第三話:テトラグラマトンの天秤、そして三者の火花1
宇宙の最高意思決定機関「テトラグラマトン」。
それは、全宇宙に散らばる無数の生命惑星の周波数を、命の源流である「大いなる平穏の海」と同調させるための、巨大なコントロールセンターである。
この世界において、星そのものもまた、独自の電気信号を持つ一つの巨大な生命体であった。
オルテリウスがあまりに唐突な消滅を迎えた際、惑星そのもの、そこに住んでいた数億の生命のその激しい「死のノイズ」は宇宙の電波を汚染し、新しく生まれたばかりの地球の周波数さえも狂わせようとしていた。
そのノイズを調律し、宇宙の交響曲を保つことこそが、テトラグラマトンの神々に課された大いなる営みなのだ。
その大議事堂の玉座の前にて、エリート女神オルタンスの冷徹な名乗りが響き渡った。
「地球の創世、そして宇宙のノイズの調伏——それならば、この私にお任せくださいませ。我が『オーディル神殿』の厳格な規律を用いて、生命を徹底的に管理し、力技でバグを押さえつけてみせましょう」
その傲慢な割り込みに対し、シャンテの心に本当の火がついた。
彼女は人が人として尊重し合い、支え合う最高潮の心の電波を育む「アミティエ神殿」で育った女神だ。
力や恐怖で支配するだけのオーディル神殿のやり方では、傷ついた魂の電気信号(残留思念)は決して救われないと、直感的に悟っていた。
シャンテはまっすぐに前を向き、凛とした声でオルタンスを遮った。
「いいえ、オルタンス! ゼウスおじい様は、私にこの地球を託してくださったのよ。可愛い動物や花々が愛し合える、本当の楽園を創るために。この星は、私がちゃんと責任を持って導きます!」
しかし、オルタンスはふっと冷ややかな笑みを漏らし、シャンテを完全に馬鹿にしたような眼差しで見つめ返した。
「ふん、あなたのような未熟なアミティエの女神が、生ぬるい愛や友情だけで、あの凄まじいオルテリウスの未練の電波に耐えられるとでも? 理想とお花畑に溺れて、星の意識ごとノイズに呑まれるのがオチですわ」
「な……っ!」
言葉に詰まるシャンテの前に、ボロボロになりながらも一歩を踏み出したのは、盾と防衛を司る「ブークリエ神殿」の少年神、ティアンだった。
彼は自らの身を挺してオルテリウスの圧力をせき止め、シャンテのアンテナを守ろうとしていた。ティアンは息を荒らげながら、オルタンスを強く睨みつけた。




