番外『見ている!』
アリスとフィーダ避難後、サソリ討伐の話です。
私の名前はロカビリー。先月27歳になった。
Bランクの冒険者だ。今日は依頼ではなく、うちのばーさんの腰に効く薬草を取りにこの森に来ている。
ここは王都からの街道として整備されており強い魔物は出ないが、さすがにばーさんに取りに行かせる訳にもいかないしな。
手早く薬草を集めていると、誰かが来たようだ。
「すいません!こっちに魔物か魔獣とか来ませんでしたかー??」
冒険者であろう若い青年が声をかけてきた。こいつも一人か?
強盗なども考えたが、だとすれば声をかけずに不意討ちしてくるだろう。考えすぎるのが私の悪い癖だ。
「いや、今日は一度も遭遇してないな。なんかあったのか??」
「逃げた魔獣追いかけてるんですよ。あ、今日は早めに帰った方がいいですよ!ありがとうございました。では!」
そう言うと青年は走って行ってしまった。
思い出した、彼はギルドで話題の『雷神』の弟子じゃないか。
こないだギルドに入ったと思ったらあっという間にCCランクまで来てしまったすごい子だ。
しかし魔獣を見つけたとして一人ではどうにもならんだろう。見たところ『雷神』もいないようだし。
話を聞いて手伝えそうなら助けてあげよう。そう思い彼も続けて走り出した。
◇
ロカビリーがハルの背中を見つけるととんでもない光景が広がっていた。
原型を残さず破壊された馬車と、10メートル近くありそうな、巨大なサソリ。ハルの後ろには女性が二人いる。
(魔物じゃない…魔獣!?後ろの女性が離脱した…彼は一人で囮になる気か!?)
「魔身召喚!」
ハルの右腕から光が溢れ、形を作っていく。
現れた魔身機は素早く剣を構えると、サソリに向かって距離を詰めていく。
戦うか?いや、支援系の私に魔獣なんて無理だ。あの大きさはBBランクパーティが適正だぞ…無謀すぎる…一度撤退してギルドに報告を…
震えた足をなんとか動かし踵を返そうとした瞬間ふと頭をよぎる。
『女性を助けるために残った彼を置いて、自分だけ逃げるのか?』
ギルドへの報告はさっき離脱した女性冒険者が行うだろう。
ならばやるべき事は彼を助けることだ。それに、二人なら逃げるくらいはできるかもしれない。
足の震えはいつのまにか止まっていた。
彼のような未来ある若者の芽を摘ませてはいけない…!
「魔身召喚…ゆくぞエルヴィ!青年よ!手助けするぞ!」
ロカビリーは信念と言う武器を持ち、戦いに足を踏み入れた。
◇
サソリと戦ってたらなんかギンギラギンのド派手な魔身機が乱入してきた。
どうやら助けてくれるらしい。正直助かる、素直に喜ぼう。
「音魔法の弓使い、ロカビリーだ。援護する!」
後ろにいる派手な魔身機はどうやら後方タイプのようで、弓が武器のようだ。
さっきまでは防戦一方で攻撃する暇もなかったが、絶妙なタイミングで攻撃して気を逸らせてくれる。
「さっきの方ですね?助かります!!」
しかも魔法付の矢のようで当たると少し怯む。
この効果がかなり大きく、ハルはさっきよりも余裕をもってサソリの攻撃を捌けている。
サソリの突きを前に踏み込みながら回避する。
ここでロカビリーの放った矢が頭付近に命中しサソリは大きく怯んだ。
「くらえ!」
ハルは大きく振りかぶりサソリの顔に向かって切りつける。
が、当たったところで刃が止まってしまった。
(彼の攻撃でも通らないか…まずいな)
「何か手はあるか!?」
ロカビリーは矢を放ち、ハルの体勢を立て直す時間を稼ぐ。
「あります!いきます!」
ハルはそう言うと剣に炎を纏わせ大剣のように大きくする。
そのまま炎の大剣を叩きつけるようにサソリのハサミに向かって降り下ろした。
爆発音と炎が上がる。
「おぉっ、すごい威力だな」
ロカビリーは感嘆の声を上げた。
大振りなのと炎が上がるので連続攻撃ができないのが欠点だが、一撃の威力はかなりのものだ。
サソリのハサミにはヒビが入っていた。
サソリは大きく体を震わせギチギチと口を鳴らしている。
「効いてる!このままいきます!援護お願いします!」
ハルはダメージを確認すると再び斬りかかる。
「まかせろ!」
ロカビリーは応え、矢をつがえる。
ようやくまともなダメージが入ったが、かなり戦況は厳しい。
ハルの最大攻撃でようやくヒビが入る程度のダメージ。倒すにはどれだけ当て続けなければならないのか。
さらにこちらは直撃をもらえば終わりだ。
針の穴を通すようなギリギリの綱渡りをし続けなければならない。
(それでも…やるしかない!)
◇◇
数十分は経っただろうか、ロカビリーは焦りを感じていた。
魔身機を操縦しながら、音魔法の矢を放ち続けている。
限界が近い…。
ハルの魔身機も直撃こそしていないものの、捌ききれない傷が増えてきている。
対する魔獣は、ヒビを入れられて本気になったようでさらに動きが鋭くなりハルの攻撃も直撃が少なくなってきた。
(まずいな…じり貧だ…彼も私も限界が近い)
撤退するか?…いや、あいつの素早さを考えると逃げ切るのは難しい。
逃げ切れずに街まで行くのはもっとまずい。
ギルドからの救援を待つのが一番だ。
だが、それまでもつか…?
と、サソリが急にロカビリーに向かってツメの先を飛ばしてきた。
「ロカビリーさん!」
ハルが叫ぶ。
「うぉぉっ!」
すんでの所で回避する。
「もうもたんぞ!どうする!?一か八か逃げるか」
なんとか回避したロカビリーはハルに言う。正直次もかわせるかどうかわからない。
「……いえ、大丈夫です。よかった、間に合いました」
何かに気づいたハルは距離をとり、ふぅ、と息を吐いた。
「必殺!王者疾走!!!」
森から突然現れた小さな影は、雷光を纏い凄まじいスピードでサソリに向かって体当たりを行った。
轟音と強い光が周囲を襲い、目を開くと、そこにはサソリの脚が数本残っているだけだった。
「一撃…なんという…」
ロカビリーは次元の違う魔法に開いた口が塞がらなかった。
自分達が粘るしかできなかった相手を魔法の一撃で葬った人物。
これがSSランク…『雷神』アルフレッドか…
「倒しきれませんでした」
ハルは悔しそうに呟く。
「まぁ普通にやったらまだ難しいだろ。そっちは?」
ロカビリーの方を見ながらアルフレッドは言った。
「この人にかなり助けられました。ロカビリーさんです」
「助けて頂きありがとうございました『雷神』様」
SSランクの強さを見ることができたロカビリーは嬉しかった。
(元々逃がしちゃったのは師匠のミスなんだけど言わない方が良さそうだなぁ…)
そもそもサソリがここに現れた原因はアルフレッドとハルにあるのだが、話が拗れそうなので何も言わなかった。
「構わんさ。お前らはギルドに行って報告を頼む。俺の名前を出せば納得するだろう」
そう言ってアルフレッドは森の中に戻っていった。
「「わかりました」」
二人は魔身を解除し、街へ向かって歩き出した。
「本当にありがとうございました、ロカビリーさん。助けられました」
歩きながら、ハルは感謝を伝える。
「いやいやこちらこそ助けられたよ。きっと女性冒険者も助かっただろう。しかし雷神の弟子なだけあるね!その歳で素晴らしい腕前だ!」
ロカビリーはハルの魔身機の操縦技術の高さに驚いたのだ。
炎の大剣を自在に操り飛び回るように戦う姿は、まるで何年も魔身機に乗っているベテランかのような操縦だった。
「だといいですね。誉められるような物ではありませんがまぁ師匠に連れられて森で戦いっぱなしですからねぇ」
Fighting Madでは何年もやってるしそれもあるのだろうけど。
「なるほど、常に実践で鍛えられてきたのだね。よかったらどんな魔獣を討伐したのか教えてくれないか?私は君と雷神のファンになったよ!」
興奮した顔でロカビリーは言う。
「大したもんではないんですけどねぇ…じゃあ…」
そんな事を話しながら二人はギルドへ向かって行った。
そして女性冒険者の報告で準備をしていたギルドへの、二人の報告「魔獣の出現と撃破」は驚きと安堵をもたらした。
さらにその後の飲み会での「魔獣がいかに強かったか」「ハルが炎の剣を実に流麗に振るっていた」「雷神がいかに凄まじかったか」をロカビリーが熱く熱く語った事によって、『雷神の弟子』ではなく『雷神に鍛えられた炎使い』としてハルの名前も広まっていくきっかけとなった。
この功績でハルのBランクへの昇格と二つ名『炎刃』の命名をギルドが決定する。
ロカビリーにはBBランクへの昇格の話が上がったが彼は「大捕物の場に偶然居ただけの自分では力不足」として辞退したそうだ。




