第四話:二元論を超えた天裁、そしてアポロン系への旅立ち2
「しかし、規律による力技の支配だけでは、あの火星と木星の狭間で砕け散ったオルテリウスの悲しい残留思念を、本当の意味で解きほぐすことはできん。シャンテ、未熟なお前には第三惑星・地球を託す。
お前は確かに未熟だ。
可愛いお庭を作りたいという理想ばかりの乙女に過ぎん。
……だが、お前が『アミティエ神殿』で育んできた愛や友情、他者の痛みに貰い泣きできるほどの純粋なアンテナだけが、あの不条理に断ち切られた生命の映像を、温かい愛情の帰依への記憶へと上書きしてやることができるのだ。
未熟だからこそ、お前にはこれから地球という壮大な旅を通じて、本物の愛の重さを、本物の友情の尊さを、身をもって経験し、学んでほしい。
わしは、その可能性に地球の未来を賭ける」
「ゼウス様の深い御心……しかと受け止めました」
ゼウスが自分の「規律」の正当性をも認めた上で、シャンテの可能性を信じたという高次元の天裁を前にして、オルタンスはそれ以上言葉を荒らげることはしなかった。
彼女は冷徹な気品を保ったまま、シャンテを冷たく見据えた。
「ですが私は、私の法が正しかったと証明される日を、私が任された火星の地から、あなたの地球の行く末と共に見届けさせていただきますわ」
オルタンスはドレスの裾を激しく翻し、その美しい唇に不穏な野望の笑みを残したまま、議事堂を去っていった。
「やったね、シャンテ……!」
ブークリエ神殿の少年神ティアンが、胸を撫でおろし、誇らしそうに微笑みかけた。
「俺の盾はお前のためにある。オルテリウスの魂のノイズは俺が命がけで防ぐから、お前はお前のアミティエの調律を、思いっきりやってくれよな!」
「ええ、ありがとう、ティアン!」
シャンテはゼウスから正式に授かった「7つの道具」をしっかりと胸に抱きしめた。
お花畑のような甘えは完全に消え去り、祖父の信頼と、母ヴィーナスの遺した重い条件が、彼女のアンテナを今までにないほど澄み切らせていた。
今後、地球に誕生するであろう、どこかの組織や巨大な神殿のルールに盲従する信者にはならない。
自分の足で立ち、世界を見つめ続ける、孤独で自立した一人の女神として。
シャンテとティアンの二人は、アポロンの光を浴びながら、火星と木星の間に漂う前世の傷跡を見つめ、そして青く輝く新星・地球の地表へと、力強く最初の一歩を踏み出して旅立っていくのだった。
第5話へつづく




