第七話:無垢なる赤子の胎動、そして死を知らぬ陽炎1
ティアンが華奢な身体を小刻みに震わせ、衣服を乱しながらハァハァと激しい息を吐き続けている半透明の「ブークリエの防護ドーム」。
その外側では、数百度の灼熱の熱風と硫黄のガスが「ジジジジジ……!」と激しい火花を散らして結界を焼き、混線したオルテリウスの日常の幻影がドームの表面にぶつかってはノイズとなって弾けていた。
足元の黒い岩(原始の地殻)の奥からは、怯えた赤ん坊が泣き叫ぶかのような地鳴りが「ゴゴゴゴゴ……」と絶え間なく響いてくる。
何の免疫も持たない生まれたての地球は、自分が何者かも分からない空っぽの器であるがゆえに、宇宙を彷徨っていた旧オルテリウスの「今日を無事に終わらせたい」という強烈な日常の執着(電気信号)を、まるで磁石のようにすべて地表へと引き寄せ、大氾濫を起こしていた。
「ティアン、お待たせ。もう大丈夫よ。……まずは、この世界のバグの正体を調べるわ」
シャンテの瞳から甘えは完全に消え去り、澄み切った女神の光が宿っていた。
彼女は、灼熱の岩の上で、眩い光を放ちながら広がった「神様7つ道具」の中から、まずは一冊の神聖な書物——テトラグラマトンの中枢コンピュータとリアルタイムで同期する『マニュエル(創世の同期書)』を静かに手に取った。
表紙を開くと、ページは紙ではなく、青く透き通った光のホログラムスクリーンとなって空間に鮮やかに広がった。
地球という赤ん坊の星の精神的磁場データが波形となって次々とスクロールされていく。
画面の最奥で、通常のエデン創世マニュアルには存在しない、真っ赤な警告文字(バグの解析データ)が激しく点滅を始めた。
『警告:第三惑星アースの精神的免疫、現在ゼロ。第四・第五惑星の狭間(小惑星帯)より、旧オルテリウスの日常同期信号が大氾濫中』『対象の性質:怨念エネルギー、未検出。攻撃性、皆無。対象は自身を生存状態と誤認しており、通常の調伏・消去コード(オーディルの法)は、対象の純粋な周波数によってすべてエラーとなり、無効化されます』
「……やっぱり!」
マニュエルが弾き出したエラーコードを見つめ、シャンテは確信を込めて呟いた。




