第023話 接触
本日はカーリ神がお休みと言うことでランも休暇にした。
もっとも休暇といってもやることはあるのだ。
王都で雑貨屋をしているという陸上自衛隊員とも連絡を取っておきたい。
また元宿屋の夫婦とも会って話をしておきたい。
こっちはカールドが既に会って話しているはずだがやっぱり怪我が原因で断られたそうなので誰かお勧めの人がいないか聞いておきたいのだ。
あとは武器防具屋やアイテムショップ系列は見ておきたい。
正直この世界での【標準】というのがいまひとつ判らないので把握しておきたいのだ。
最後に鍛冶の道具や錬金道具の売っている場所やできれば作業現場も見ておきたい。
【F】ランククエストにそんなのあるかなと思ったが甘かった。
そういった物は技術の秘匿らしく師弟以外は極力伝えないのだそうだ。
残念。
まぁ、見学くらいなら腕が見たいとか言って見れるかもしれないがそれすらもギルドランクが低いと信用度が無いので門前払いだとか。
なかなか難しい問題である。
とりあえずは陸自の隊員と直接会うことにした。
訪問予定は地球のソリッド社経由でメール連絡をお願いして本日会うことはOKが出ている。
その店は少し端っこにあるとはいえメイン通りに存在していた。
雑貨屋『タマムシ』。
なぜゆえに『タマムシ』?
謎の多い名前である。
ギーと音を立てて店の扉を開ける。
中は思ったより明るくきれいなお店だった。
「いらっしゃい!」
30台ぐらいの男性がカウンターから声をかけてくる。
ソリッド社で見せてもらった顔写真そっくりである。
“はじめまして、橋本実1等陸曹ですね?
自分は後続組としてこちらに派遣されてきた工藤真市3等海佐、認識番号MO××-××××××Cです”
入り口で海自式の敬礼をして申告。
向こうも陸自式の敬礼をあわてて返してきた。
もっとも口の中で「え?子供?」という呟きをしているのが聞こえていたが。
“こんな姿ですが一応40過ぎのおっさんですよ。
私はこちらに派遣することが前提のゲーム内選抜者のためゲーム内のアバターの姿をこちらに送り込んでいます。
もっともこのアバター姿も自分で選んだのではなくゲーム会社の社長の強制でこの姿にさせられたのですがね。”
「え?」
“ソリッド社の社長の新藤とはガキのころからの腐れ縁でいたずらされてこの姿です(笑)”
そう言うと橋本さんもようやく納得してくれた。
橋本さんはこちらの世界ではラーゼルと名乗っているそうなので以後ぼろが出ないようにその名前で呼ぶことにする。
他の2名の陸自隊員は冒険者として歩き回っているために今どこにいるかわからないという。
フレンド登録はしているのだがなかなか返事を返してこないそうだ。
たまに地球にログアウトして戻ってくるからどこかに捕まっているとか言うことはないらしいのだが…
フリーダムだな、おぃ…
とりあえずランは王都から南に直線距離で100kmほど離れたエルシア村に拠点を置くことを伝えた。
それと同時に鉱石や薬品の素材等の入手方法を聞いてみる。
「その村で職人でもするつもりですか?」
“あぁ、そのつもりだ。
一応冒険者の資格は数日前にとって正式なものにする為に今バイト中だよ。”
そう言うと「あぁ、Fの」と言って笑った。
どうやら彼も冒険者ギルドのシステムは知っているようだった。
“ゲームといろんな面で違うらしくてな…最初にこのナイフを作ったとき驚かれたんだよ。”
そう言って最初に作ったナイフを見せる。
ラーゼルもこの仕事をする為にそのアバターに【鑑定】スキルをつけているという。
「確かに…これでは高性能すぎますね。
どこの名人が作ったんだと言わんばかりの代物ですよ。」
少し呆れ顔でランにナイフを返す。
“そうは言うがな…ゲームではこれはクズとまでいかんが低攻撃力で見向きもしない代物だぞ。
実際ゲームで作るときよりも簡易にした手抜き型だしな…”
「はぁ、なるほど…」
ゲームの経験者でないラーゼルにはよくわからない。
“もっと簡単に言うとな…こっちの世界は遅れすぎだ。
金属をみても混ざり物が多すぎて純度がかなり低い。
昔の日本刀作るやり方で作ったら普通にこの世界の純度をこえてしまうんだよ。
よっぽどこっちの職人が物知らずなのか技術レベルがかなり低いかでないとこんなこと考えられないんだよ。”
「あぁ、なるほど。」
ランの説明でようやく納得するラーゼル。
「しかし普通にしてこの格差ではどうするんですか?」
“いや、もうな、冶金術に関しては普通に日本で言う明治維新レベルまでは手加減無しに教えるためにも作ってしまおうかと思ってる。
こっちとしては手加減するほうが難しいんだよ。
どうせこちらの神からの依頼は【技術革新】なんだから素直にこの分野はあげてしまおうと思っている。
こんな長い歴史なんだ、【産業革命】クラスぐらい一分野で起こしてしまうほうがこっちも楽だ。”
言い切った。
というより手加減するほうが難しいと判断したのか完全に投げやりである。
“まずはギルドレベルあげてなんとか鍛冶職人等の仕事見せてもらわんとな…
どのくらいの知識と技術なのかも一応のあたりぐらいは付けておきたい。
あとこっちの生産用の道具類と素材の入手方法も探さないといけないから頭が痛い。”
そう言って苦笑するラン。
「鍛冶や彫金関係の道具なら手に入りますよ。
うちもナイフぐらいは仕入れているのでその伝はありますし。
錬金関係は錬金術師もうちと取引あるところなら紹介できますよ。
道具はむしろ商業ギルド通すほうが手に入りやすいでしょうね。」
“紹介お願いできますか?”
「えぇ、今度一緒に行きましょう。」
“うっしゃーー!!”
思わず歓声を上げるラン。
これでメインの問題ごとが1歩前進である。
“ところでさ…さっきからすごい気になるものがあるんだが…”
このお店、正直言えば建物はともかく店内はとてもおっさんのコーディネートとは思えない。
そう、日本の都会のど真ん中にある女性向けのアクセサリーショップという感じで華やかなのだ。
まぁ、そのあたりは店の経営努力としてみて見ぬ振りをするにしても…
置いてあるものが指輪やネックレス、しかも低レベルとはいえなにかしらのエンチャント効果つき。
銀2枚だの高いのになれば金5枚だのとアクセサリーの所に価格が書かれている。
他にもポーションだの野外活動時の道具などがなぜかおしゃれアイテムのような展示をされている。
冒険者向けのアイテムがほとんどの上かなり商品としてはいいものがそろっているように思えるのに入るのはさっきから女性客ばかり。
そりゃね、正直この内装では男性は滅茶苦茶入りにくいと思う。
なにげに(この世界としたら)高性能な品が置いてあるだけに男が入りにくいのはなんだかと思ってしまう。
まぁ、そんなことはある商品にすれば些細なものである。
今ランがじっと半眼で見ているのは…【薄っぺらい本】である。
しかも表紙の絵と題名的に…BL系の同人誌…
“確か【紙】ってあまり生産量少ない為にめちゃくちゃ高かったよな?”
この世界の【紙】はまだ【麻】から作っているらしく地球の年代的には2世紀ごろの中国での製法を一歩か二歩進めたぐらいの出来である。
生産はイスガニア帝国のさらに東にあるラウンル海に面する独立自由都市国家ヴェネリア共和国で生産されているという。
どうも大量生産ができないらしい上に輸入品ともありA4サイズの紙で銀3枚と半銀貨2枚というべらぼうな価格である。
ここで簡単に貨幣の日本円との価格を出しておく。
あくまでランが物の価格から割り出した対比価値である。
基準は【パンの価格】である
鉄貨→1円
半銅貨→十円
銅貨→百円
半銀貨→千円
銀貨→1万円
半金貨→十万円
金貨→百万円
あくまで大体であるが貨幣としての価値はこれで間違いないようである。
各国ともこの大陸西方では成分比重や大きさは統一されているため別の国のコインでも同じ価値として流通している。
また金貨より上の貨幣として白金貨やアイオン貨なるよくわからない金属で作られている貨幣も存在するが金額が大きすぎて一般には流通しておらず主に商人の大口取引や国家間の取引に使われるだけで普通のお店に持ち込んでも使えないそうだ。
ちなみに白金貨1枚=金貨100枚、アイオイ貨1枚=白金貨100枚だそうだ。
白金貨ならこの先見ることはあるかもしれないがアイオイ貨なんぞ絶対見ることはなさそうである。
そりゃ、一般では必要ないわな…。
さて話は戻るがランが見てる怪しい本の価格が銀3枚と半銀貨2枚である。
日本円に換算して3万2千円。
同人誌みたいなペラペラの本が3万2千円。
しかも表紙から想像する限り【BL】、それも【やおい】系…。
しかもさっきから見てる限りそれなりに売れているのだ…
“高価な【紙】使ってしかもあれ木版使った多色重ね刷りだよな…”
「……」
“なんとなく予想付くが…だれ、あれやらかしたの?”
「藤波曹長です…」
“…結婚した後もまだ病気直ってなかったのか、あの馬鹿ポンは…”
案のじょう俺のよく知っている女性の名前が出てきた。
行方不明のうち1名にこいつの名前があったときから心配することはないと思っていたが…予想以上にこの世界に適応化しているようだ。
“で、この馬鹿の居場所は判るのか?”
「いえ、判りません。
【芸術が私を呼んでいる!】とか言って冒険者やりながら世界放浪していますからね。
商品はいつも商人に委託する形であっちみっちから送ってくるんですよ。
売り上げの振込みは冒険者ギルドの彼女の口座に振り込んでるので。」
思わず頭が痛くなってきた。
“普段真面目な事言う割りにこの病気だけは治らなかったんだな…
文化・技術ハザードに気付けてやり過ぎないようにと注意されていたが…
こいつのやる事見ていると既に手遅れな気がする…
なんか悩んでいた俺が馬鹿みたいだ…”
木版印刷まではわかる…
しかし【浮世絵】の作り方そのままに多色刷りなんかするなよ…
しかも目的が【やおい本】とは…
さぞかし、この世界に俺達を招いた神とやらは後悔しまくりなんじゃないか?
“もういい、いろんな意味で頭が痛いから今日は帰る。
道具の購入や見学の許可が下りたらフレンドチャットかメールで知らせてくれ。
暫くはランクあげのためのバイトでこの王都にいるから。”
「お疲れ様でした。」
ものすご~く、同情した声が背中から聞こえてきた。
いや、本当に…頭が痛いわ…
最初のほうに存在が明らかになっていた陸自の雑貨屋とようやく接触できました。
なんか色々と横にそれるネタが出てきてやりますが…
回収の予定は立っておりませんのであしからず!(笑)




