13話 『契約』
見惚れていると、彼女は後ろに居た女性に合図をし、佇まいを正した。
「お会いできて光栄です、『雷神』アルフレッド様、『炎刃』ハル様、ご足労頂き有難うございます。」
堂々とした口調で彼女は言った。
「ちょっと待て、炎刃ってのはハルの二つ名か?」
たしかに。聞いてないぞ本人。
「はい、アルフレッド様。先日の魔獣討伐の功績だそうです。Bランクへの昇格も同時に行われます。おめでとうございます」
そう言って彼女は俺を見てニッコリと笑った。
「そ…そうでしたか…ありがとうございます!」
思わず頭を下げた俺。
「なんだ、よかったじゃねぇか」
「実感ないんでまだわかんないですね」
最初はそんなもんだ、と師匠に返された。
「その件の魔獣討伐の際に助けられたのが私たちです。遅れましたが私がアリス、彼女はフィーダです。お二人のお陰で生きてこの街にたどり着くことができました。本当にお世話になりました」
そう言って彼女たちは頭を下げた。
「あぁ!あの時の!よかった、無事だったんですね」
「はい、本当にありがとうございました」
思い出した!顔は見る余裕なかったけど襲われてる人がいて助けたなぁ。無事でよかった。
「んで、その礼の為だけってんじゃないんだろ?」
え、なんかあるんですか師匠?
「はい。私達はドワーフの国『ボーダー』への旅の途中です。その旅にパーティとして同行していただける方を探しております。もちろんギルドを通す正式な依頼ですので報酬もお出しいたします。金額にご満足頂けなければ後程、マジックアイテムでの報酬も可能です。お力を貸して頂けませんか?」
なるほど、雇われ護衛的なことな。師匠がなんて言うかな。一応これでもSSランクだからなぁ…却って高くつきそうだけど。
「なぜ俺達なんだ?冒険者は他にいくらでもいる。まして護衛なら4~5人の1パーティをそのまま雇ったほうがいいはずだ」
「最初はその方法を考えておりましたが、魔獣にやられて馬車ごと荷物や換金する筈だったマジックアイテムもダメになってしまいまして。お恥ずかしながら現時点では2人雇うのが限界なのが半分です。…後は私の勘です。こうして出会えたのも何かの縁かと思い、お二人がいいな、と思ったのが半分です。」
あっけらかんと笑いながらアリスと言った少女は答えた。
まじか…。
(師匠、引き受けましょう)
(なんでだよめんどくせぇ)
(彼女達の馬車と荷物がダメになったのって、俺達のミスで魔獣に一度逃げられたのが原因ですよね。助けてあげるのが筋ってもんでしょう)
(しるか!命助けてやっただけで十分だろ。礼をされる立場がなぜお願いを聞いてやらなきゃならんのだ)
(逃げられて何キロも追いかけ回したせいで街の近くまで行ったのは俺達のミスでしょ。お願いします)
(変なとこで頑固なんだよなお前…)
まぁ他の国行くのも勉強になるか。ボーダーならアイツがいるしハルの機心調べてもらうのもいいかもな…ハルは妙な所で頑固になる癖がある。どうしたものか、とアルフレッドは考える。
「…わかった、引き受けてやる。ただ聞きたいことがある。お前ら何者だ?ただの冒険者じゃねぇだろ」
よかった!師匠も納得してくれた。女の子達も嬉しそうだ。
しかし、ただ者ではないとは…?
「ありがとうございます!契約成立ですね。…そうですね、私はアリス・ディアセイント。彼女は従者のフィーダです」
「ディアセイント…なるほど、カイムの娘か!どーりでギルドが部屋を用意する訳だ」
師匠は納得いったようだがちょっと待って欲しい。世界情勢に疎いんですよ私。ずっと大森林に居ましたからね!
「師匠、俺にもわかるようにお願いします」
「ん、あぁー。簡単に言うとだな。この国ファンテジアの西に隣接してるマルメゾン帝国ってのがある。
これがちょくちょく侵攻してくるから国境に城塞都市エイギスってのを作ってな。
この娘の父親はそこの最高責任者だ。この国の軍事のトップ。偉い人だぞ~失礼したら首飛ぶぞ~」
アルフはヘラヘラしながら言った。
「すごい人じゃないですか!失礼しました…」
慌てて背筋を伸ばすハル。
「そんな事はしませんよ。たしかにカイムは父ですが、今の私は冒険者として来ておりますので、畏まらなくていいですよ、ハル様」
アリスは優しく笑って答えた。
「まぁ理由はおいおい聞こう。んで、出発はいつだ?」
師匠はいろいろ察したようだ。
まぁ、そんな国でもトップレベルの貴族の娘が冒険者として従者一人だけで他国に行こうと言うのだ、なにかあるのだろう。
「新しい馬車と必要な荷を揃えます、2日も頂ければ」
フィーダさんが答えた。
「んじゃ3日後の朝出発にするか。俺とハルはこの宿屋にいるからなんかあったら連絡くれ」
「かしこまりました、アルフレッド様」
フィーダさんは恭しく頭を下げた。
その日はそれで解散になった。
◇◇
アリスとフィーダの宿
「ふぅ…さすがに疲れた…」
緊張の糸が切れたのか、アリスはベッドに倒れ込むと思わず言葉が漏れた。
「お疲れさまでした、お嬢様」
フィーダがアリスに言葉をかける。
「もう、口調を崩してよフィーダ」
二人の付き合いは長い。仕事のオンオフは分けるが、アリスの強い希望もあって二人の時はお互いに素に戻るのだ。
「ありがとう。疲れたよね、相手はSSランク『雷神』アルフレッド様だもの。私も緊張したわ…あちらに大きな利がある訳ではないのにすんなり合意してくれたのには驚いたわ。受けてくれるとわかっていたの?」
フィーダは難航するであろう、どころかおそらく失敗するであろうと思っていた為、上手くいった事に驚いていた。
「ふふっ、なんとなくよ。もしくは何か私達にわからない利か理由があったのかもね。なんにせよ良かった…」
「アルフレッド様が居られますから戦闘面は心強いし、弟子のハル様も短期間でかなりランクを上げている使い手のようですし。私も彼等から何か得てもっと強くならなければ…!」
アリスを守るため、強さを求めるフィーダにはかなり好都合らしい、目が燃えている。
「……それだけじゃないの。」
フィーダにも聞こえない小さな声でそう呟いたアリスは熱を帯びた遠い目で、どこか楽しげだった。
窓の外には淡く輝く月が静かに浮かんでいた。
◇◇
ハルとアルフレッドの宿
「炎刃だってよ!大した二つ名がついたじゃねぇか。炎振り回して突撃しかできねぇのに。いやそう考えるとぴったりか!」
アルフはケラケラと笑いながらハルに言う。
「勘弁してくださいよ…それに余計なこと考えずに突っ込めって教えたのは師匠でしょ!」
まぁ実際考えるより感覚で動いた方が自分には合っているのは分かっている。魔身機に乗ってる時は特にそうだ。
「ま、お前も戦闘に関してはそれなりのものになったって事さ。俺はもう相棒だと思って戦ってるしな。
だが勘違いするなよ、どんなに強くなっても死ぬときは一瞬だ。誰にでも等しく、あっけなく死はやってくるぞ。俺にもお前にもな」
師匠は俺の目を見て言った。
「はい。ありがとうございます。」
俺は姿勢を正して答えた。
「…よし。んじゃ飲みに行くから付き合え!」
アルフレッドはニヤリと笑った。
「…お手柔らかにお願いします…」
師匠なりのお祝いなのだろう。
いろいろ嬉しい日だったな。出発が楽しみだ!
宿から出て酒場へ向かう二人を、月明かりが照らす。
それぞれの思いが月夜に浮かんで、夜は更けていった。




