第七話:無垢なる赤子の胎動、そして死を知らぬ陽炎3
普通に生活している彼らの、その穏やかな体温の裏側から、信じられないほど微弱な、しかし確実に歪んだ「異常の電気信号(電波)」がノイズのように発生しているのを、シャンテは明確に感じ取ったのだ。
ループの鏡に映る女子学生が、電車の窓の外を見つめながら、ふと、その愛らしい眉をわずかに曇らせた。
「……あれ?」
彼女は何かを探すように、鞄の中や、隣に座る友人の顔を見つめる。
「何だろう……。何か、おかしい気がする……」
市場で店じまいをしている商人も、果物の数を数えながら、ふと手を止めて空を見上げた。
夕焼けの空はいつも通り美しいはずなのに、彼の胸の奥で、微弱な違和感の電波がチカチカと点滅している。
「なんでか分からないが……なにか、何かがおかしい。私は、何かを忘れているのだろうか……?」
それは、彼らの意識の最奥に眠る、魂の叫びだった。肉体は一瞬で吹き飛び、脳は何も認識していないはずなのに、彼らの本質の魂は「大いなる海」へと還っているはずなのに、空間にフリーズしてしまった電気信号の残響だけが、
「昨日までの日常と100%同じはずなのに、なぜか戻れない我が家への違和感」
「どれだけ片付けても、明日の朝がやってこないような、得体の知れないズレ」を、無意識のうちに感じ取り始めていたのだ。
普通の生活を送りながら、理由のない、言語化できない「何かがおかしい」という違和感の電波を静かに放ち、カゲロウたちは何度も同じ一歩を繰り返している。
「ティアン……この人たち、普通の生活の裏で、みんな気づき始めてるわ……。何かがおかしいって、自分たちの電波が迷子になっていることに、魂が小さく震えているのよ……!」
シャンテはループを強く握りしめ、その微弱で切ない違和感の電波を、アミティエのアンテナでしっかりと受け止めた。
悪意がないからこそ力では消せない、そして、自分たちが何者かも分からずに日常の檻の中で「何がおかしいんだろう」と惑い始めている無垢な生活者たち。
シャンテはマニュエルの警告と、ループが見せた彼らの小さな違和感の声を胸に、このバグの迷宮を解きほぐすための、真の調律への一歩をさらに深く踏み出そうとするのだった。
第八話へつづく




