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12話 『邂逅』

「ん、大体話は分かった。つまりお前は別の世界から来た異世界人ってことだな。」


ビールを呷りながらアルフレッドは軽く言う。



「え、師匠意味わかってます?リアクション軽すぎません?」



あまりにも軽く言う師匠に、ハルは理解しているのかと不安になる。



「こないだの魔身での巨大な剣の事もあるしな、普通の奴じゃねぇだろうと思ってたからな。むしろ納得だ。しかし異世界人か。理の外にいるのか、ユニークか、いや…」


事もなさげにアルフレッドは言う。



「そんなもんですか…さすがと言うかなんと言うか…」



うちの師匠は器の大きさもSSランクらしい。この人には例え信じられなくても話しておきたかったが、心配は杞憂に終わったようだ。



「んで、妹やらを救うためにこっち来たんだろ?どうやったら帰れるんだ??」



「人を助けたり、人に仇なす者、魔物とかを駆除したりすると、このブレスレットに運命力とか言う魔力的なものが貯まるらしくて。貯まりきると帰れる…はずです。」



そう言ってブレスレットをアルフレッドに見せるが、相変わらず宝玉は全てくすんだままだ。



「俺が稽古つけてやって結構な数の魔物を倒してるはずだが、全然って、感じだな。先は長そうだ」



ブレスレットを見ながらアルフレッドが言うが、思い付いたように顔が明るくなる。



「よし、んじゃ次は大物いってみるか」



犬歯を剥き出しアルフレッドは笑う。



え…まさか…魔獣っすか…?








◇◇



数週間後



ニアフォレスト ギルド






「おい、聞いたか?またやったらしいぞ」



ひげ面の男が掲示板を見ながら隣の男に呟く。



「雷神と弟子だろ?ここ最近だけで3体の魔獣撃破したらしいな。低位とは言え魔獣を二人で狩るとか頭がおかしいとしか思えん。」



隣に居た、つり目の顔の男が答える。



「ちげぇねぇ。俺達じゃ10人ががりでやっとってとこだな。でよ、雷神は分かるんだけどよ、弟子ってのはつええのか?雷神が1人で全部やってんじゃねぇのか?」



「それだとわざわざ連れてる意味ないだろ。前に見かけたが見た目は普通の青年だったがなぁ」



「少し前にCランクに上がったとこだったろ?早すぎねぇか?強いのかねぇ。眉唾だが、雷神だからなぁ…」



訝しげな表情で首を傾げる髭面の男。当然の疑問だ。



数人しかいないSSランクが急に弟子をとったと思ったら恐ろしいスピードで成果を挙げ、弟子のランクも異常な早さで上がっている。



雷神と弟子が森にばかり居てあまりギルドに顔を出さないことも相まって、最近のギルドは「弟子はどんなやつなのか?」の話題で盛り上がっている。





と、そこに扉を開け入ってきた二人の男。



テーブルに座るなり、


「コイツ倒したから。報酬は口座に入れといてくれ。あと俺にエール、コイツはミルクだ」「茶でいいっすよ恥ずかしい…」



金髪の男は椅子に掛けると、魔獣の討伐部位を渡し、オーダーをする。



討伐部位とは、討伐した証としてギルドに持ってくる魔物や魔獣の一部だ。






「噂をすればなんとやら、雷神じゃねぇか!てことはあっちの若いのが弟子か」


声を潜めて様子を伺うひげ男とつり目の男。



「あぁそうそう、あいつだ。前も雷神と一緒に居たから間違いない」



黒髪の青年は、身体は鍛えてあるのが見てとれるが、上背がある訳でもなく、優しそうな雰囲気のどこにでもいそうな青年に見える。目立つのは左腕の大きな籠手くらいなものだろうか。




「はーい、お待たせしまひっっ!!」



飲み物を持ってきたウェイトレスがなぜか何もない所で躓き、トレーと飲み物が宙に舞い、雷神と弟子に向かって飛んでいく。



「「あっ!」」



思わず声が出る二人。来るであろう大きな音に備える…が。



「よっ…と」



座っていた筈の、弟子の青年がいつの間にか立ち上がりウェイトレスを抱き止めていた。反対の手にはしっかりと中身の入ったグラスまで持っている。



「大丈夫ですか?」



青年は抱き止めた女性に声をかけ、立たせる。



「……あっ…はい…あり…がとうござぃます…」


いつの間にか抱き止められていた自分の状況に付いていけなかったようで、頬を染めて呆けていたが、女性は赤面して恥ずかしそうに答える。



座り直した青年は隣を見て呆れたように口を開く。



「師匠、普通は先に人を助けません?」



隣では、自分のジョッキを溢さずにキャッチした雷神が既に一口目を飲み始めていた。


「お前がやるだろうからあえてやらなかったんだよ~合格合格」


「本当ですか?っとにもう…。…それで今回の…」



雷神は全く気にした様子もなく、何もなかったかのように二人は話し出す。




「…見たか!?さすがだな。」



ひげ面の男は相方に確認する。


「もちろん!アイツは…」


つり目の男は興奮したように答え、二人は互いの顔を見て同時に言う。



「「アイツは(強ぇ!)(女たらしだ)!!」」



「「え、そっち?」」


予想だにしない相方の答えに、互いにぱちくりと目を開く。



ちなみにハルはこれでCCランクへ昇格した。





◇◇





ここは王都からニアフォレストへの街道。1台の馬車が激しい音を立てながら走っていた。






「フィーダ、彼等はうまく逃げられたでしょうか…?」





鎧を着た若い女性が、手綱を握る同乗者に呟く。





「おそらく問題ないでしょう。奴はこちらを追いかけてきたのでかなり距離をとれたはずですから。しかし大森林から距離のあるこの街道に、なぜ魔獣が現れたのか…」





フィーダと言うらしい女騎士は言った。




「たしかにそうね…低位の魔物ならまだしも、なぜ魔獣が…」



そう言って少女は口元に手をやる。



そもそも彼女達に何があったかと言えば、元々は王都からニアフォレストへ馬車で向かっていたのだ。


王都はこの国の中央にある。大森林に隣接しているニアフォレストよりも内地だ。


その途中で出会った行商の一家。行き先は同じくニアフォレストだったそうで、道中行動を共にすることになったのだ。




行商一家には娘さんもおり、まだ幼い娘さんにとっては最高の話し相手になれたようで、楽しい旅路となった。




しかし突然現れたサソリ型の魔獣。




サソリから行商の一家を逃がすために二人の馬車が囮になったのだ。





「!フィーダ!来ました!」




後ろからサソリが現れるが、すぐに森に紛れる。




「(……やはり逃げ切るのは難しい…か…)お嬢様、私が囮になります。その間にお逃…」




フィーダはそう言って手綱を渡して馬車から出ようとするが、少女に止められる。




「行きませんよ。貴女と一緒に戦「お嬢様!!!」




お嬢様と言われた少女、アリスがそう言おうとした時、馬車の左横からサソリが現れ、爪を横凪ぎにふるうのがフィーダの視界に入る。



かわしきれないと判断したフィーダは咄嗟にアリスの手を引き、庇うように抱き締めて馬車から飛び降りた。




馬車の荷台を紙のように貫き、馬車は壊れる。



「くっ…ありがとう、大丈夫?フィーダ…フィーダ!?」



すぐに起きあがるアリス。



しかし返事をしないフィーダ。頭から血を流している。



庇ったときに打ち所が悪かったようで気を失ってしまったようだ。


余裕が無さすぎて受け身をとる暇もなかったが、馬車から飛び降りていなければ今頃命はなかっただろう。


近づいてきたサソリは、そんな二人の状況にお構いなしに攻撃しようとしている。




「召喚!!」


アリスは機心を取り出し叫ぶが、発動しない。よく見ると機心にヒビが入ってしまっている。



「くっ…機心が…。フィーダ…私が…!」




フィーダを抱え、生身のまま魔法を使ってなんとか爪の一撃を回避する。




間髪入れずに反対の爪の攻撃がくる。何度も何発も、回避し続ける。



しかしフィーダを抱えたままではすぐに限界がくるだろう。そのまえに逃げるために、怯ませようと隙を見つけては剣で攻撃するが固い殻に阻まれダメージは与えられない。



「くっ…やはり魔獣は…生身では…」



突いたり関節部分を狙ったりもしたが堅すぎて効果はないようだ。



しかしそれもいつまでも続かず、突然の死角からの尻尾の攻撃。今まさに突き刺さらんと頭上へ迫る。



まるでわざと隙を見せてアリスに攻撃させ、防御が疎かになるのを待っていたかのようなタイミングだった。



気付いたときにはもう遅かった。




(上!?ダメ…避けられない…!)




来るであろう、絶命の攻撃に歯をかみしめる





が、聞こえてきたのは弾けるような大きな金属音だった。




「ギリギリ間に合った…大丈夫?」




見たことのない背中だった。大きめのアームガードと炎のように揺らめく剣が目を引く、青年がいた。




「あ…ありがとう…」




同じくらいの歳だろうか、場馴れしているのだろう。青年はとても落ち着いている。




「少し行った所に馬がいる。君の馬だろ?ここを教えてくれたんだ。その人を連れて早く逃げるんだ!」




青年は魔獣から目を離さずに構え、言う。




「でも貴方は?一人では…」




当然だ。魔獣など一人で倒せるものではないし、一人では逃げるのも難しいだろう。




「仲間がいるから大丈夫!とにかく行くんだ!」




…たしかに、怪我人がいるこの状況ではかえって打てる手が限られてよくないだろう。フィーダを抱えて守りながらでは戦うこともできない。




「…わかりました、この恩はいつか。必ず…生きて」




そう言うとフィーダを抱えたアリスはひらり、と風のように走り出した。




「判断早いなぁ。さて、それじゃやるか。「魔身召喚」!」




「師匠早めに来てくれると嬉しいんだけどなぁ…」



そうボヤいてハルはサソリと戦い始めた。






◇◇





「…くっ…ここは…?」




フィーダが目を開けると、知らない天井だった。




「…!起きたのね!よかった…」



フィーダのベッドの横にいたアリスが声をかける。




「お嬢様…ここは?魔獣はどうなりましたか!?」




「ニアフォレストよ。他の冒険者が助けてくれて、なんとか逃げられたわ。あの人も無事だといいけど…」




「それは幸運でしたね…私が不甲斐ないばかりに、申し訳ございません…」




フィーダは悔しそうに唇を噛んでいる。





「ううん、あの時フィーダが庇ってくれなかったら私はここにいなかったもの。本当にありがとう。」





「そんな…有難うございます。ところで冒険者の件と魔獣の件はギルドには報告を?」




厳しい表情でフィーダは言う。




あの魔獣、あれだけ街の近くに来ているなら駆逐しなければならない。




町程度なら壊滅の危険がある、魔獣。




Bランク冒険者なら10人、BBでも6人は欲しいところだ。




その場合はフィーダとアリスも参加するべきだろう。




「もちろん貴女を手当してもらってる間にギルドには報告済みよ。調査隊を出してる筈だから、一緒に行きましょう。」




そうして二人は身支度をしてギルドへ向かった。



◇◇


ニアフォレスト・ギルドにて





「先程はありがとうございました。魔獣はどうなりましたか?」



アリスは、最初に訪れたときに対応してくれたおっとりとした受付嬢に話しかけた。



「大事がないようで安心致しました、アリス様、フィーダ様。魔獣に関しては先程討伐されましたのでご安心ください~」




「この短時間で討伐!?…何があった!?」



受付嬢の言葉にフィーダは驚きを隠すことができなかった。



「付近に高ランク冒険者が居られましてそのまま討伐されました。犠牲者も出ていませんよ。アリス様の仰っていた行商も無事、ニアフォレストに到着しております。情報提供ありがとうございました」




「そうですか!よかった…」




アリスは行商の一家の無事を聞いて胸を下ろした。




「差し支えなければ、どのパーティが撃破したか知りたいんだが…」



あのランクの魔獣をこの短時間で倒す…かなりの実力者達だろう。有名なパーティだろうか?フィーダは知りたかった。



「『雷神』アルフレッド様とお連れの方です~」




「国崩…!…いや、さすがSSランクか。ならば納得だ。しかしこの短時間で…とんでもないな」



フィーダは驚きもあったが、数人しかいないSSランカーの名に納得したようだ。





「私達を助けてくれた方に会ってお礼が言いたいのですが、言伝てをお願いできますか?」




アリスはあのときの礼をしたかった。彼がいなければ二人とも命はなかったのだ。



「大丈夫ですよ。来るかどうかは相手次第ですのでご了承下さいね。名前はわかりますか??」




「名前は聞けなくて…左手の大きなアームガードと赤い剣を持っていました。黒髪で私と同じくらいの歳だと思うのですが…なんとかなりませんか?」




「あぁ、彼ですね、大丈夫ですよ~。おまかせください~」



受付嬢は心当たりがあるようだ。




「よかった!お願いします!」




アリスは嬉しそうに言って、フィーダの方へ振り返った。




「会ってみてフィーダがよければ、あの件をお願いしたいと思うの!」




「例の件ですか?…まぁ必要ではありますからね…会えたら考えましょう」





◇◇



数日後、ギルドの来賓室にて。



ギルドから俺と師匠にお客様だそうで、この部屋で待っている。



通常はこんな部屋使わせてもらえないだろうからきっと師匠の顔があっての事なのだろう。



「俺の事知ってる人なんていないでしょうから師匠のお客さんなんですよねー?」



ふと思ったことを言ってみた。俺には知り合いなんてほとんどいないからきっとそうなのだろう。



「さぁな。俺の客ならお前も呼んだのがわからん」




師匠はあくびを噛み殺しながら言った。





「ですねー。まぁ来たらわかりますかね」




たしかに、わざわざ俺まで指命してきたのがわからない。




なんて話していたらノックの後、扉が開く音がして、女性が入ってきた。




瞬間、すべてがスローモーションに見えた。




肌は陶器のように白く透き通っていて、亜麻色の長い髪は動きに合わせてふわりと揺れる。



整った顔立ちで、猫のようにくりっとしたかわいらしい目がこっちを見て……



目が合った。まっすぐに俺の顔を見て彼女は小さく笑う。



(……あぁ…なんて綺麗なんだろう…)



見惚れた自分が気恥ずかしかったが、目を逸らすことはできなかった。




無くしたピースを見つけたような不思議な感覚だった。


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