17話 『中立国』
アリスの機心の修復も無事に終わり、お隣の国セキチクへ入る事になった。
このセキチクと言う国は大陸のほぼ中央にあり、大森林を隔てた向こうにある獣人の国やドワーフの国との物流や人の交流を行っている。
商人の国と言われる由縁で、様々な交流がある為、
「金さえ払えば奴隷だろうとドラゴンだろうと商売相手」
がモットーだ。そもそもこの場所に国はなく、交流に便利な為に商人が集まって自然と国になったので国としては日がとても浅い。
その為にどこかの国同士が戦争になっても、どちらにもつかないと中立の立場を明言している。
マルメゾン帝国に至っては、商人の集団が国の形を成しているだけで、国家ではないとして存在を認めていない。
「さて、セキチクに入りました。ここからドワーフの国まで大きな街はありません。食糧などは私が揃えますが装備や各々必要なものはここで万全にしてください。」
フィーダ先生からの遠足の注意だ。
「滞在は3日の予定です。宿には必ず自分で帰るように。では解散」
師匠がばつの悪そうな顔をしてどこかへ消えていった。
酔っぱらってフィーダさんに迷惑かけたなあの感じは。
「フィーダ、私も手伝うよ」
アリスがフィーダに言う。
「あ、俺もやることないんで手伝いますよ」
荷物の準備も大変だろうし。全部任せっきりもなぁ。
「二人ともありがとう。では今日はお嬢様にお手伝い頂きましょうか。ハルは明日手伝ってくれるか?」
にっこりと笑ってフィーダは答えた。
「了解っすー」
んじゃどうしよう、なんか見てまわってみようかな。
◇◇
武器や籠手なんかはサウスワークで手入れしたので魔道具屋に来てみた。
便利なものがあれば購入したい。し、何よりどんなものがあるのか気になったのだ。
生活に便利なものから戦闘向けのものまで様々な種類があるようだ。
スイッチを押すと小さな火が出る、ライターみたいなものから、一発打ちきりだが小さな動物なら倒せるレベルの炎弾が出る筒や、懐中電灯のようなものから閃光玉のような魔道具まで本当に種類が多い。
ん、この道具は…?ほうほう。これは役に立つかも…?
◇◇
その日の夕方 宿にて
「アリス、これあげる」
さっき買った小さな小箱をアリスに渡す。
「え…いいの?ありがとう…開けていい??」
アリスは驚いた後、不思議そうな顔で尋ねる。
(!?ハルは知っていたのか?)
フィーダに一抹の不安がよぎる
「昼に買った魔法石なんだけど、魔力を流すと会話ができるんだって!あと、台座に木の部分あるでしょ?それが壊れると、もう1つの魔法石に報せが出るんだって。なにかあったすぐわかるってこと」
携帯付き防犯ブザーってとこか。
「魔法石!?い、いいの?ほんと、に?………ありがとう!嬉しい」
一瞬の困ったような顔と照れ、そして、満面の笑みでアリスは言う。
師匠がニヤニヤしている。
(!?ハルは意味がわかってやってるんですか!?)
フィーダはこっそりとアルフレッドに尋ねる。
(あぁ?なんか問題あんのか?)
(お嬢様は明日誕生日です)
目を見開いたアルフレッド。
(っ!?……まじか……いや、知らないだろうけどもういいんじゃねぇか?あいつらなら大丈夫だろ)
(大丈夫なわけないでしょう!?これ以上何かあったら…)
と、フィーダとアルフレッドがこっそり話していると、その何かがハルから発せられる。
「フィーダさんの分と師匠のもあるんで」
「!?そ、そうだよね、皆で持つ方が便利だもんね」
アリスは驚いた顔をし、何かを察する。
「どうぞ」
ハルはフィーダに渡す。
「あ、ありがとう…」
フィーダは難しい顔をしている。
「師匠もどうぞ」
「…はぁ…。アリス、稽古つけてやるから付き合え」
「あ、はい」
タメ息を吐いた師匠はアリスと行ってしまった。
◇◇
「ハル…これは不幸な事故だ」
フィーダは深くため息をついた。
「どーいうことですか?なんかまずかったですか??」
全く見に覚えのないハルはフィーダに問う。
「いや、仕方ないんだ…君は他の国から来たんだったな…。この国では誕生日の異性に宝石をプレゼントする事に特別な意味があるんだ…好意を告げる意味合いだな。アリスに渡したのがたまたま誕生日前日で、渡したのがたまたま魔法石で、こうした男女の風習を知らないハルがたまたま魔法石をいくつも買えてしまう程の冒険者だっただけの話だ……」
遠い目をしたフィーダがうなだれる。
「そしてその直後に私達にも渡したものだからお嬢様も状況を察してしまったのだ…あぁ…おいたわしい…」
「…あぁっ!えっ!?なるほど…いや!いやいやいやいや…えぇー…」
驚愕と自分がやった行為の意味への照れ、そして申し訳なさ…
自分のせいで勘違いさせてしまったのだ…そして気を使わせてしまった。
せめて全員に同時に渡していれば避けられたのだが。
「…どう…しましょう…」
恥ずかしさと申し訳なさからハルは声を絞り出す。
「わかってるだろうが、あえて言おう。3つだ。一つ、このまま知らないふりで通す。お嬢様はハルが知らないが故の勘違いだと分かっているからな、お互いに触れなければただのプレゼントで終わりだ。二つ、知らなかった、と謝罪する。お嬢様の事だからまず怒ってはいない。今後は気を付けるとでも言えば問題ないだろう。そして3つ目は…」
◇◇
近場の森、アルフレッドとアリスが激しい戦いを繰り広げている。
三メートルほど離れていたはずのアリスの姿を見失ったかと思うと、左側面からアルフレッドの眼前に切っ先が迫っていた。
辛うじて回避するアルフレッド。
息つく暇もない高速の攻防だが、アリスはアルフレッドに話しかける。
「どう思われますアルフレッド様?もちろん怒ってはいませんよ、ハル君がこの国の生まれでは無いことは聞いていましたし、私が勝手に勘違いしたんですからね。でも嬉しくて恥ずかしくて飛び上がりそうだった私の気持ちはどこへ向けたらいいんでしょうね!?」
魔王も裸足で逃げ出すような怒濤の剣戟がアリスから繰り出され、なんとか受けるアルフレッド。
「あ、あぁ…そうだな…(とりあえず俺に向けるのはやめてくれねぇかな…)」
普段はハルとフィーダ、アリスの3人がかりでやっとだが、今日はなぜかアルフレッドが防戦一方だった。
「はぁっ!」
気合い一閃、一際大きな金属音がすると、アルフレッドが持っていたはずの剣が打ち上げられ、2メートルほど後方の地面に刺さった。
「お、おう。今のはよかったな。む、いい時間だな。じゃあ今日はこれくらいにs「もう一回しましょう」
アルフレッドが動けず、ぎこちなく首だけをアリスに向けると、アリスと目が合った。
一瞬の静寂。
「…は、はい…」
(…魔法石の木装飾、割っていいかな…)
アルフレッドは遠い目でそんなことを考えていた。
次は明日の夜9時くらいに更新します。




