第二話:盾持つ少年の警告、そして誇り高き割り込み
祖父ゼウスの部屋の重厚な扉が、突如として激しい音を立てて撥ね開けられたのは、シャンテが「7つの道具」を前にしてエデン・チューナーとしての命の重さに息を呑んだ、その直後のことだった。
「ゼウス様! 申し訳ありません、どうしても、今すぐお伝えしなければならないことが……っ!」
元老院の屈強な衛兵たちが「これ以上は駄目だ!」
「下がれ!」と必死に抑え込もうとするのを強引に振り切り、一人の少年神が部屋に飛び込んできた。
衣服を乱し、ハァハァと激しく肩を上下させて息を切らしているその少年は、宇宙空間の境界線でオルテリウスの残響を物理的に食い止めている前線の防波堤を張り巡らしていた神——名を、ティアンといった。
シャンテのような女の子の神様の姿に合わせた、見た目は少し華奢で可愛い系の男の子だったが、その小さな身体には宇宙の圧力を受け止めるだけの重厚な盾の神力が宿っている。
しかし、今の彼の表情は、焦りと恐怖で完全に凍りついていた。
「どうしたというのだ、ティアン。慌ただしすぎるぞ」
ゼウスが低く威厳のある声で咎めるが、ティアンは床に両手をつき、必死に訴えかけた。
「オルテリウスの跡地を守るシールドが、もう限界なんです! 先ほどから、前世の星の凄まじい『未練の電気信号』が、嵐のような圧力となって押し寄せています!
俺がどれほど盾を支えても、防ぎきれないノイズのバグが、すでに新星・地球の地表へ漏れ出し始めているんです!」
ティアンはそこでようやく、傍らに立ち尽くす見習い女神のシャンテに気づいた。
彼女が今から地球へ旅立とうとしている、その無防備でまだ幼い乙女の姿を見て、ティアンはさらに声を荒らげた。
「ゼウス様……まさか、今のままシャンテを地球に行かせるおつもりですか!? 危険すぎます!
彼女はまだ、あのスクリーンの大氾濫(残留思念の嵐)を経験したことがない!
まだお花畑みたいな可愛いお庭造りの空想に耽っているような彼女があの理不尽な悲しみの電波をまともに浴びたら、意識のアンテナを狂わされて、ノイズの波に呑み込まれてしまいます!」
「それは——」
シャンテが思わず一歩を踏み出し、反論しようとしたその時。
開け放たれたままの回廊の奥から、ティアンの必死の叫びをかき消すような、涼やかで、凛とした声が響き渡った。
「——ティアンの言う通りでございますわ、ゼウス様」
現れたのは、シャンテと同じ年頃でありながら、すでに数々の神殿の厳格な教義を完璧に修め、
常に優雅で隙のないエリート女神——オルタンスだった。
彼女は流れるような仕草で一礼すると、どこか冷ややかで傲慢な笑みをその美しい唇に浮かべ、シャンテを値踏みするように見下ろした。
「まだ日常の悲しみすら知らない未熟なシャンテに、オルテリウスの凄まじい残響の調律など、到底不可能です。
神殿の一つ、オーディルのルールを用いて生命を完璧に管理し、力技でバグを押さえつけることなど、彼女の頭では思いつきもしないでしょう」
オルタンスはゼウスに向き直り、自信に満ちた声で堂々と言い放った。
「ゼウス様。地球の創世、そして宇宙のノイズの調伏——それならば、この私にお任せくださいませ」
必死に息を切らすティアン、傲慢な笑みを浮かべるオルタンス、そして、突きつけられた過酷な現実を前にして拳を強く握りしめるシャンテ。
地球という新しい惑星を巡り、神々の部屋の空気は、張り詰めた緊張感で完全に満たされるのだった。
第3話へつづく




