第020話 対空戦
“海だーー!”
馬車の幌の上でランが叫ぶ。
左手前方に湾だろうか?
船の停泊している大きな港湾が見えてきた。
少し前から潮風の香りが漂っていたので気が付いてはいた。
ただやっぱり自分の目で見るとなぜだか嬉しくなる。
【工藤真市】として始めて付いた職業が海上自衛隊での船乗りだった。
マークは2分隊船務科の電側。
ようはレーダー員だ。
それでも下っ端はいろいろと体の使った作業がある。
特に入港前は塩だらけの船体を見せないために船体の掃除がある。
また金物もピカピカに磨いて入港するのだ。
そんな作業のとき船だから当然だがいつも潮の香りをかぎながらの作業だ。
それが子供みたいであろうともなんだか嬉しくて仕事が苦にならなかったものだ。
船から下りてもう随分たつ。
それでも未だに潮の香りをかぐとワクワクしてくる。
それが例え極寒の海でさえ、なにかしら楽しみを見つけるものだ。
「ランちゃんは海が好きなのか?」
“えぇ、大好きですよ♪”
しばらくさらに進むと左側に大きな街が見えてきて湾を挟んで対岸にも大きな港街が見えてきた。
「手前の街が軍港都市エルミンガだ。
残念ながら軍専用の街で許可の無い一般人は立ち入りが禁止されている。
そして向こう側の対岸に見えるのが王都リホンだ。
俺達は海岸伝いの街道を使って湾を回り込み王都に入る。
あと2時間くらいで到着だ。」
レギオスがそう教えてくれた。
湾の中には大小さまざまな帆船が浮いている。
自衛官時代、東京湾で世界の帆船大集合の時みたいだった。
目をじっと凝らして見てみるとやはり軍港のエルミンガの方に大型船が多い。
王都の港にも数隻停泊しているようだがエルミンガの方が圧倒的に多い。
そしてその間を民間の船らしきものがはしっている。
“ほとんどがマスト2本の横帆型だね…【キャラック】と同じと見て間違い無いんだろうか…
軍艦であれでは小回り効きにくいだろうに…縦帆型の【スクーナー】タイプは無いのね…
小型の【キャラベル】タイプも少ないし…あれじゃ波の静かなところではガレー船の方が有利なんじゃないの?”
ランのなにげないつぶやきにギョッとするレギオン。
確かに荷物を運ぶ船としては向いていても戦闘にあまり向いていないのでは?という声が海軍内でも囁かれていたのを知っていたからだ。
【キャラック】だの【スクーナー】とかいうのがどういう物かは知らない。
ただ『今のままだとガレー船に負けそうだ』というのを一目見て見破ったランに戦慄を覚えていた。
それでは彼女ならどうすればいいか答えを知っているのではないかと思い聞いてみる。
「ならランちゃんならガレー船に対抗する為にどんな船をそろえる?」
これはレギオスに取っての興味だ。
兄が海軍にいるレギオスにとって答えがあるのなら知っておきたいと思うだけだ。
“そうね…理想で言えば【ガレオン】がほしいわね…”
「【ガレオン】?」
“あぁ、こちにはまだないかだ…
【ガレオン】というのはあのでかい船あるでしょ”
そう言って湾の中に停泊しているひときわ大きな帆船を指差す。
“あれって私のいたところでは【キャラック】っていう種類に分類される船なんだけどあれを2回り大きくしたような船のこと。
【キャラック】も色々あってああいった2本マストのは大抵【近海用】で大きな海で他の大陸とかに渡るなら最低でもあれより1回り大きくてマストも3本必要なんだって。
そういった大型キャラックを戦闘用にしたものが【ガレオン】だと思ってくれていいよ。
本当はかなり違うんだけどそこまで私も詳しくないからな…”
「ほぅ…」
“大体、幅と全長は1:4くらい。
喫水を少し浅く取ることで速力が出るようにしてあるんだ。
帆柱も大体4~5本、大砲用の砲列も2列あるような奴もあって大砲自体は60門以上載せているんだ。”
「……(あっけ)」
“まぁ、そこまで大きいのは造船所の問題があるかに簡単にはいかないだろうけど最低でもあの【キャラック】クラス4隻作って各船に大砲50基ほど載せたら小回りできないのもいくらかは解消できるだろうな…もっとも大砲の撃てる距離が長ければ長いほうがいいけどね。
あとね小回り利かせたいなら縦帆主体の船を建造したほうがいい。
それに30門ほどの大砲載せた小型船4隻で船団組めばガレー船狩りも楽だろうね。”
すらっと出てくる回答。
さすがに船の構造まではわからないとしながらも指針と取れるようなのは出てきた。
うん、今度兄に提言してみよう。
“そもそも大砲が先込め式なんてナンセンスすぎる…何より再装填に時間がかかる上に大砲を一度後退させないといけないし…後装式だとこんどは機構がややこしくなるし…”
ランちゃんはどうやら大砲に思考が行っているようだ。
って後装式って何?
とうやら彼女の頭の中には私の知らない知識が詰まっているようだ。
“ブツブツブツ……まぁ、いいや今度試しに作ってみよう…良ければ村の防御兵器のひとつに組み込めるだろう…魔物相手にはいらない装備のような気もしますが…使えなさそうなら潰せばいいからまぁ、いっか…”
そう言って顔を上げたランは再び海を見つめだした。
左手に海を見ながらポクポク馬車が進む。
のどかだね~、なんて思ってたら『探知』スキルに『赤』の魔物マーク出現同時に頭の中に警告音が鳴る。
右横3km…かなり早い!
咄嗟に馬車の幌の上に立ち上がり右を見る。
上空に何か点が…
『鷹の目』スキル発動…
【ワイバーン】?
『探知』スキルレーダーに視認したことによりターゲット名が出る。
【ロンギケプス】、どうやらワイバーンの1種で小型種らしい。
まぁ、ランの感想…「ワイバーンというよりプテラノドンですね」
“ギヌスさん右上空!飛行型の魔獣です!”
ランの警告に従い迎撃の準備を始めるパーティメンバー。
「ちっ、王都近くでなんでワイバーン種なんてものが出てくるんだ!」
「距離が縮まったら弓を使って牽制しろ!
落とそうなんて考えるなよ!
追い払うだけでいい!!」
ランも一旦馬車の中に入り背嚢からコンパウンドクロスボウを取り出す。
これはこちらの世界で作った言わば地球の【コンパウンドクロスボウ】の劣化版だ。
さすがに材料的に強靭な弦が用意できずに今後の課題となっている。
種類的には185ポンドタイプで飛距離は180m前後。
ただし効果があるようにするには100m以内に入るのが望ましい。
銃のように連射は聞かないがそれでも1分間に慣れれば3~4発は撃てる。
ついでに鏃に麻痺薬を仕込んだ特別製の矢である。
再び幌の上にあがり【コンパウンドクロスボウ】を構える。
一応横にはカールドの【バスタードソード】 も持ってきている。
カールドには【イーストバスタードソード】の方をわたしておいた。
まぁ、あっちの方が威力あるし…
“ちっ…【コンパウンドクロスボウ】じゃなくて【コンパウンドボウ】を用意しとくべきだったか…
手軽さを選んだのが仇になったか…”
息を止めながら狙い続ける。
周りではショートボウなどの攻撃が始まっているが効果は無いようだ。
“(あと少し…)”
“(今!!)”
相対速度を考え【コンパウンドクロスボウ】を目測で100mきった時点で発射する。
お互い向かい合っての迎撃のため次弾を装填している暇は無い。
ここが銃と違って使いにくいところだ。
しかし銃をこちらの世界の人には簡単に見せるわけにも行かない。
カールド曰く同じような武器は存在するが全部遺跡からの発掘品の魔道具ばかりのため人には見せないほうが言いと言われていたため【コンパウンドクロスボウ】を用意していたのだが…
ランの狙い済まして発射したボルト(矢)は【ロンギケプス】の左目すぐ下に刺さった。
“ちっ…1発刺さったくらいじゃ効果ないか?”
かなり強力な麻痺薬を仕込んでいたのだが(【ムーン・ベア】 が1発で即座にしびれて動けなくなる)効果らしいのが確認できないまま【ロンギケプス】は馬車のすぐ上を通過する。
ランやギヌス達の邪魔によって馬車をひく馬を狙えなかったらしい。
500mほど先でUターンして再度攻撃態勢に入りこちらも再び矢を構えたときに…
突然【ロンギケプス】の体が傾いて飛行が安定しなくなった。
“カールドさん!”
ランの叫び声に返事もせず【イーストバスタードソード】を抜き放ち構えるカールド。
ランも傍においておいたカールドの【バスタードソード】を鞘に入れたまま構える。
ふらつきながら高度を落とした【ロンギケプス】めがけ両者が一撃を放ち、それで決着がいた。
カールドの豪腕で振り下ろされた一撃で【ロンギケプス】の首は胴から離れランの放った抜刀術の一撃で右翼を切り落とされた。
「すごい…」
傍で見ていたギヌスのパーティメンバーの一人であるリンナが2人を見てそう呟いた。
【ロンギケプス】の首を一撃で切り落としたカールドもすごいが直剣で【居合い】をやってのけ羽を根元から切り落としたランもとんでもない技量だった。
さすがは血は繋がっていないとは言え『親子』である。
(彼らはランをカールド家の【養子】として紹介されていた)
おそらくランにカールドが剣を教え込んでいたのであろう。
思いっきり誤解である。(笑)
ランの【剣技】はOWOのゲームの中で鍛えられたモノであるしそもそもランがよく使っていたのは【剣】でなく【刀】であるから【刀技】である。
まぁ、もっとも一番使っていたのは【ナイフ】や【格闘】であったのだがPvPである対人戦ではダントツで【大太刀】を好んで使っていたので間違いないであろう。
“【魔石】だけ取り出してあと全部焼いて埋める?”
なにげに自分がいつもしているからといって地面にあんなでっかい穴あけるのにどれくらいの能力が要るのかまったく考えてないランが言う。
「なんてことを!
亜種とはいえ【ロンギケプス】は【ドラゴン】の一種ですよ!
骨も皮も血すら価値があるのに焼くなんてとんでもない!」
“へぇ~…そうなんだ…”
ゲームでは登場したこと無いモンスター。
当然知識なんて持っているわけもなく…
彼女からしてみればただの『空飛ぶトカゲ』である。
内心で焼いて食うとうまいかもしれないなんて思ってはいたが…
米海兵隊時代訓練でトカゲ・ヘビ・サソリなんてものを食べたりすることのあるサバイバル訓練も受けているのでそのへんの日本人とは感覚が違ったりする。
「レギオスの旦那すまないがとりあえずはこれは旦那にわたせんよ…」
「どうしてです?この隊商の主は私ですよ。」
ギヌスの言葉にレギオスが反論する。
「いや、別に旦那に渡さないとは言って無いさ、決めるのは仕留めたカールド親子が決めることだ。
ただ、王都のそばでこんな物出てきたらギルドに報告しないわけに行かないからな。
一応はギルドに証拠として見せるまでは我慢してくれ。
場合によっては国が出てくるかもしれないからな…」
それを聞いてはっとするレギオス。
「確かに…山も無いのに【ワイバーン】が出るのはおかしいですからね。
でも交渉の優先権は私にくださいよ!」
レギオスさんの顔が私のほうに向きそうになったのでそのままランはカールドを指差した。
「カールドさん!売るときは是非私に!!」
「お、俺なのか?」
カールドが救援を求めて周りを見回すが…
全員横を向いてカールドに顔を合わさないようにしていた。
「えっと…」
「私が最優先ですよ!!」
とりあえず…怪我人も出なくてよかったよかった♪
お、おかしい…王都に到着しなかった…
まぁ、原因は判っている…
前半部分の『軍艦』の会話だ…
軍港で地球より時代遅れの帆船なんかみたら絶対一言余計な事ランだったら言うだろうなと思ってはさんだらえらく長いことに…
しかもさらに続きそうだから切ったのに…
おかげでプテラモドキの出現だけで終わってしまった…
どこかで増設しないと次の話短くなってしまう…
なんとかしないと・・・(-_-*;ウーン




