第025話 【閑話】 たまには帰ってます
たまには日本側に帰りたい時もある。
宿屋で人が入らないようにして窓の雨戸も閉め明かりを消して寝る体勢にしいかにも「私は寝てます」の状態にしたら【ログアウト】。
【アクリス界】にある【ラン】の肉体は装備ごと光に転換され消滅し【地球】でカプセルの内部に横たわっていた【工藤真市】の肉体が動けるようになる。
いくら栄養液が流され筋肉が衰えないように処置されていても何日も食事をしていなかったら当然『腹が減る』。
何日も胃に固形物を入れて無いからろくなものは食えないがどんな状態であれ【真市】としては雑炊なら食べられる。
そんなわけで【新藤】の秘書の方に雑炊のうまい店の予約を取ってもらいその場で【新藤】を拉致して雑炊を食べに行く。
この時、食欲の権化になっている【工藤】に運転させるのは不味いという理由で【新藤】が運転する。
いくら【工藤】が雑炊なら食べられるといっても何日も空っぽだった胃はなかなか受け付けないのでかなりゆっくりとした食事になる。
本日は大阪難波にあるふぐ料理の名店のひとつでふぐ雑炊だ。
【新藤】はふぐ鍋が良かったが【工藤】が食べられないので鍋部分すっ飛ばしていきなり雑炊である。
そしてこのゆっくり食べる時間が個人的な報告会もかねている。
“ではなにか?
先発要員は【ミスリル】や【アダマン】とかは手に入れてない?”
「あぁ、あるのは判明しているのだが加工できるものが向こうの世界にはほとんどいないため未精製の鉱石はほとんど採掘されず昔精製された者はほとんど各国の王室が保管しており出てこないそうだ。」
“そういや、王都の武器や防具やもいくつか回ったが【ミスリル】とかは見かけなかったな…”
「正直言えば諸外国に押されまくっている製鉄業界がこれらの鉱物に興味を持っていたんだが手に入らないと判ると最近こちらと距離を取り気味でな…」
新藤が軽くため息をつきながら内情をもらす。
“まぁ、そのなんだ…俺が弄っていいなら多分手に入るぞ。”
「どういうことだ?」
“冒険者ギルドに登録したときとりあえず見れる資料を見せてもらったんだ。
ギルドの2階に資料室があるんだがそこに植物や鉱石の王都周辺の分布図があってな…
確か【ミスリル】と【アダマンタイト】も書いてあった。
ただ【アダマンタイト】は場所が色々政治的にやばいところらしくて立ち入り禁止指定になってたけどな。
まぁ、俺なら鉱石さえ手に入ればお前が用意してくれた鍛冶道具でインゴットくらい作れるだろう。”
「そうか!お前なら鉱石さえあれば何とかできる可能性があったな。
すまん、とりあえず【ミスリル】だけでもなんとかしてくれないか?」
“【ミスリル】じゃないといけないのか?”
「どういう事だ?」
“いや、俺まだFランクだから街の外に依頼を受けて出ることは禁止なんだわ。
【ミスリル】の鉱石堀に行くにしてももう少し時間が欲しい。
その代わりといっちゃ何だがどうも向こうの世界特有の物をひとつ王都で見つけている。”
「なんだ?」
“【魔鉄】と呼ばれているものだ。
鉄より丈夫だが重さは鉄より重いと言う金属なんだが【鑑定】スキルのアナライザー機能を使っても知識の少ない俺では判断に困る金属でな…
とりあえず鉄とは違うことはたしかだ。
最初は合金の類かと思ったんだが武器屋の親父に聞くと【魔石鉱】という別物の鉱石から精製するらしい。
それなら武器屋に行けばその金属を使った武器が手に入れられるよ。”
「それは…頼めるか?
時間稼ぎにはなりそうだな。」
“宝石類もそれなりに色々あるんだがそれに関しては正直俺が知らないだけなのかそれとも地球にあるが名前が違うだけなのかすら判断が付かん。
正直言えば【鑑定】スキルに地球での名前も表示してくれたら鉱石類なんかは判別付くんだろうけどな…
無知ですまん…”
「いや、それに関してはこちらのミスだな。
さすがに専門家でもなければ判断付かないことも多いだろう。
それに関してはこちらの技術者達に付けられないか相談してみるよ。」
“すまんな。”
どうやら鉱石関係の話は一応済んだようだ。
【工藤】は少しさめた雑炊をほうばるのに集中する。
それを見ながら茶を飲む【新藤】。
素直に言えば酒が飲みたいところだが帰りも運転があるのでここは我慢である。
“そういや、この前まで送り続けていた【植物】類のサンプルのほうはどうなった?”
ふと思い出したように【工藤】が【新藤】に聞いた。
「おぅ!そっちのほうは製薬会社や農業関係が大喜びしている。
特にお前が送ってくれた【大麦】種の6種類は先行組の送ってきたものと違いこちらでは未知の遺伝子情報が大量にあるらしいぞ。
しかもビールにかなり向いてる種があるってことで早速、国の衛生試験所で培養してみるそうだ。
できればもう少し欲しいとか言ってたが。」
“ビールに合うって…あぁ、向こうではエールの製造に使われている【ピーカン麦】か。
確かまだ種麦が買える筈だからもう少し購入してこちらに送るよ。
とりあえず10kgほど…「100kg!」…そんなに大量に何するんだ?”
「吹田のユウヒもやりたがっててな…」
“ビールメーカーまで参戦かよ…
しかも地ビールでなくてユウヒ…
大手メーカーかよ…
なら逆に100kgなんて足りないんじゃ?”
「できれば多いほうがいいが…目立たないか?」
“目立つな間違いなく…
村でエール工房の製作要求があるからそれに紛れ込ませてみるか…
すぐには無理だろうが出来るだけやってみよう…
とりあえず100kgは向こうに帰ったら購入して送るよ。”
「すまん、助かる。」
“それでポーションのほうは再現できたのか?”
「無理だな、せいぜい民間療法程度の効果しかない。
普通の傷薬のほうがよほどましだ。」
“そうか…さすがそうは都合よく行かないか…”
損失部位の再生は無理でも傷がすぐ治るのなら医学界にも大革命が起こせるがさすがにそうは旨くいかったらしい。
確かに向こうの世界のものを持ち込んだ(持ち込めたこと自身が凄い事なのだが)ぐらいではそうは問屋が卸さなかったらしい。
「それでも研究の余地はあるということで各薬メーカーが解析を進めている。
他にもあれば送って欲しいということだ。」
“判った、そっちも新しいことがわかり次第報告するよ。
あと薬草の方も調べてみるよ。”
食事も終わりくつろぐ二人。
なんだかんだ言いながら中学のときからの付き合いである。
ある程度なら相手の考えてることはお互いにわかる。
「あわてんな…【ひかり】ちゃん達が気になるのは判るがお前が向こうに行くようになってからまだ半年だ、そう簡単に結果は出ないよ。」
“判ってはいるんだがな…”
【One in the WORLD Onlin】のゲームの中で知り合った子供達。
あのゲーム自体が18歳以下はなかなか入れない仕様であり入る子供はコミニケーション不足の子供やなんらかの原因で長期入院を余儀なくされている者達ばかりだ。
治療の一種としてあのゲームは提供されている面もある。
そして【工藤】はあのゲームの中で5人の子供達と知り合ってしまった。
【工藤】の性格からして感情移入をするなと言うほうが無理である。
今回の仕事も政府に言われて仕方無しの部分もあったが【工藤】個人としてはあの子供たちの治療に役に立つものを見つけたいという思いもあった。
これは【新藤】にしか打ち明けていない。
「あの子たちが入院している病院系列も今回のプロジェクトには積極的に参加している。」
“判っているさ、俺にはそんな頭は無い。
薬だの治療だのは頭のいい人たちに任せるさ。
変わりに俺は地べた這いずり回ってその頭のいい人たちが利用できそうなものを探すよ。
それが俺の仕事しな…”
「…」
しばらく二人は黙る。
そしてしばらくした後に【工藤】が一番気にしていたことを聞いてきた。
“日本の財源大丈夫なのか?”
今この時代、ある意味日本はかなり危機的状態にあると【工藤】は認識していた。
近年度重なる災害による被害。
一番大きいのは原発の問題がある。
また国内情勢も荒れ気味だ。
そして国外情勢もあまりよくない。
大陸の大国がここ数年特に海洋進出をしてきて周辺諸国は日本も含み領土問題で荒れている。
しかも日本はその国とだけでなく半島の国とも領土問題ならびに半世紀以上前に国際条約で解決していた問題を蒸し返されてかなりもめ始めていた。
同盟国のはずの東の大国は全然あてにならないことも最近判ってきている。
景気は回復しつつあるといってもまだまだきつい筈である。
そんななか復興資金ですらきついのにこんなプロジェクトに大金かけている余裕があるのか疑問に思える。
ある意味世界の経済を壊す気でいるなら簡単な手段が存在するがその手は使いたくないらしい。
ぶっちゃけた話向こうの世界で【ラン】が【純金】を大量に錬金魔法で精製しこちらに送り込んだら済むだけの話である。
約500tも送り込んだら世界の経済は簡単に崩壊するだろう。
日本政府が保有しているといわれてる金が740tほどである。
500tも送り込んだら簡単に経済は崩壊する。
仕掛ける側からしたらこの隙にいろいろ出来るだろう。
だが日本政府はその手段を選ばなかった。
時間がかかるが正攻法で行くと決めていた。
だが【工藤】にしてみたら日本が潰れては意味が無いのだ。
場合によれば…なんて物騒なことも視野に入れている。
「その辺りは政府も考えているさ。
それより向こうで有効なものを見つけて政府で特許を取得したほうがいい。
ただ向こうの【神】の協力得るためにも少しは技術の向上させて欲しいがな…
それが元々向こうの依頼なんだから。」
“あぁ、判っている…だがな…あれは大変だぞ…先発隊が逃げたのわかるよ…”
「なにがだ?」
“こっちとの技術格差が大きすぎて今の技術者では根本的な道具等で躓く。
そこまではいい、それだから【初期の技術者】として俺なんかが送り込まれたのだから。
ただな…ゲームの想定技術レベルよりもすべての分野で退化してるぞ…あの世界…”
「へ?」
“先行チームは【OWO】をしてないからどうなのか判断付かなかったようだが【OWO】をしているものにしてみたら【ゲームで想定された時代の技術力】より数段下なのがよくわかるよ。
退化したのか教えた【神】が意図的にそう教えたのかまで判らないがな…
おかげでゲーム基準で動いただけで【魔法】も【技術】もオーバテクロジーと同じになってしまっているよ。
とりあえず、頭痛い問題だわ…”
「……(驚)」
“とりあえず基盤となる村し確保できた。
ここを拠点に色々やってみるつもりだ。
目指す技術レベルは明治維新の頃の日本のレベルだな。
そこまで強制的にあげたらあとは産業革命一直線になるだろう。”
「そう都合よく行くか?」
“無理だろうな(笑)
まぁ、それでも一部の分野は嫌でもそのレベルまで引き上げるさ。
主に俺のストレス解消のためにも…”
「黒い!黒すぎるぞ!!
何企んでるのか知らんがそのドス黒い瘴気撒き散らすのやめい!!」
“すまん(笑)”
「何するか知らんがやりすぎるなよ、お前が本気出したとき大抵ろくなことせんからな…」
“そういう人間を選んで送り込んだのはお前らだ。
諦めろ。
そもそも【ラン】の姿になっているだけでこちとらストレス貯まりまくりなんだ。”
「そんなものか?」
“VRならまだいいんだよ…
現実になるとな…俺月の物の苦しさなんか男で理解したくなんか無かったよ…
あれは子供生む為に必要だといわれても地獄だ…”
「重いのか?」
“たぶん…きたらいつも起きるのが嫌になるくらいきつい…”
「あー……それは正直すまん…」
“なんとかそっちで軽く出来ないか?”
「そのあたりは俺にはよくわからんからなんとも言えん…とりあえずスタッフに言っておく。」
“頼む、あれが来るとなにもやる気が起こらなくて結構きつい…”
「善処する…」
“マジで頼む…あれ原因で盗賊団狩りしてるようなものだし…
そのうち騎士団相手に狩りするかもしれん…”
「……」
“……”
なんとも閉まらない最後になたが食事の後、二人は24時間経営のスポーツジムに行き(主に【工藤】のストレス発散と長期カプセル内にいるための運動不足の解消のため)運動をした後会社に戻りその近所で酒盛りをし日が昇る前に【工藤】は再び【アクリス界】に戻っていった。
社長室に元【新藤】だった酔いつぶれた男を残して…
こうして極偶に来る【ラン】の地球におけるストレス発散の一夜が明けた。
悪友の尊い犠牲と新たな問題を提示され逃げられなくされた者達を新たに生んで…
日本政府はこののち世界を巻き込み医療革新に乗り出すこととなる。
主に世界経済破壊をとある男にちらつかされたゆえに…
帰れるのにまったく帰らないのもおかしいのでこんな話を入れてみました。
また異世界に行く理由もVR編に絡めて追加してみました。
こうしてみると【ラン】の中身の【工藤真市】は結構お人よしですね。
まぁ、目的の為に手段を選ばないところもあるようですが(笑)




