第七話:無垢なる赤子の胎動、そして死を知らぬ陽炎2
「なるほど、本人たちの周波数が『正常な日常』のままだから、僕たちの攻撃的な神聖魔術は全部『不適合のエラー』として弾かれちゃうんだね。
でもシャンテ、マグマはどんどん煮えたぎってる。このままだと地球の赤ん坊の意識が、この日常のノイズの海に完全に呑み込まれて、自分の形を保てなくなっちゃうよ!」
「ええ。だから、もっと深く彼らの内側を見つめなきゃいけない。……次はこれを使うわ」
シャンテはマニュエルを閉じると、間髪入れずに次の神具へと手を伸ばした。
金属の冷たい光沢をまとった、空間の電気信号の奥底にある本当の想いを拡大して見通すための真実の観察鏡——『ループ』である。
シャンテがその大型のループを両手で掲げ、バリアの外側でカゲロウのように揺らめく幻影の群れへとそっと向けた、その瞬間。
「……っ!!」
シャンテの視界は、一瞬にして別の次元へと反転した。
ループのレンズを通した向こう側、暗赤色のドロドロとしたマグマの地獄は完全に消え去り、そこには高度な文明を誇ったオルテリウスの、あまりにも生々しく、あまりにもリアルな「生活の体温」が、鮮明極まる色彩で描き出されていた。
夕方の市場。西日に照らされた天幕の下で、商人たちが「今日もお疲れ様」「また明日ね」と笑顔を交わしながら、並べた新鮮な果物や色彩豊かな織物を手際よく仕舞い、店じまいをしている。
学校帰りの学生たちが、カバンを肩にかけ、夕方の心地よい風に吹かれながら、今日あった他愛のない出来事でおしゃべりをし、家路につくための電車に揺られている。
その窓からは、穏やかな夕暮れの街並みがどこまでも美しく見えていた。
オフィスの中では、労働者が「これを今日の夜までに提出しなきゃ、一日の責任が終わらない」と、今日の日誌の帳簿を閉じようとして、真剣な表情でサラサラとペンを走らせている——。
彼らの内側の世界では、彼らが生活していた惑星が滅びたことなど微塵も感知していなかった。
彼らは、1500kmの超巨大天体が時速36万キロで衝突したあの日あの1秒の真っ只中のまま、昨日までと全く変わらない「当たり前で愛おしい日常」を、ただ一生懸命に生きている。
彼らにとって、この世界は何一つ狂っていない、完璧に正常な世界なのだ。
だが。シャンテがさらにループの焦点を絞り込み、彼らの電気信号の深層へとアンテナを近づけたとき、彼女の指先がピリッと震えた。




