20話『想い』
…様……ミナ様…
「ん……ミ…ロル…?」
ミナがゆっくりと目を開けると、涙目のミロルと心配そうに覗きこむ仲間たちの顔があった。
「ミロル…よくやったわ…ありがとう」
「そんな!ご無事で何よりです!ふぇぇ」
ミナが優しくミロルの頭を撫でると、ついに泣き出してしまった。
「薬は…切れたみたいね。だるいけど」
そう言ってミナは気だるそうに立ち上がった。
振り返り、ハル達の方を向くと言葉を続け、頭を下げる。
「あなた達が助けてくれたのね。ありがとう。」
朦朧とした意識の中で、誰かが戦っていたのは何となく覚えている。
「ミロルのおかげだ。彼女が建物の場所から捕まっていた内部までよく覚えていてくれた」
フィーダが答える。実際、ミロルが捕まっていた内部までしっかりと覚えていたお陰で迅速な救出ができた。彼女の功績は大きいだろう。
「なんにせよあなた達に助けられたのは事実よ。後で改めて御礼をさせてもらうわ」
ミロルを撫でながらミナは言う。
「もうすぐ町の憲兵も来るだろう。首謀者は捕まえてある、辛いだろうが証言してくれるか」
「当然よ。他の被害者達の為にもね」
フィーダが言うと、間髪いれずにミナは答えた。
◇◇
しばらくすると兵が来て、首謀者の捕縛と被害者の保護、建物の調査などを手際よく始めた。
状況を説明してほしいと部隊長と思わしき人物が来た際は、ミナ達被害者の証言と、フィーダとアルフレッドが事の顛末の説明を行っていた。
また、アルフレッドが名前を出した際は随分驚いていた。当然の反応である。
時間はかかったが処理も終わり、ようやく開放されることになった。捕まっていた人達は国の施設で保護してくれるそうだ。
が、最後の最後に、セキチクの国王から「会って話がしたいから明日城まで来てくれないか」との言伝てがあり、明日はお目通りすることになってしまった。
まぁこれだけの事件なので仕方ないだろう。
師匠はめんどくせぇな、なんて言っていた。
◇◇
夜、宿屋に戻りそれぞれ休むことになったが、眠れないハルは宿屋の屋上に来ていた。
と、誰かが上がってきたようだ。
「ハルくん」
ラフな格好のアリスが居た。
「アリス…どうしたの?」
「ハルくんと話したくて来たの」
やっぱりバレてたか。出さないようにしてたつもりだったんだけどなぁ。
「大丈夫?」
アリスは隣に座るとハルを見て言った。
「大丈夫だよ」
ハルは前を見たまま言った。
「うそ」
アリスは優しく言う。
「怒りに任せて人を殺してしまった。酷い事をした奴らだし、皆が危険だし、更正なんかするはずがない奴らだった。けど怒りに任せて殺してしまった。これは違う。履き違えちゃだめだ。それを反省してた」
空を見たままハルは言う。
「なるほどね。けど、それをわかってるハルくんなら大丈夫だよ。それに皆言ってたでしょ?ありがとうって。それが結果だよ。これ以上被害者も出ないんだし」
「うん…ありがとう。自分の中で答えは出てたのにすっきりしなくてさ。アリスに聞いてもらったら心の整理が付いたよ。」
ハルが初めてアリスの方を見ると、とても優しい笑顔のアリスがいた。
「どういたしまして。やっとハルくんの目が見れた」
そう言って満天の笑顔を見せるアリス。
「…アリス、これ、誕生日プレゼント」
そう言って、昼間買ったアリスへの贈り物を渡した。
「私に?ありがとう!あの、…」
アリスはさらに明るくなった表情だが、何か言いたそうだ。
「あー、昨日のはごめん。フィーダさんから聞いた。」
ぬか喜びでがっかりさせた事への謝罪もほんのちょっぴりあるけど。
「ふふふ、びっくりしたんだからね!開けていい?」
もちろん、と頷くと彼女は丁寧に箱を開けた。
中から出てきたのは、花と蝶をモチーフにした、シルバーの髪飾り。
魔法銀製で、花の中心の小さな宝石には願いが叶う魔法がかかっている!なんて書かれていた。どこの世界も売り文句は似たようなもんなんだなと思ったが、デザインがとても可愛かったのでこれにしたのだ。
「…かわいい…!」
そう言ってアリスは髪飾りを着ける。
「とても似合ってるよ」
自分で選んでおいてなんだがアリスにとても似合っていた。
「ふふ…ありがとう」
言葉のあと、アリスは小さく咳をした。
「おっとごめん、長話しすぎたかな?寒いから宿に戻ろう」
「心配しすぎだよ!」
「風邪ひいちゃうから!ほら行くよ」
「子供扱いするなぁ~」
そうして二人は笑いながら宿に戻っていった。
雲が晴れて三日月が綺麗な夜だ。
◇◇
フィーダはハルを探し、屋上へ上がろうと階段へ来ていた。
すると、
「ハルは上にいるが先客が上がってったぞ。二人にしてやれ」
アルフレッドは酒を片手にフィーダに声をかける。
「アルフレッド様…そうですか。ではまたの機会にしましょう」
フィーダは踵を返し去ろうとするが、さらに声をかけられる。
「ハルの魔法の事か」
「…はい。人間が生身のままであのような規模の魔法を使うなど聞いたことがありません」
魔身機に乗って魔力効率のいい状態でも、1度できる者がいるかどうか、そんなとてつもない威力の魔法だった。
「ハルに聞いてもわかんねぇぞ。本人もわかってないからな。分かってるのは、精神状態によってあれくらいの魔法を使える時があるってことだけだ。」
アルフレッドは酒の手を止めて言う。
「なんと…やはりそうでしたか」
フィーダは実際に見ていなければ信じがたい話だと思った。
「まぁ制御できりゃ問題ないんだ。その為に俺が付いてるしな。だからまだ誰にも言わないでくれ」
アルフレッドは真面目な顔でフィーダの目を見て言った。
「もちろんですよ。大切な仲間ですから。では私は先に休みますね」
にっこりと笑ってフィーダは答え、部屋に戻っていった。
「ま、いい傾向っちゃいい傾向か。」
そう言ってアルフレッドもどこかへ消えていった。
こうして突然のトラブルの一日は終わりを告げた。




