第六話:虚空のゆりかご、吸い寄せられる体温2
通常では考えられない、宇宙の暗闇から時速36万キロという超高速で突進してきた直径1500km以上の超巨大放浪天体。
それが運悪く直撃したために、オルテリウスはクレーターができる暇すらなく、次の1秒には星ごと粉々に粉砕され、小惑星帯へと姿を変えた。
あまりの唐突さのゆえに、そこに生きていた人々は皆、走馬灯を見る猶予すらなく、自分が死んでしまったことさえ気づいていない。
だからこそ、地球の灼熱の陽炎の向こう側に、ブラウン管テレビの砂嵐のようなノイズを伴って、昨日まで確かに生きていた「生活者そのものの体温」が、生々しくチカチカと立体的に映し出されていた。
夕方の市場で「今日もお疲れ様」と声を掛け合いながら、明日も日常が続くと100%信じて、並べた果物や織物を天幕の中へ大切に仕舞おうとしている商人たちの姿。
一日の仕事を終えて、あるいは学校が終わって、おしゃべりをしながら家路につくための電車や乗り物に揺られている、学生やサラリーマンたちの安堵した横顔。
「これを今日の夜までに提出しなきゃ」と、日誌の帳簿を閉じようとして必死にペンを走らせている、オフィスの中の労働者の指先——。
彼らはお化けのように脅かしているのでも、泣き叫んでいるのでもない。
ただ、日常の愛おしい「一歩の途中」のまま時間がフリーズし、何度も何度も、壊れた機械のように自動再生を繰り返している。
誰もいないはずの原始地球のマグマの上に、彼らの歩く姿や電車の窓の光がノイズの蜃気楼として広がり、地表を引き裂く紫色の稲妻によって、一瞬かき消されてはまた浮かび上がってくるのだ。
「シャンテ、あそこだ! あの黒い岩の上が、今ならまだ沈まない! 降りるよ、僕のバリアから絶対に離れないで!」
ブークリエ神殿(盾・守護)の少年神ティアンが、華奢な身体を前に乗り出し、その小さな両手を虚空へと突き出した。
二人がオリゾンから一歩を踏み出した瞬間、ティアンの手から放たれた半透明の「ブークリエの防護ドーム」が、二人をすっぽりと包み込んだ。
「着地する……っ! うああああっ!」
ティアンは小さな足で、かろうじて島のように固まっている灼熱の黒い岩をしっかりと踏みしめた。
バリアの外側では、数百度の熱風と硫黄のガス、そして混線したオルテリウスの電車の幻影や商人たちの影がドームの表面に激しくぶつかり、「ジジジジジ……!」と凄まじい火花を散らしてバリアを焼いている。
ティアンは衣服を乱し、ハァハァと激しく息を吐きながら、その圧倒的な圧力に対して命がけでドームを維持し続けた。
バリアの内側は、ティアンの健気な神力によって、シャンテの呼吸を守るための清らかな空気と、穏やかな室温が完璧に保たれていた。
しかし、そのドーム越しに見えるあまりにも切ない「死にすら気づいていない日常」の光景に、シャンテの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。




