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18話 『事件』



「あぁ、ここの宿まで届けてくれ。ありがとう」



フィーダさんと店主の話が終わったようだ。量を買ったものは宿まで届けてくれるそうだ。サービスいいな。



「これで大体終わったな。ハルの方は何かめぼしい物はあったか??」



「さっき通った所にあったお店見に行ってもいいですか?見たいのですが」




「かまわんぞ。行こうか」



二人は歩きだす。たしかここの角を曲がって裏道に入った所だったはず…あった。




◇◇





買い物をしたハルとフィーダは店から出て、曲がり角に差し掛かった瞬間、



「きゃっ!」


「おっとごめんごめん!大丈夫?」




曲がり角から急に現れた女の子とぶつかってしまった。



人通りが少なかったので油断していた。



「連れが失礼した、怪我はないか?」



尻餅をついてしまった女の子にフィーダが手を延ばす。



フィーダさん、マジイケメン…これをサッとできるのが大事。



女の子はフィーダの騎士鎧と、ハルの剣を見て叫ぶ。



「騎士様助けて下さい!いきなり連れ去られて…このままじゃ!」



必死の形相で少女は訴える。




「詳しく話してくれるか?とにかくここを離れよう」



フィーダの眼光が鋭くなり、しかし少女を落ち着かせるように優しく声をかける。


と、


「その必要はない。その子を置いてここを離れろ。そうすれば命だけは助けてやる」



突然現れた黒ずくめの男が言う。



気がつけば後ろにも現れた。前に二人、後ろに二人が現れ、リーダーを含めて5人に囲まれてしまっている。



「はいそうですかと言うと思うか?一気にキナ臭くなったな。ハル、少女を間に」



フィーダはそう言い、剣を抜き構えた。



ハルは頷き、後ろの二人に向かって構え、フィーダとの間に少女を匿う。


「離れちゃダメだよ」


ハルは少女に言った。




「好奇心は猫をも殺すぞ」



そう言って黒ずくめのリーダーが合図をすると手下の四人が一斉に襲いかかってきた。





フィーダは降り下ろされた剣を半身を捻ってかわす。反撃はガードされたが、距離が少し開いた。



間髪入れずににもう一人の突きが首を狙ってくるが、見切って左にかわす。


(躊躇がないな…ハルはいけるか…?)「ハル!相手は殺しのプロだ!斬れ!」


相手の伸びた右腕を掴み、引きながら足を掛け体勢を崩す。


くるりと時計回りに回転し、そのままの勢いで剣の柄を相手の後頭部に叩きつける。



鈍い音と短い呻き声をあげて男は地面に沈むが、フィーダはすかさず男に剣を突き立て、とどめをさす。



もう一人の男が魔法で水の刃を飛ばしてくるが、剣で打ち払い、距離を詰める。



黒ずくめの男は距離を取ろうと跳躍しようとするが、一瞬速く地面から現れた土の腕が足首を掴む。



バランスを崩した所にフィーダの刃が深く貫く。



血を払うと振り返り、黒ずくめのリーダーがハルの方に動き出すのを見たフィーダはすぐさま追いかけ、斬りかかる。



「ちっ、邪魔するか、ならば貴様からだ」



「そう簡単にはいかんぞ!」





◇◇






ハルに襲いかかってきた男達は上下、左右と連携して揺さぶりをかけてくるが、ハルは尽く回避する。



連携は上手い…が、組手でのアリスの方が速い。見える速さなので対処できる…が、できれば早めに一対一に持ち込みたい。


と、



「ハル!相手は殺しのプロだ!斬れ!」


フィーダの声が聞こえる。プロ…殺らなきゃ殺られる…いや、これくらいならなんとかなる。



隙を突いてハルは反撃するが、回避される…寸前に炎の刀身でリーチを延長する。



「ぐあっ…」


肩から腹にかけて深く切られた男は崩れ落ちる。



深い切り傷と火傷だ、治療しなければ動けないだろう。



もう一人の男に向かって構え、一気に距離を詰める。



炎を爆発させて一気に加速して斬りかかったが、黒ずくめの男は冷静に回避する。


さっき魔法を見せたので予想の内だったか、警戒されたのだろう。



お互いに斬りつけ、回避し、受け流す。



数合の剣戟が続き、ハルの攻撃が左胴から横一閃の形になり、ここぞと炎で剣を延長して斬りつける。



「またか。芸がないな」



黒ずくめはそう言うとその場で高く跳躍し、横一閃を飛び越える。



「死ねっ!」


黒ずくめが身体を捻ると、左の爪先から刃物が現れ、ハルの首へ迫らんと蹴りを放つ。



「てめぇがなっ!」



ハルはそう言って左籠手を突きだし、左肘の下辺りで炎を一気に爆発させ、体ごと浮く勢いでアッパーを放つ。



「ごはっ!!!」



炎で無理やり体を動かして放ったアッパーには反応出来なかったようで、黒ずくめは下顎に深くめり込むように拳を受け、吹っ飛んでいった。



炎の魔法で剣を延ばすのを囮にして、本命の左アッパーをお見舞いしたのだ。



「いってぇ…腕が抜けるかと思った…」



炎の威力を強くし過ぎて勢いが付きすぎてしまったらしい。



少女は…無事だな。フィーダさんは?



黒ずくめのリーダーと戦っているのか。行かなきゃ!



「そのまま隠れてて!」


「はぃぃ」少女に声をかけ、ハルは援護に入る。






後ろから斬りかかるが回避されてしまった。後ろに目でもあんのかコイツは?


「フィーダさんっ!」



「無事だったか。かなり強いぞ!」



フィーダはハルに向かって言う。



「む、ガキにまでやられたのか」



黒ずくめの男はやられてしまった部下を一目見て、苛立ちを覚えているようだった。



「はっ!!」


気合い一閃、フィーダが突きを放つが黒ずくめは容易に回避し、フィーダに何かを投げる。フィーダが身を翻しマントを盾に一回転すると、地面に小さな針が散らばった。




黒ずくめのリーダーは強いが、フィーダ1人でも互角くらいだ。


ハルとフィーダの二人がかりになってからかなり優位に戦えている。組手で連携するため息が合っているのも理由だ。



(よし、二人ならいけそうだ)



黒ずくめのリーダーにも焦りが見えてきた。




ハルは隙を見て炎のナイフを投げるが切り落とされる。ハルが斬りかかるが回避され、反撃の蹴りがくるがなんとか籠手で受ける。のけぞり、体勢が崩れそうになるが、瞬間、フィーダの魔法で地面から石の腕が2本伸び、一本はハルを支える。


もう一本は蹴りを放った黒ずくめの軸足を掴み動きを止める。



「今だっ!!」ハルとフィーダは同時に斬りかかる。



「やむ無し」


黒ずくめの男が舌打ちをすると、地面に円形の影が現れ、男は落ちるように影の中に吸い込まれていく。



「なっ!?」ハルとフィーダが剣をふり下ろした場所には普通の地面があるだけだった。



すると少し離れた場所に黒い影が現れ、男が中から出てくる。



魔法か…!?なんて便利な…!



「…」



黒ずくめの男は何も言わずに構える。




(まずいな…あれを連発されると面倒だぞ)



フィーダは油断なく黒ずくめと相対しながら考える。



(…?なぜそのまま少女の方に行かなかった…?)


と、考えていた瞬間。



「きゃあぁあぁぁ!!」



少女の叫び声が聞こえ、そちらを見ると、ハルが殴り倒した男が気が付いたようで、少女に襲いかかろうとしている所だった。



「!しまった!!」


ハルは叫ぶや否や、炎のナイフを投げ、自分も爆発と共に一気に跳躍する。



が、黒ずくめのリーダーがナイフを叩き落とし、立ちはだかる。


「邪魔はさせん」







(ハル、とどめをさしていなかったか!)



フィーダはすぐさま地面に剣を突き、魔法を発動させる。



(南無三!間に合え!!!)




鋼のドームが少女を囲み、黒ずくめのダガーを防ぐ。さらにドームから伸びた鋼の槍は、黒ずくめの男に2本、3本と突き刺さり、男は動かなくなった。




「ちっ…予定変更だな」


ハルと戦っていた黒ずくめのリーダーはそう言って距離を取り、巻物(スクロール)を取り出し魔法を発動させると、そのまま跳躍して撤退してしまった。


発動した魔法で、黒ずくめの死体3つと、ハルに斬られたが生きていたはずの男からも大きな炎が上がる。




「逃げられたか…しかし隠滅まで行うか。徹底的だな」




死体が焼ける様を見ながらフィーダは呟く。




「フィーダさん…すいません…俺のせいで…」



ハルは頭を下げて言う。殺さなくても制圧できる、と思ったし、実際に行うことができた。



だが、それが引き起こす事態まで考えていなかった。



悪人とは言え、「人を殺す」事が怖かったのもある。そこまでする必要があるのか?とも思ってしまった。



「いや、君は冒険者になって日が浅かったな。仕方ない。私も最初はそうだったよ。だが、いつかは覚悟しなければならない時がくる。よく考えるといい」



フィーダはそう言って剣の宝玉を懐かしそうに見つめ、撫でる。



だが一歩間違えば少女やフィーダ、ハルが死んでいたとしてもおかしくないのだ。ハルは覚悟のできていなかった自分に悔しかった。



「さて、とにかく彼女から話を聞こう」



ハルの雰囲気を察したフィーダは少女の魔法を解除した。





◇◇



「大丈夫?怖くなかった?」


ハルが少女に尋ねると、少女は気丈に答えた。



「大丈夫です、ありがとうございます」



「とりあえずここを離れて、仲間のいる宿に行こう。何があったか教えてくれるか?」



フィーダはそう言うとアリスとアルフレッドに連絡を取り、宿に集合することとなった。





◇◇



少したつと、宿にて全員が揃った。



「さて、んで何があったんだ?誰だコイツは?」



アルフレッドは椅子に腰かけている少女を見てフィーダに問いかける。




「彼女が襲われていた所を助けたのよ。詳しい事は今から彼女が。」




フィーダがそう言い、少女の方を向く。




「私の名前はミロルと言います。兎の獣人です」



ミロルと言う少女はそう言うと帽子を脱いだ。




彼女の頭にはウサギ耳が生えており、ピクピクと動いている。




おぉ、ウサミミ少女…こんな時でなければテンション上がったのに…。




全員がミロルへ名前だけの自己紹介を行う。





「数人の仲間とこの国へ来ていたのですが、いきなりあの黒ずくめの集団に襲われました。戦うのが得意でない仲間が人質に取られて全員捕まってしまいました」



「町外れの建物で監禁されていましたが、隙を突いて暴れ、小柄で足の速い私がなんとか逃げ出し、追われている最中だったのです。」



ミロルは恐怖を思い出したのか、体を震わせながら話す。



「ミロルさん、もう大丈夫ですよ」



そう言ってアリスはミロルの手を握る。




「ありがとうございます、アリスさん…」




「ふむ、…奴隷商か…?」




フィーダは手を口元に持っていき何かを考えている。




「お願いします!捕まっている仲間を助けて頂けませんか!?」




ミロルはそう言うと深く頭を下げる。



「いや助けてやったんだから後はこの国の警備なり騎士団にやらすのが筋だろう」



アルフレッドは身をすくめて言い、さらに続ける。



「こーゆー問題は国が出るのが一番なんだよ。そもそもそんな奴隷商を野放しにしてるこの国も悪いし、簡単に捕まるコイツらも悪い。今から騎士団の所に行けば明日の朝イチで討伐隊出してくれるだろうよ」



「明日じゃ間に合わないんです!!今日の夜に取引があるんです…姫に何かあったら…」




ミロルは顔面蒼白になりながら必死に懇願する。




「姫…?待てミロル、誰が捕まっているんだ?まさか…」




最後に聞こえた単語にフィーダが反応する。




「獣人の王女、ミナ様と御付きの一行です…」




「なんだと!?獣人の姫がいるのか…なにかあったら獣人と全面戦争になってもおかしくないぞ…」



ミロルの口から出たらビックネームにフィーダは驚愕する。



「助けましょう!この国の警備を待ってる時間はないです。俺達で助けに行きましょう」



ハルは自分の失敗もあって助けに行きたいようだ。



「(獣人の王女…拉致のタイミング、拉致後の早すぎる取引。偶然じゃねぇ…)…フィーダ、ハル、お前らコイツ助ける時に戦った相手はどうした?全員殺したか?」



アルフレッドは考えながらフィーダとハルに問う。

 


「すいません…俺のせいで逃げられました…」



ハルは悔しそうに頭を下げる。



(お前がいながら何やってんだよ!?)



アルフレッドは小声でフィーダに言う。



(ごめんなさい…強いからハルがまだ冒険者になって日が浅いのを忘れてたわ。人間同士の『殺しの覚悟』がまだなのね…)



(あぁ…そうか。そういや魔物ばっか相手してたからな…わかった。すまん。)ハルは戦いのない平和な世界から来たんだったな…そんなことをアルフレッドは考えていた。



「ならばこそ、俺は反対だ。事情を話して騎士団にすぐに出てもらえばいい。俺の名前を出せば動くだろう」




アルフレッドはきっぱりと言う。




冒険者として最も強いアルフレッドの明確な拒絶に、ミロル、フィーダ、ハルから焦りと嫌な雰囲気が流れる。



と、



「…私は、貴族の娘と言う立場によって、子供の頃に一度拐われた事があります。」



アリスが静かに、だがよく通る声で話し出す。



「駆けつけた兄さまとある方が助けてくれたけれど、本当に怖かった。私は今、同じ思いをしている方を助けたいです。アルフレッド様」


凛とした表情で、まっすぐにアルフレッドを見るアリス。


しかも相手はフィーダとハルの二人を相手取りながら逃げおおせる実力者だ。この小さな国の騎士団では荷が重い可能性が高い。



「……ちっ…わかった、ならば俺一人で行く」



瞳での交渉はアリスの勝ちらしい。



「師匠!なん「理由があるのね?」



ハルが言いかけた所に、フィーダが声をあげる。すると、アルフレッドが耳を貸せと目で言っている。



(…だったなら、おそらく…になってる。俺一人の方がいい。)



フィーダはアルフレッドの言葉を聞いて納得するが、ここで大切な事を思い出す。



「黒ずくめのリーダーが空間転移のような、場所を移動する魔法を使っていた…一人ではあれで逃げられてしまう可能性が…」




回数や距離の限界が分からない上、人質の奪還が目的だ。一人では対処が難しいだろう。



「くっそめんどくせぇ能力だな…」



アルフレッドは苦虫を噛み潰したような表情をしている。



「…わかった、全員で行こう。但し絶対に指示に従え。それが条件だ」



アルフレッドはしぶしぶ了承する。



「「ありがとうございます、アルフレッド様」」



アリスとミロルはにっこりと笑う。




「時間がねぇ、すぐに出発だ。1分で支度しろ」



「「「「はい!」」」」







◇◇



準備をしているアリスとフィーダの所へ、アルフレッドがやってきた。



「二人とも、ハルを頼む。アリス、無理そうならハルを連れて撤退しろ。俺とフィーダでやる。…すまんな」



それだけ言うとアルフレッドは行ってしまった。


「意外と過保護なのよねぇ」


そう言ってアリスとフィーダは小さく笑いあった。

明日は夕方の17時くらいに更新します~

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