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第030話 ポーションII

「そんな傷薬でどうやって?」

“は?”


おかしい…

どうも話がかみ合っていない…


“えっと…私の育った国では【ハイル草】使ってポーション作っていますけどここでは違うのですか?”



あんた何言ってるんだ?という顔で聞き返すラン君。

しかし、たかが民間療法で化膿止めに貼り付ける草を使ってポーションを作るというのはあまりにもばかげている。

そもそもこの薬草でも過去の歴史の中で何度も実験されているので出来ない事は証明済みだ。

なのに彼女はそれが当たり前だという。


「こっちではポーションで使用する薬草は【ロルフ草】と呼ばれる薬草だ。

【ハイル草】なんぞ応急用の軟膏の止血止め位しか使い道が無いぞ?」

“【ロルフ草】?…少なくとも私は知らないから使ったこと無いな…”


彼女の方こそとんでもないことを言う。

ポーション=【ロルフ草】なのは少なくともこれにかかわる者には常識である。


いや、【ハイル草】でポーション作りは過去に行われていたことは実は記録上存在することを私は知っている。

『大魔道文明時代』…この時代には【ハイル草】でポーションが作られていたのは古文書の解読で判っている。

しかし我々には作ることが出来なかったのだ。

古文書の通りに作っても書いてある通りに作れない。

まさに20年近く実験が続けられたそうだ。

それでも出来なかった。

ゆえに古文書そのものが間違っているか正確なことを教えないために何かしらの素材を抜いて教えていると判断され再現不可能と判断されたのだ。

そして丁度その頃【ロルフ草】でポーションが作れることが判明し以来800年間、ポーションといえば【ロルフ草】が定着している。

おかげで俺のように古い文献に興味のあるもの以外【ハイル草】でポーション作りが正規であった事があったなんて知っているものはほとんどいない。

だが彼女の生まれ育ったところでは【ハイル草】で作るのが常識らしい。

【ロルフ草】の名前すら知らない。

どうも演技している風でもない。

そうなると過去の技術を彼女は知っている可能性がある。


「道具と材料を用意するから作ってみてくれないか?」

“………そうですね……実験と検証は化学においては基本ですものね…

できれば【ロルフ草】も用意してもらえませんか?

ちょっと試すことが増えるかもしれないので複数個分用意してくれると嬉しいかなって…”


『カガク』?

その言葉の意味は判らないが彼女の生まれ育ったところでは必要なものだったのか?

だが実験と検証は大いに賛成だ。

もしかするとギルドとしても得がたい知識と切り札のひとつを入手できるかもしれん。





【ハイル草】と【ロルフ草】各50個ずつとこれまた大量の蒸留水の入った瓶が用意された。

複数用意してくれと言ったが用意しすぎだろう…

それに…なんか乳鉢でかくねぇ?

俺の知ってる乳鉢の倍はあるんだが…

ざっと直径25cmぐらいあるんだが…

俺の知ってる乳鉢ってみんな10cmぐらいしか知らんのだが普通なのかこれ?

乳棒もでかいし…これはもう乳鉢の類でなくてすり鉢とすりこ木だろう…


唖然としていたのが顔に出ていたのだろうロイドさんが苦笑いしながら教えてくれた。


「冒険者ギルドでもポーション等の薬品は冒険者達からの買い取り除けば普通は錬金ギルドの薬剤部から購入するんだがたまに緊急に大量に必要になるときがあってな、錬金ギルドの在庫分だけでは足りないときがあるんだ、そのとき普通の乳鉢では少ししか作れないからまとめて作れるようにいつのまにかこの特注品が使われるようになったんだよ。

でかいが一応普通のものと同じだから。」

“………”


と、とりあえず…でかくてもやってやれないことは無いだろう…。


「まずは俺のほうからしてみよう。」


ロイドさんはそう言うとでっかい乳鉢ののひとつを自分のほうに引き寄せて作業を開始した。


【1】、【ロルフ草】を3つ、葉と茎の部分を細かく千切り乳鉢に入れて丁寧にすり潰す。


まぁ、丁寧にしているのは判るがやはり端から見ているとまるで山芋を摩り下ろしているような豪快な作業に見える。

てか、やっぱりあれ『すりこ木』だよ。

かなり力いっぱいしているし…。


【2】、細かく【ロルフ草】がすり潰されるとポーション瓶1本分の【蒸留水】を乳鉢に入れる。


てか、直接乳鉢で混ぜ合わせるの?

ご、豪快だ…。


【3】、瓶に【じょうご】を載せさらに目の細かい布を載せてそして【乳鉢】の中を注ぎいれる。


濾すのは判るんだが自然落下分だけなんだね…

ゲームというか俺は軽く絞ってエキスを搾り出すんだが…


【4】、完成。


「と、まあ、ギルドではこうやって作っている。」


ロイドさんに出来たばっかりの【ロルフ草】で作った【ポーション】を渡されたので【鑑定】スキルで見てみる。



 【ポーション】


 種別:アイテム(薬:ダメージ回復)

 評価:★★★☆☆☆☆☆☆☆

 素材:ロルフ草(×3)+蒸留水

 回復力:30

 製作者:ロイド


 【コメント】

 初心者用・家庭常備薬用ポーション



ちなみにゲームスキルを持ち込んでいるラン達以外は【素材】や【製作者】や【コメント】の欄は表示されないらしい。

これはエルシア村で【鑑定】スキル持ちの人間達にそれとなく聞いて確認している。


それにしても…【コメント】に書かれている『初心者用』には驚いた。

『OWO』のゲーム内では【初心者用ポーション】は存在しない。

最低ランクが【ポーション】である。

そもそもNPCの店売りしている物が『ポーション』なのだからそれより下があるという認識は誰も無かったのだ。

もっともあのゲームある意味ノーヒントな物が腐るほどあり偶然見つけないと絶対見つけられないレシピも大量にあるらしいので【初心者用ポーション】もプレイヤー側がレシピを見つけられて無いだけでシステム内では存在しているのかもしれないのだが…


“『初心者用』ですか…これまた知らないことばかりだ…”

「『初心者用』?」

“いえ、気になさらないで…”


どうやら思わずつぶやいていたらしい。

それにしてもロイドさんの作り方を見て思ったことは基本の薬草の種類は別にして『ポーション』の作り方と手順は同じだということだ。

ただゲーム内では当たり前だった『錬金術師』のアイテム作りに必要不可欠な条件は満たしていなかった。

あれでは『化学』の実験と同じだ。

『錬金術』での作り方ではない。

少し確認しておいたほうがよさそうだ。


“単刀直入に聞きますがこちらの国では『錬金術』を使ってポーションを作るものも同じ作り方なのですか?”

「あぁ、そうだが…?」

“そうですか…もしかしてこの国で過去に【ハイル草】でポーション作ろうとして失敗してませんか?”

「……そうだ…昔から何度も何度も試されているから判る…【ハイル草】ではポーションはできない。」

“さっきと同じ方法で作ったのてすか?”

「そうだ。」

“なるほど…。

では、今から【ハイル草】でのポーション作りを見せます。

作り方は先ほど見せていただいた作り方とほぼ同じです。

ただひとつだけ違うとこがありますがそれは見て判断してください。”


そう言うとランはもうひとつの乳鉢を自分の前に引き寄せた。





“作り方は先ほど見せていただいた作り方とほぼ同じです。

ただひとつだけ違うとこがありますがそれは見て判断してください。”


彼女はそう宣言してポーションを作り始めた。

『ただひとつだけ違うとこ』…それが何なのかは見て判断しろと言う。

私にわかるものなのか不安だが、彼女の言葉なら間違いなく【ハイル草】でポーションが作れるのだろう。

先達達が何度も挑戦して成功しなかった『大魔道文明時代』の技術…

はたとてそれが何なのか明らかになるのだろうか?



【1】、【ハイル草】を3つ、葉と茎の部分を細かく千切り乳鉢に入れて丁寧にすり潰す。


千切って入れる所まではここは同じだ。

ここから先が違うのか?

そう思っていたらものすごい魔力を乳鉢と乳棒に注ぎ込みながらすり潰し作業を始めた。

乳鉢と乳棒が彼女の魔力に悲鳴を上げギシギシ音を立てている。

今にも壊れるのではないかと思っていたがどうやら彼女自身がギリギリのラインで調節して壊れないようにしているらしい。

しかしなぜこんなに魔力を注ぎ込む?


【2】、細かく【ハイル草】がすり潰されるとポーション瓶1本分の【蒸留水】を乳鉢に入れ丁寧にかき混ぜる。


【蒸留水】を混ぜた後、丁寧にガラス棒でかき混ぜている。

相変わらずものすごい量の魔力を込めながらだ。

おかげて混ぜ合わせている液体まで魔力の影響を受けて薄く輝いている。


【3】、瓶に【じょうご】を載せさらに目の細かい布を載せてそして【乳鉢】の中を注ぎいれ最後に軽く絞って濾し入れる。


最後に布を持って軽く絞っていたがいいのか?

余計なものまで入る気がするが…

だが最後に絞ることで瓶の中身がさらに輝いている。

魔力を最後まで入れるための作業だったのか?


【4】、軽く振り最後まで満遍なく瓶の中で混ぜて光が収まれば完成。


“これで完成。

いつもと少し器具が違っていてちょっと評価落ちたけど(苦笑)”


そう言いながら私に今出来たポーションを渡してくる。

【鑑定】能力で見てみると…



 【ポーション】


 種別:アイテム(薬:ダメージ回復)

 評価:★★★★★★★☆☆☆

 回復力:90 (+40)



俺の作った物の3倍も効果のあるポーションがそこにあった。

しかも評価7の高レベル物である。

しかも『回復力:90 (+40)』…7で+40ということは基準の評価3で回復力50…

【ロルフ草】の物と20も違えば普通多いほうで作るだろう。

同時になぜ再現できなかったのかがよくわかった。

あれだけ馬鹿でっかい魔力が必要になる技術など今のものにはとても真似できない。


「魔力か…さすがにそれは想像しなかったな…

しかし一回にあれだけの魔力が必要となると一回作るごとに皆たおれるぞ…」

“でっかい?

あぁ、あれは大きければ評価が上がりやすいので器具が耐えられる限界までつぎ込んでいますけど普通に作るならあそこまで必要ないですよ。

ただ作っている間、継続的に送り続けるのが必須です。

別に『細く』でもかまいません。

とにかく『長く』送り続けるのがコツです。”


それはいいことを聞いた。

それは職員達に試させてみよう。


“というより【錬金術】というのは【始めに魔力ありき】が原則だと私は習ったのですがこっちでは違うのですか?

【錬金術】で製作するものは全部【魔力】注ぎ込みながら作るのが原則でしょ?”


…へ?

何か今さらっとものすごいことを言われた気がする…。

ハイル草で作ったポーションをランが【鑑定】スキルで見た場合はこのように表示されます。


 【ポーション】


 種別:アイテム(薬:ダメージ回復)

 評価:★★★★★★★☆☆☆

 素材:ハイル草(×3)+蒸留水

 回復力:90 (+40)

 製作者:ラン


 【追加効果】

 高品質化:+40回復量増加


 【コメント】

 通常型ポーション




当初昇進試験前に1本だけ話し挟むだけのはずがなぜか今回もまだ終わらず3本目に突入決定。

なぜこんなに長くなった?


当初はポーションもこちらの世界の技術力不足(時代とともに技術の伝達がうまく継承されずに劣化をおこしている)を強調する為に低評価ポーションを一般化させるつもりでしたがそんなことしたら直るものも直らない一般市民が可愛そうになり急遽ゲームでは登場しなかった初心者ポーションが登場することになりました。

ちなみにこの世界の錬金術士の【錬金術】スキルは平均20前後。

全員【初心者錬金術士】の称号から抜け出せていないレベルです。

もっともこの世界の人々はステータスを見ることが出来ないので自分のスキルレベルは正確にはわかっていません。

ちなみにランの【錬金術】のスキルは98(上限不明)でまもなく【上級錬金術士】の称号レベルをカンストする手前であります。

おかげで低レベルのアイテムならどんなに手を抜いてもよほどワザと変なものを作らない限り評価は7以上になります。


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