第029話 ポーションI
「お疲れ様、ランちゃん今ちょっと時間あるかな?」
いつものようにカーリ神の勤務時間内に依頼を終わらせお耳をモフモフさせてもらっているとそういわれた。
“なんですか?デートのお誘い?”
そう言ってクネクネしながら喜んでいるランに苦笑しつつも伝言を伝える。
「そうじゃなくてギルドマスターがランちゃんを呼んでるのよ。」
“え~…おっさんのお誘いは嬉しくない…”
それを聞いて肩を落としてガックリするラン。
ランからしてみるとギルドマスターは組織で一番偉くてもペーペーのランとは接触の機会がまるで無いことからランの中では重要度はギルド職員中最下位である。
まぁ、下っ端の新入社員と大企業の社長といった関係と考えるとそんなものだろう。
「そう言わないでランちゃんにもいい話だからね?」
“は~い”
そう言われたら合わない訳にもいかない。
というよりペーペーの下っ端にそもそも拒否権などあるはずも無いのでカーリ神のあとに付いていって二階の一番奥の部屋に案内された。
「ギルドマスター、ランちゃん来ましたよ~!」
「おう!入ってくれ!!」
「どうぞ中へ。」
そうして案内されたのは質素なテーブルとソファーが2つ、そしてこれまた事務的な机と椅子。
ほらあれだ会社とかで置かれている金属製の机。
とてもギルドトップの部屋とは思えん。
“もしかしてギルキスって冷遇されている?”
思わず呟いてしまったが普通はこれ見たらそう思うぞ。
これならそこらの小市民の個人の書斎のほうが立派だ。
最初に思い浮かべたのが少し立派な『尋問室』と思ったくらいなのだから。
「よく来てくれたラン君。」
ランの言葉に苦笑いしながら答えるギルドマスターのロイド。
「まぁ、そこに座ってくれ。」
そう言って向かい側のソファーを指差すのでとりあえず座ることに。
“それで話と言うのは?
あ、アンヌさんの様子ですか?
確かギルマスは執着はあったようですね。
確かアンヌさんに振られ続けて48回だとか…。”
ブーーー!!
喋る前に口を潤わそうとしていたのか丁度そのとき口に含んでいた水が見事なアーチを描いて入り口のほうに。
思わず飛びのいたランとカーリに拍手を!
“きったなーーーい!”
「ギルドマスター!?(怒)」
怖い顔をしてロイドを睨む二人。
確かにかけられかけた事は怒ってもいい事なんだろうが…。
そもそもロイドが怒られるべきものなのだろうか?
原因はランの余計な一言であり…。
「ケホケホケホ…いや、すまなかった。
しかしその話いったい誰から聞いたのかね?」
“アンヌさん自身。
いつもカールドさんの前で頬を染めて身をくねらせてカールドさんの嫉妬心扇ぎまくっていた。”
「「………」」
“あとで聞いたらああやって偶には発散させるのが夫婦円満の秘訣だとか。
もっも偶になんて言ってたけど少なくとも2~3日に1回は似たような事言って煽ってたけど。”
「ちなみに私以外にネタにされていた人物判るかね?」
“一番多かったのがギルマスのロイドさんで次がクラウンさんって人、確かリーダーだった人だと思うけど。
その他はホフマンさんやギルモアさんって言う名前がたまに出てきたな…
そうそうプレゼント攻めではラージニアさんって騎士団の人とファルスマンって商人の人がものすごかったって聞いてるよ。”
「リーダーはともかく…ラージとファスの野郎まで言い寄っていたとは…(怒)」
“他人の恋人に手を出すという面では全員同じだと思うけど?”
なにを考えてか怒りに震えているロイドを見てランが水をさす。
“私がこっちに来る前にいた国ではね『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ!』て言葉があるよ。”
さらに追い討ちをかけるラン。
ちなみにこの言葉、『ことわざ』てでは無く『都都逸』らしい。
『都都逸』というのは元々江戸時代末期に七・七・七・五の音数律にしたがって作られた都々逸坊扇歌にまとめられた落語の定型詩だったらしい。
江戸末期に初代の都々逸坊扇歌(1804年-1852年)によって大成された口語による定型詩。
七・七・七・五の音数律に従う。
主として男と女の恋愛を取り扱ったものであり『情歌』とも呼ばれている。
ランのなにげないボソッとした追い討ちに苦笑を浮かべながら話を元に戻すことなした。
「あー…なんだ…コホン…ラン君を呼び出したのは『昇進試験の日程と内容』の通達に関してだ。」
“『昇進試験』?
私はまだ20ポイント近く残っていて条件を満たしていないはずですが?”
「あー、そうなんだがな…君の実技試験の相手になる人間がなかなか捕まらなくてな…皆何かしら用事を抱え込んでおるんだよ。
さらに正直言えば君はギルドを通して無い依頼も何件か受けていることになっている。」
“最初に説明で煩く言われたのでそんなの受けてませんが?”
Fラナクでギルドを通さない依頼は絶対受けるなときつく言われていた。
よって依頼は受けていない。
それで不思議に思っていると…
「宿で『砂糖』の新しい製造方法教えたり港で大波で大怪我した船員4人を自分で作ったものだからとか言ってかなり高品質のポーションをあげて治療したりしただろう?」
“いや、『砂糖』は元々自分が欲しかったから作ったのを横で見ていた女将さんが覚えただけだしポーションは街出てすぐ側に生えているような薬草集めて自分で作っただけよ?
そんな高価なものまったく使って無いし水すら魔法で作ってもらった(本当は自分でした)物使ったものなのにそんな高価なはず無いですよ。
はっきり言えば入れ物除けば原価無料ですよ?”
正直言えば作ったポーションの評価は『9』。
素(評価3)のポーションの回復量が50。
評価が1あがるたびに回復量が10増えるため『9』もあると110も回復する。
しかも普通の一般人の平均HPは40前後。
体を鍛えた猟師や漁師で80前後。
一人前といわれるCクラス冒険者で180前後。
ちなみにランのHPは驚きの2000オーバー…
いや、ゲームでは攻略組はこれくらいで当たり前だったのだ。
こっちの人間がランにしてみたら貧弱すぎるのだ。
ちなみにこれのひとつ上位版の『ハイポーション』が素(評価3)で回復量100の為『9』もあると完全に回復量が上回っているという状態になっていた。
まぁ、そんな訳でランの作ったポーションを漁師に使うといくら漁で鍛えられているといっても限度があり瀕死から一気に血が有り余った鼻血状態まで回復してしまっていた。
さすがに『ポーション』程度ではいくらランの製作したものでも損欠部位の再生までは不可能なためそれらがなくてほっとしていたりする。
当然それを見たあまり専門的な知識の無い(しかも自作のためラベルすらない)者にしてみたら回復の仕方を見ると『ものすごく高価な薬を無料で使ってくれた』認識になる。
ちなみに『損欠部位の再生』はゲームでも情報だけは出ていたが現時点で製作不能であった。
『ハイポーション』の3つ上の上位版『マキシポーション』…
材料のひとつに『龍の血』を必要としたのだが現時点のあのゲームでドラゴン退治に成功したものは一人もいない。
ちなみにアイテムは出なくてもいいから一度は倒してみたいということで『救難』システムを使用して一斉に1500人前後で襲い掛かったことがあったが10秒もしないうちに連続ブレスで全滅したという笑える伝説がある。
ちなみにその時ランも参加していて初めてデスペナ食らった思い出のある一戦である。
恐縮した漁師が冒険種ギルドにランの事を尋ねたことがギルドがこの件を知ることになった。
当然こんな話を聞くとギルドとしては驚く。
話に聞く限りランが提供したポーションは『ハイポーション』と予想された。
(いくらランが規格外認定を内々で認識されていてもまさか錬金術まで規格外と思っていない。
よって『最高品質ポーション』とは思わず普通に『ハイポーション』を使ったと思われた。)
『ハイポーション』の市場平均価格は半金貨1枚。
素材ウンヌンでは無く単純に作れる『技量』のあるものが恐ろしく少なく市場に出回らないだけなのだが市場の要求量に対して流通量が少ないと自然に価格が高くなるのは世の真理である。
実は素材だけなら近隣で採取可能なためランならいくらても量産が可能である。
さらにランはまだこの世界の錬金術師や薬剤師等に接触していなかった(ギルドランクが低い為に信用が得られないと判断していたため)知らなかったがランの知っている『ポーション』と『ハイポーション』のレシピが微妙にゲームとのレシピと違っていた。
むしろこちらの世界のほうが微妙な劣化版なのだが。
ランがゲームで作っていたポーションのレシピは【薬草】×3・【蒸留水】×1であった。
薬草に名前は無かったがこちらに来たさい同じ草を確認し【鑑定】スキルで確認したところ【ハイル草】という名前であることが確認された。
こちらの世界では傷の上に貼り付けて使う【傷薬】の一種として使われているとカールドさんに教わった。
当然試しにエルシア村にいる時点で『ポーション』製作を試している。
そして普通に評価『9』が量産できるのでこれで間違いないと安心していた。
が、そこに罠があった…
「そうするとラン君は自分で『ポーション』作っていると?
参考までにレシピ教えてもらってもいいかな?」
「ギルドマスター!?」
カーリさんがロイドの言葉に驚きそして止めようとした。
薬などに関するレシピは錬金術師や薬剤師の秘伝のひとつだ。
むやみやたらと人に教えていいものではない。
もっとも採取依頼等でレシピを知っている冒険者もかなりいるにはいるのだが。
(『知っている』と『作れる』ではまったく違う。)
当然ランが手の内を明かすなんて思わないカーリであったが。
“【ハイル草】の根から上の部分3つと【蒸留水】ですよ。”
カーリの予想とは違い実に簡単に教えるランであった。
だがその中身がカーリの知っているものとは違いそこにロイドも引っかかったようだった。
「【ハイル草】?」
“ええ【ハイル草】です。”
「……」
“……”
おかしい?
なんか間違えたか俺?
重苦しい空気の中お互い無言で見つめあう。
そしてロイドの口から出た言葉は思っても見ない言葉だった。
「そんな傷薬でどうやって?」
“は?”
今回ポーションと題名を入れてますが昇進試験の始まりです。
編らいなら一番大切なはずの昇進試験より他のことが問題になるのはランクオリティ…




