第八話:媒介土発動と八百万の還流1
ティアンが華奢な両手を虚空へ突き出し、衣服を乱しながら「ハァ、ハァ、ハァ……!」と激しく、引き裂かれそうな息の音を響かせている半透明の防護ドーム。
そのバリアの外側では、数百度の灼熱の熱風と硫黄のガスが「ジジジジジ……!」と激しい火花を散らして結界を焼き、混線したオルテリウスの日常の幻影がドームの表面にぶつかってはノイズとなって弾けていた。
『ループ(真実の観察鏡)』のレンズの向こう側に映し出される、あまりにも生々しい生活者たちの体温。
夕方の市場で「今日もお疲れ様」と笑顔を交わしながら店じまいをする商人。
学校帰りの風に吹かれながら、他愛のないおしゃべりをして電車の窓から夕暮れを見つめる学生たち。
「これを今日の夜までに提出しなきゃ」と、日誌の帳簿を閉じようとして必死にペンを走らせている労働者。
彼らは、自分の肉体が1500kmの超巨大天体の激突によって一瞬で吹き飛んだことなど、微塵も気づいていない。
だからこそ、その高い「生の周波数」のまま時間がフリーズし、何の免疫もない赤ん坊の地球のマグマの熱気へと、居場所を求めて磁石のように吸い寄せられ、大氾濫を起こしていた。
レンズの向こうの少女が、電車の窓の外に、急にマグマを見出した。
ふと愛らしい眉を曇らせる。
「……あれ? 何だろう。なんでか分からないけど、何かがおかしい気がする……」
商人も手を止め、狂った雷鳴の轟く空を見上げて呟く。
「何がおかしいんだろう……。私は、何か大切な約束を忘れているのだろうか……」
普通の生活を送りながら、理由のない、言語化できない「何かがおかしい」という切ない違和感の電波を放ち、何度も同じ一歩を繰り返しているカゲロウたち。
その魂の震えをアンテナで受け止めたシャンテの目から、大粒の涙が止まらなくなっていた。
「ティアン……この人たち、普通の生活の裏で、みんな気づき始めてるわ……。何かがおかしいって、自分たちの電波が迷子になっていることに、魂が小さく震えているのよ……!」
「シャンテ、泣いちゃダメだ……っ! 同情して彼らの低い周波数に巻き込まれたら、君のアンテナまで狂わされて、ノイズに呑み込まれちゃう!……マグマが、マグマの対流がまた激しくなってきた、このままだと地球の赤ん坊の意識が完全に消えちゃうよ!」
ティアンの悲痛な叫びがドーム内に響く。外側のノイズの圧力は増し、バリアの表面には亀裂のような火花が走り始めていた。
ティアンの悲痛な叫びがドーム内に響く。
外側のノイズの圧力は増し、バリアの表面には亀裂のような火花が走り始めていた。




