い、突きだした拳に全てをかける。アルフレッドの十八番だ。



「出力全開…野蛮な王の疾走(グラン・ドライブ)!!!」



奇しくも二人の必殺技はとてもよく似ていた。



二つの光が近づき、交差する。



衝撃波による破壊と音、光が止み…そこには。




二人ともが立っていた。



「『雷神』…伊達ではない…我の敗けだ。」



そういって獣王は倒れるように座り込んだ。



「勝ったら言うこと聞くんだよな?獣王ガルル・ギル…『獣神』を名乗れ。お前にはその力がある」



「『獣神』か…貴方に認められたのなら、悪くないかもな」




「勝者、『雷神』アルフレッド!勝者の命により『獣王』は『獣神』を名乗ることになった!これにて決闘は終了、戦い抜いた戦士達に喝采を!」



ミナが高らかに宣言する。



「うぉおおぉぉぉお!!」「『獣神』ガルル・ギル様万歳!」「『雷神』アルフレッド様万歳!」






こうして熱の冷めやらぬ決闘は終了し、さらに酒盛りは輪をかけて盛り上がっていった。





戦闘描写ってむずかしいですね。楽しんでいただけたら嬉しいです。明日も更新します!

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